幕間 管理者の悪あがき
神々が住むとされる領域、『神域』にて――。
「……何という、何ということダ……」
『神域』の主たるレグラの精神は、驚愕と絶望によってグチャグチャになっていた。
下界では、先ほど破瀬鋼侍たちヒトの探索者パーティーによって、バルディア国に巣食っていたX級ダンジョンが攻略されてしまったところだ。
あのダンジョンは、地球の在来環境への〝侵食〟を進める上での最重要拠点だった。
その喪失は、レグラにとって絶対遵守すべき【正典】の崩壊を意味していた。
――「あり得ない」と思ったことが起きてしまった。
精神体であるレグラは、『神域』の中をふらふらと右往左往する。
「主に……テラ様になんとお詫びをすれバ……」
もしレグラが中世日本の武士であったならば、この場で腹を切って自害していたかもしれない。
レグラの精神はそれほどまでに、後悔と自責の念でいっぱいだった。
――そのテラがすでに別の大いなる神々や、その元眷属たちに屈服していようとは、レグラには知る由もなかった。
レグラは独り言を言う人間のように、ぽつりぽつりと言葉をつむぐ。
「もう、あのダンジョンは使えナイ……。世界の〝融合〟は大きく遠のいタ……」
レグラの言葉は続く。
受け入れがたい事実を、事実として受け入れるために。
「【正典】は完全に壊れてしまっタ……。もはや元の流れに戻すことは不可能……」
――――しばらくの沈黙が下りた。
その間、レグラの精神は目まぐるしく計算を続けていた。
最善の結果を望むことはもうできない。
それは、妥協点を探るための計算だった。
……今の状況は目も当てられない。
テラ様に報告するにしても、もう少しマシな状況にしてからだ。
――レグラはそう考えた。
以降、レグラは事態の改善のために2つの策を立てる。
1つめの策は、計算によって得られた次の解にもとづくものだ。
「…………初期目標の60パーセントを達成し得る解アリ。ただし、その可能性ハ…………」
可能性は高いとはいえなかった。
それでも、レグラはそれにすがらざるを得なかった。
「――――【主人公】に接触する。【彼】に働きかけ、事態を良い方向に導くための協力を要請スル」
世界にとっては、新たな管理者の介入。
それ自体、【正典】に記されてなどないイベントだ。
事が上手く運ぶかどうかは、未知数だった。
「【主人公】が協力的ナラ、狂った【正典】を少しでも元のモノに近づけられるかもしれナイ…………」
――これが1つめの策だった。
当然、レグラはこんなギャンブルのような策だけに頼ることはしない。
「――それが駄目ナラ、別のS級ダンジョンで新たな〝侵食〟ヲ起こす。いずれにせよ、X級ダンジョンの代わりは必要」
そして、これが2つめの策だ。
更に、この2つのプランを確実に遂行するため、レグラはある決意をする。
「我は、下界に降りル」
――それはレグラがこの世界の管理を任されてから、初めて取る行動だった。
〝神〟の降臨。
それ自体が、地上を揺るがす一大事件になることは間違いない。
他の世界の神が知れば、きっとあきれることだろう。
……が、レグラとしては、なりふり構っていられる状況ではなかった。
レグラに下界行きを決意させた理由は、もう1つあった。
それは、これまで散々【正典】を壊し尽くし、自分を苦しめ悩ませてきた〝ある者〟の存在だ。
下界行きを前に、レグラはその者への敵意をたぎらせる。
「――そして我みずから、〝特異点〟たる〝ハセコー〟をこの手で必ず抹消スル!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次話から波乱だらけの最終章が幕を開けます。
ぜひ最後までこの物語をお楽しみください☆




