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ダンジョン配信課の裏方エンジニアが実は最強だった件 〜配信で規格外の実力がバレたので、探索者になってS級美女ヒロインとダンジョンで無双する〜  作者: 卯月 幾哉
3章 龍門の滝登り

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#51 X級ライセンス【鋼侍視点】

 11月19日、土曜日の朝のことだ。


「ふわぁっ……」


 やや遅く起きた俺――破瀬(はせ)鋼侍(こうじ)は、ベッドの上で大きなあくびをした。ここは、入居からようやく1か月になろうとしているマンション『グランド・ホライズン』の自宅内だ。


 俺と叶純(かすみ)が東京に戻ったのは、昨夜のことだ。


 大阪のS級ダンジョンである鬼哭(きこく)(とうげ)ダンジョンは、14日月曜の内に俺たちと世音(ぜおん)さんの3人で攻略した。

 S級ダンジョンは、ダンジョンが消えてから再出現までのインターバルも長い。管理局の見立てでは、1年弱ほど掛かる見込みだそうだ。


 ――じゃあ、その後向こうで何をしてたんだ……って思った?


 基本的には俺と叶純の2人で、負傷で安静が必要になった世音さんの代わりを務めていた。A級ダンジョンで、モンスターの間引きを手伝ったりとかだな。

 世音さんは来週には復帰できそう、ということで、叶純と俺は予定通り昨夜帰京した、というわけだ。


 その世音さんと最後に話したのは、新大阪駅で新幹線に乗る直前のことだ。


『――鋼侍、今や「国内最強」の座はお前のもんだ。これからの日本の探索者界は、お前が引っ張って行ってくれよ』


 世音さんの言葉は俺にとって、寝耳に水だった。


『えぇっ!? なんスか、それっ!?』


 俺が素で驚きあわてると、なぜか世音さんの笑顔がピキッとひきつった。続いて、半眼でじっと俺を見てきた。


 ――あ、ダメだコイツ。全然わかってねぇな。


 言葉にはしなかったが、そんな心の声が聞こえた気がする。


『……叶純、お前からしっかり説明してやってくれ』

『はい。任せてください』


 その後、俺は新幹線の車内で叶純からこんこんと説明を受け、自身に対する評価を改めさせられることになった。


 ……俺って、そんなにすごいことしてたのか……?

 ――それ、本当に俺の話か……?


『だーかーらー、鋼侍は本当にすごいんだって!』


 東京に着くまでの3時間足らずで、叶純に何回そう言われたかわからない……。



    †



「お(にい)、朝ごはん温め直そうか?」

「あ、悪い。頼むよ」


 顔を洗ってダイニングルームに出ると、すでに朝食を終えていたさららが俺の分も用意してくれていた。

 ――うん。いつでも嫁に出せるな。……まあ、出さんが。


 数日家を空けていたから、今日は家でゆっくりするつもりだ。

 さららも特に用事はないそうだから、今日は兄妹(きょうだい)水入らずで過ごせるかな?


「ふぅー、食った食った」


 さららの愛情たっぷりの朝食を食べ終えて、少しくつろいでいたころ――


 ピンポーン


 壁に取り付けられたインターホンから、呼び出し音が鳴った。

 マンション1階のエントランスに、誰かが訪ねて来たのだ。


 さららがトテテと動いて応対する。


「どうぞ〜」


 ……なんだ? 荷物でも届いたのかな?


 1分ほどして、今度は部屋の玄関からチャイム音が響く。


「お(にい)、出てくれる?」

「あいよ」


 この間にさららは部屋に引っ込んでおり、中で何やらガサゴソとやっていた。


 何の警戒(けいかい)もなく、玄関に行ってドアを開けた俺は――心臓が止まるかと思った。


「おはよ、鋼侍(こうじ)


 そこに立っていたのは、伊達(だて)メガネと明るい髪色のウィッグで変装した叶純(かすみ)だった。

 彼女は上機嫌そうで、喜びを隠しきれないような笑顔を浮かべていた。


「か、叶純ぃ!? ど、どどどっ……」


 予想外の出来事に、俺の脳内は一瞬でパニックになった。


 ――なんで叶純がっ!? 今日なんかあったっけ!?


「……入ってもいい?」

「あ、ああ。悪い」


 少し遠慮ぎみに()かれて、あわてて叶純を室内に招く。

 ドアが閉まると、ふわりと甘いシトラスの香りを感じた。


 ――やべっ。俺、髪とかボサボサじゃね?


 寝起きで朝食を食べたばっかりだ。……歯もみがいてねぇぞ。


「と、とりあえず上がって。あれぇ、スリッパどこだっけなあ?」

「いいよ。このままで」


 あたふたとしながら叶純をリビングへ案内する。

 さらら! ヘルプ、ミー!


