第57話 苛烈と0歳児
お尻をつねられながらも、それを顔に出さずに聖フランボワーズと会話を続ける。
「それで……これは……?」
「はい、あなたを『死霊術』で呼び起こしました。怒らないでください」
「まあまあ……はい、許しましょう」
許された。
「きっと、何か事情があるのでしょう? よければお聞かせいただけるかしら」
「はい、実は――」
さすが、史上最も穏やかと称された聖女。
禁忌の技を用いたにもかかわらず、事情を汲もうとしてくれている。
こちらも、せめて誠意を尽くそうとありのままのことを話す。
母様を救いたいこと、闇の魔法が使えること、犯人を追うために実験していること。
ついでに自分の身の上も軽く。
「――ということなのです。聖フランボワーズ様、身勝手な理由でお呼びしたこと、本当に申し訳ありません」
事情を説明し終わると、聖フランボワーズ様は悲しそうに目を伏せる。
「それはそれは……辛かったでしょう? おいで坊や、お姉ちゃんの胸でお泣き」
「はい」
豊満な胸に飛び込もうとしたが、しかし体が動かなかった。
お尻を起点として、全く動かない。
おかしい、ロロップの強靭さは足だけではなかったか。
「――いえ、僕に泣いている暇はありません。他の方も呼び起こさせてもらおうかと思っていますので」
「あ~……そうねぇ~……う~ん……」
しかし渋り顔の聖フランボワーズ様。
当然か、聖女として死霊術の行使など絶対に止めるだろう。
「……そうね、あの人がいいかな。えっと、確か……マーリユス様」
「マーリユス、様? “史上最も苛烈”な?」
「そうそう。よく知ってるね~、勉強してて偉いね~」
聖フランボワーズ様。どこか母様に似ていて今すぐ飛びつきたくなる。
その反対、聖マーリユス様と言えば非常に好戦的、敵即浄化、そんな女性だったと本で見たことがある。
その彼女に死霊術を使ったことがバレたら拳骨じゃすまないだろう。多分死ぬ。
「大丈夫よ~、多分」
「多分じゃあ困るんですが……」
「でも、きっとお母様を助ける手立てになるよ?」
「……………………やります」
苦渋の決断。
しかし母様を救う手立てと言うのならばやらない手はない。
今の間は、覚悟に必要な間だ。頭が取れないように祈った間だ。
「ではいきます……『死霊術』そして『聖なる癒し』」
「……やっぱり、そうよね」
聖フランボワーズ様が何か呟いたが、地面をせり上がってくる衝撃と、この後頭を襲うであろう衝撃に備えることに意識を向ける。
痛いのは嫌だ。
「……む、ここは?」
ボウズと言えるほど非常に短い金色の髪、女性かどうか怪しくなるほど筋肉で膨れ上がった肉体。
それが聖マーリユス様だった。
見るからにけんかっ早そう。イカツイ。怖い。
「待ってください、先ずは話を聞いてください! 殴るのはその後で!」
「はぁ?」
「じ、実はですね――」
先ほどと同じように、今までのことを説明する。
聖フランボワーズ様が隣にいてくれるのが心強い。
ロロップは相変わらずお尻をつねっている。
「……そうか」
「はい、痛くしないでください」
「ふっ、殴らんよ」
「はえ?」
意外、そして……先ほどまで失礼なことを考えていたことを後悔する。
僕を見つめる彼女――聖マーリユス様の顔は、まぎれもない聖女のものだった。
母様や聖フランボワーズとは種類が異なるが、そのまなざしと微笑みは、力強く優しい。
「……美しい」
「は?」
「――あ、失礼しました。しかし……母様は史上最かわですが、あなたは史上最美くしです」
「何言ってんだおまえ」
「……ごめんなさい」
蒼い目を丸くさせている聖マーリユス様、その様子からあまり美しいと言われたことがないようだ。
しかし僕は嘘をつかないことを信条にしている。信条に反してしまうことがあるのは仕方ない。
「ふっ、変な子どもだ。こんな傷だらけの顔、美しい訳ないだろう?」
「いえ、それすらも美しい。きっとあなたは――痛いっ!?」
お尻の痛みが限界を超え悶絶していると、聖フランボワーズ様が代わりに口を開く。
「坊やの聖魔法、どう思いますか?」
「貧弱だな。史上最弱かもしれん」
「そんなっ!?」
そんな訳……少なくとも“最強”より強いはず!
“最弱”だけど“最強”です……ゲシュタルト崩壊しそうだ。
「お前――フランボワーズと言ったか? お前が私を選んだと言ったな」
「はい」
「つまり、そういうことか?」
「はい、お願いできますか?」
聖女同士で何か通じることでもあるのだろうか。
お互い何かを伝え、何かを納得している。
僕には全くわからないが。やはり女性ではないからだろうか。
「まあいいだろう。これも主の思し召し。遠き未来の頼りない後輩への手向けだ」
「ふふ、マーリユス様を選んで正解でした」
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