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#48 鬼哭峠ダンジョン④X級ボス戦【叶純視点】

「――すごい……」


 鋼侍(こうじ)と、彼が「アシュラ」と呼んだ三面六臂(さんめんろっぴ)の怪物。1人と1体の激しい乱打戦を見ながら、私――天王寺(てんのうじ)叶純(かすみ)は、鋼侍への畏敬(いけい)の念を新たにしていた。


「鋼侍より前には出るな。いいな」

「はい」


 世音(ぜおん)さんの忠告は正しい。

 ……正直、たとえ頼まれても断りたいぐらいだ。


 アシュラとまともに打ち合った結果が、さっきまでの世音さんの右腕の惨状(さんじょう)なのだろうし。


 その世音さんは、右手の感覚を確かめるようにグーとパーの動きを繰り返していた。

 ほんの2、3分前まで、世音さんの右腕は赤黒く(ふく)れ上がっていた。表面が比較的きれいだったのは、世音さんが使ったというA級ポーションの治癒(ちゆ)効果だったのだろう。

 複雑骨折をも()やすS級ポーションでさえ完治には至らないほど、腕の内部がボロボロになっていたようだ。この短時間で動かせるようになったのは、常識的に考えればあり得ない奇跡だろう。


「……全力を出せるのは、よくて1発ってとこか」

「――了解です」


 その1撃をどれだけ効果的に使えるか――それが、この勝負の明暗を分けるかもしれない。


「ひとまず、俺は牽制(けんせい)に務める。メインアタッカーはお前だ、叶純」

「はい」




 私たち3人とアシュラとの戦いは、数十分に及んだ。

 序盤こそ鋼侍に頼りきりだったが、私たちの連携は少しずつ上手く回るようになった。

 半月前、龍ノ顎(りゅうのあぎと)ダンジョンで共に戦った経験は無駄ではなかった。


 しかし――、


「クソッ、またかよ!」


 世音さんが悪態をついた。


 私がアシュラの左側の腕を2本まとめて斬り飛ばした直後のことだ。

 アシュラの首がくるりと回転し、慈愛(じあい)あふれる如来(にょらい)のような顔が正面を向いた。

 すると、失われた2本の腕がみるみる内に再生したのだ。


《どないなっとんねん!? さっきから殴っても切っても、与えたダメージ全部元通りやないかい!》

《再生能力ね……。一部のモンスターが持ってる能力だけど……。あそこまで行くと、もはやチートね》


 スマートコンタクトレンズを装着した視界の片隅に、視聴者の驚愕(きょうがく)を示すコメントが流れる。

 私たちは今、関係者限定のライブ配信を行っているのだ。


 私の心境も視聴者たちと大差なかった。


 決定打が足りない。

 ――このままでは、こちら側の疲労だけが溜まっていく。


 ぎりっ、と歯を食いしばる。


 戦いが続くにつれ、アシュラの攻撃が徐々に鋼侍の動きを(とら)え始めていた。

 ――なんで私は、鋼侍の隣で戦うことができないんだ……!


 ついに、鋼侍のガントレット『破天(はてん)』の一部が破損して、砕けたパーツが弾け飛んだ。


《お(にい)!》

鋼侍(こうじ)!」


 さららちゃんと思わしき視聴者コメントと同時に、私は悲鳴のような声を上げた。


「大丈夫だ!」


 すぐに鋼侍の力強い声が返って来たことで、私はホッとした。

 確かに、鋼侍は敵の攻撃を被弾することが増えていたが、動きは機敏なままだった。

 でも、それもいつまで持つか……。たとえ鋼侍のSPが無限でも、精神的な疲労からは逃れられないだろう。


 ジリジリと(あせ)りだけが(つの)っていた。


 それから、また20分ほど()った頃だっただろうか。

 首筋に着けたパッチフォン――骨伝導式の音声デバイス――から、ついにアシュラ攻略の糸口となる情報がもたらされた。


『――敵モンスターの〝(コア)〟を破壊してください! いま管理局から情報が入りました』

「! コイツ、(コア)持ちだったのか!」


 オペレーターを務める見晴さんの言葉に、世音(ぜおん)さんが反応した。


 〝(コア)持ち〟――スライム系やゴーレム系のモンスターに見られる特徴だ。こういったモンスターは、(コア)が唯一の弱点であるケースが多い。アシュラもそうなのだろう。


「鋼侍! 敵の(コア)の位置はわかる?」


 私はダメ元で鋼侍の背中に(たず)ねた。

 返事はすぐにあった。


「たぶん!」


 数秒後のことだ。

 鋼侍は両手両足でアシュラの6本の腕の攻撃をさばき切り、右拳のガントレットでアシュラの心臓の位置に激しい突きを放った。


「ここだ!」



 ――――瞬間、アシュラの動きが硬直した。



 今だ!


「――断空」


 私は鋼侍の離脱を確認した上で、必殺の居合斬りを放った。

 アシュラの胸にひと筋の亀裂(きれつ)が走り、黒々と光る(コア)が露出する。


 ――駄目だ! 浅かった……!


 私が己の力不足を恥じたそのとき。

 ――私たちのもう1人の仲間が、背後から飛び出していた。


「鋼侍! 叶純ぃ! お前ら、最高だぜ!!」


 その1人とは、言うまでもなく世音さんのことだ。

 彼はすでに、両手で槍を構えていた。


《今よ! チャンスだわ!!》

《行っけーーッッ!!》

《頼んますっ! 世音さん!!》


 一瞬の内に、そんな視聴者コメントが視界の(はじ)で飛び交っていた。


「大楠の技で()け! ――『菊水・一輪(いちりん)()し』!!」


 世音さんの渾身(こんしん)のひと突きが、アシュラの(コア)の中心を貫く。

 その直後、黒色の(コア)は粉々に砕け散った。






お読みいただき、ありがとうございます。

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