 すると、さららが自分の部屋から顔をのぞかせた。


「あ、叶純さん。いらっしゃい。ごゆっくり〜」

「おはよう、さららちゃん。ちょっとお邪魔(じゃま)するね」


 そんな会話の後――さららは、またパタンと部屋のドアを閉めた。

 ――おぉいっ! 手伝ってくれんのかいっ!


 胸中でさけびつつ、リビングまでたどり着く。


「と、とりあえず、ここでゆっくりしててくれ」


 お茶でも用意するか、と思ってキッチンに行こうとしたところ、荷物を置いた叶純に呼び止められる。


「あ。鋼侍、待って」


 左手を触れられ、ドキッとしながら振り返る。

 お、おう……。叶純が俺の家にいるぞ。なんだ、この状況は……? 奇跡か?


「これ見て」

「ん……?」


 叶純が取り出したのは、1枚のカードだ。

 見れば、俺の名前が印字されている。

 ……探索者証? なんでまた――


 そこで、その更新された探索者ライセンス証のある部分の表記に気づき、俺はぱちくりとまばたきを繰り返す。


「え……? え、えっ、エックス級〜〜〜〜っっ!?」


 驚きのあまり、俺はマンションの部屋中に響くほどの大声を上げてしまった。


 その次の瞬間のことだ。


「――おめでとう、鋼侍!!」


 なんと、俺は叶純に正面から抱きつかれていた。


 ――ファァっッ!? ちょ、ちょっ……ちょっと、叶純さんっ!?


 それは俺にとって、X級ライセンスよりもずっと大きな衝撃だった。


「か、叶純っ!?」


 息を吸った瞬間、叶純の香りで肺が満たされる。


 ――あ、ヤバい。幸せで()きそう……


 叶純は抱きしめた腕を少し緩める。

 至近距離で、上目(づか)いの叶純と目が合う。


 ――アァーッッ!! お客様、いけません! この距離は、この距離は刺激が強すぎますッ!!


 もうドキドキが止まらん。


 そんな俺の心境など知ってか知らずしてか、叶純が輝くような笑顔で言う。


「鋼侍、これでギルドを離れなくてよくなったんだよ!!」

「…………えっ?」


 ――そうなの? なんで……?


 俺の顔の疑問符に気づいたのか、叶純が相変わらず俺を抱きしめた体勢のままで理由を説明してくれる。

 ……も、もうちょっと離れて話してくれないと、俺、頭に入らないかもな〜


「条文の文言を思い出して」

「な、なんだっけ……?」

「〝特定等級(S級)に該当する探索者を、同一の事業所内において複数名所属させてはならない〟――つまり、X級はこの条文にふくまれてないんだよ!」

「! そういうことか!」


 そういうことらしい。

 要するに、俺がX級に上がったから、条文の該当条件から外れたんだ。

 ……もしかして、考慮もれ?


 ――いや、考えてみれば仕方ないか。

 条文ができたのは何年も前のことだろう。X級なんて、そのときには存在さえしていなかったはずだ。


「本当に良かった……!」

「叶純……」


 俺はまた、感極まったようすの叶純にしっかりと抱きしめられていた。

 ……あの、叶純さん……そんなに密着されると、お胸の方がですね……いや、大変けっこうなお胸様ではあるのですが……


 俺は自分の余った両手をどうしていいかわからず、空中でふらふらとさまよわせていた。

 そんなとき、またパタンとドアの音が聞こえた。


 俺はホッとした。さららが部屋から出て来たんだ。

 ――良かった。これで、2人っきりじゃなくなったぞ。


 ところが、出て来たさららの格好を見て、ギョッとした。


 ……あれ? あいつ、なんでコートなんか着てるんだ? 『今日は用事はない』って言ってなかったか……?


 しかし、この後のさららのセリフは、俺の(はかな)い期待を粉々に打ち砕くものだった。


「――じゃあ、私しばらく帰って来ないから。後は2人でごゆっくり〜」


 なんだって!!


「お、おいっ! さららっ!」


 俺は必死に呼びかけたが、さららは「わかってるよ」とでも言うようにうなずくばかりだ。それからビシッと片手で親指を立てたかと思うと、背を向けてそそくさと去って行く。


 ――おい、さらら。そのサインはどういう意味なんだ……?


 ガチャリと音を立てて玄関の扉が閉まる。さららがしっかりと鍵を掛けたことが、音でわかった。


「鋼侍と離れずに済んで、良かった……」


 ……あ、ハイ。そうですね。……うん。それは良かった。


 ――涙ぐむ叶純に抱きつかれたままの俺は、この場から動くこともできず。


 お、おい! まずいって!


 部屋で2人っきりは、まだ心の準備が…………




3章の物語はここまでです。キャラ紹介をはさんで次章へ進みます。


引き続き本作をお楽しみください。


ここまでの評価を、ぜひ★の数で称えてください!

ランキングでの順位に加えて、作者のモチベーションにも反映されます!

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