#6 事情聴取
――その翌日。
津川瑠依は、疑惑の対象である配信施工員――破瀬鋼侍を早速ダンジョン管理局の東京本部に呼び出していた。
「来てくれてありがとう、破瀬君」
「いえいえ」
瑠依はまず、鋼侍を面談用の小さな個室に案内した。
2人は小さなデスクをはさんで、向き合って座る。
デスクの上には、瑠依が用意したコーヒーのカップが2つ置かれていた。
「……昨日のことですよね?」
鋼侍が面談の目的を確認した。
『――昨日の龍ノ顎ダンジョンでの対応について、念のため確認したいことがある』
すでに鋼侍は瑠依から、そのように連絡を受けていた。
瑠依はうなずき、いぶかしむように眉根を寄せる。
「そうね。――どうしてあんな無茶をしたの?」
「えーっと……」
鋼侍の目が泳いだ。
彼は妹――さららのため、という理由を正直に明かすかどうか、迷った。
そんな鋼侍の迷いを察してか――、瑠依は理由の追及をやめることにする。
「……まあ、理由は一旦置いておきましょうか。元々、私が無理言って頼んだことだし」
「いえ……、すいません」
鋼侍はほっとしつつも、ばつが悪い顔で頭を下げた。
ここで瑠依にとって、単独行動の理由を明らかにするのは主目的ではない。
――肝心なのは、鋼侍が本当にS級ダンジョン内を単独で行動できるような能力を持っているのかどうか、だ。
もしそれが事実であれば、鋼侍はただの配信施工員を逸脱した強者――ということになる。
「――活動中のS級ダンジョンに入ったのは初めてでしょう? 危ない目にはあわなかった?」
「いやー、意外となんとかなるもんですねぇ」
瑠依の問いに対して、鋼侍はふだん通りあっさりと回答する。
瑠依は龍ノ顎ダンジョンで記録された鋼侍の足取りを元に、いくつか細かい質問をした。
「『カスミ』と接触したのよね?」
「……いえ、ちょっとすれ違っただけですよ」
「そう……」
(――ウソ、ね)
瑠依はそれを直感的に察したが、それ以上深掘りすることはやめておいた。
――まさか、S級探索者の危機を救って、モンスターをパンチ1発で仕留めたとは、夢にも思わなかった。
「…………なるほどね」
ひと通りの聞き取りを終えた瑠依は、コーヒーに口をつけながら考えを整理する。
東大卒の優秀な頭脳を持つ瑠依は、すでに結論に至りつつあった。
「――ともあれ、生きて帰ってくれて良かったわ。優秀な配信施工員は貴重だから。今後は無茶はしないでね」
瑠依はそのような形で、今回の聞き取りを締めくくった。
「ハ、ハイ!」
鋼侍は思わぬ形で自分への高評価を聞き、顔を赤くした。
瑠依は座席から立ち上がり、空のカップを回収する。
そのついでのように、鋼侍にもう1つの頼み事をした。
「破瀬君、まだ時間はある? 1つ、簡単な検査を受けてもらいたいんだけど」
「検査ッスか? まあ、すぐ終わるんなら……」
「大した検査じゃないのよ。――ほら、探索者資質検査よ。破瀬君、ずっと前に測ったきりでしょう?」
――探索者資質検査。
それはその名の通り、人間の探索者としての資質・適性を計測するための検査だ。
鋼侍は4年前、配信施工員の仕事を始めたとき以来、検査を受けていなかった。
「あー……、確かにそうですね。まあ、構いませんよ」
そんな鋼侍の了承を得て、瑠依は心の中でガッツポーズを決めた。




