第39話 言葉にならない0歳児
考えるより先に走り出していた。
肉体を『オーラ』で強化するが、子どもの肉体、ロロップの足元にも及ばない。1歩が遠い。
「――――ッ!」
時間を稼ぐためにシンプルな光弾を飛ばす。
対人間相手にはただの魔力の塊に過ぎない。加えて緊張と焦りからか魔力の練りが甘い。
それでも時間稼ぎになればと飛ばした光弾は、仲間らしき男に弾かれた。
「(仲間がいたのか!)」
先に入室していたと思われる男。
最初の男と同様に外套で身を隠しているが、隠しきれないほどの筋肉の鎧を纏っている。
更にもう1人、女性のような体形の者もいた。
しかしその身のこなしからただ者ではないと思われる。
「…………!」
「ぬっ!?」
最初の男がこちらに気が付き振り向いた。
駆ける足を緩めない。
アステラと男たちの間に入れば僕の勝ちだ。
どうにかして潜り抜けなければ。
「――ッ!」
「なっ!?」
光の剣――これも形だけだが、それを作り出し最初の男めがけて投げ飛ばす。
がたいのいい男が盾になる形で庇う。
しめた、隙間が空いた!
「……はぁはぁはぁ……」
「イクラウス、様……?」
「……これはこれは」
ついに、僕はアステラの傍にたどり着いた。
彼女を胸に抱きながら、男たちと対峙する。
「ぼ――余の周囲には常に『聖女の守り』が展開されている! あらゆる害意を弾く絶対の盾! この子を傷つけることは不可能になったぞ!」
間に合った。
助かった。
守ることが出来た。
よかった……。
だけど。
何でこの子がこんな目に合わなきゃいけないんだ……!
「この子は……この子は昨日病気が治ったばかりなんだぞ……! やっと好きなことができるって喜んでいたんだ! それなのに……それなのに傷つけようだなんて、絶対に許さない!」
「イクラウス様……!」
思わず涙があふれる。
母様、僕に勇気を! この子を守れる力を!
「…………」
「よい」
がたいのいい男が拳を構えるが、最初の男が手でそれを制する。
後は……騒ぎを聞きつけた教会の援軍を待って、それで――。
「坊ちゃん」
「…………」
「坊ちゃん」
「…………」
内側の扉の陰から見えた、見覚えのある顔。
あんな顔、見間違える訳がない。まさか……あいつが裏切ったのか!?
ゲオルディクスぅぅぅ!!!
「何をしておいでで?」
「…………」
「何をしておいでで?」
「…………」
もしかしなくても、やっちゃいました。
流した涙が一瞬で乾き、顔から血の気が失せるのを感じる。
この男たちは不審者ではない、そういうことだろうなぁ……。
あ~あ~……。
「くっくっくっ……これが噂に名高い聖子様、か……」
「くっくっくっ……はい、少々突拍子もないことをするのが大好きな悪戯っ子です」
「くっくっくっ」
「くっくっくっ」
この笑い方をする奴に碌な奴はいない。
しかし、今の僕にはそれを言う資格もない。
今すぐ穴を掘る魔法を習得せねばならないのだから。
時間を巻き戻す魔法でもいい。それがいいな。
「聖子殿、挨拶が遅れたことお詫び申し上げる。余はグランデシャイン国王、グラウディである」
「…………」
これはこれはご丁寧に。余は聖イルミナス教会聖子、イクラウスである。
という思いを込めて見つめる。
というか声が出ないんだ。
「くっくっくっ、固まっておる」
「くっくっくっ、未だ事態を飲み込めてないようですねぇ」
飲み込めてはいる。吐き出したいが。
どう取り繕えばいいかわからないだけだ。
なにせこちらは0歳児。失敗を挽回する引き出しが足りない。
「父上、アステラはイクラウス様に健康な体をいただきました!」
「おお、そのようだ。このような騒ぎにも顔色1つ変えていない!」
「父上、イクラウス様は身を挺してこの身を守ろうとしてくれました!」
「ああ、この目で見ていたよ。しかも特等席でな!」
アステラが援護してくれているようだが、さらに傷が抉られている気もする。
しかし、もっと言ってくれ。
どうにかして突破口を見つけるんだ。
「父上、聖イルミナス教会と我が国グランデシャインとの友好を示す証として――」
そうだ、僕は貴国との友好を示すために頑張ったんだぞ!
ちょっとくらいやんちゃしたって……いいだろう!
「聖子イクラウス様に婚約を申し込みたいと思います!」
「……うむ、それがいい。そうしよう」
ほへぇ?
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もう1話、21時20分頃に投稿します!
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