第37話 後ろ盾を得る0歳児
「聖子様は……私のために全力で頑張ってくれました! コホコホッ……それなのに……」
「アステラ……」
「もう……お兄様のバカ! 聖子様にそんなことしちゃ……ダメーーーっ!!!」
「アステラ……! お前!」
ああ、よかった。
そんなに大声を出せるならもう大丈夫。多分。
「よかった……本当に良かった! アステラ!」
「あれ……咳があんまり……体も、苦しくない……」
掴んでいた僕を放り投げ、治療を終えたばかりのアステラさんを抱きかかえるグラウゼル。
やめろ、今は安静にしなきゃ……!
「治った……治ったんだ! アステラ! 本当に……兄は嬉しい! よかった……」
「兄さま……私……! これから……たくさんお手伝いも……お勉強も!」
「ああ、できる! 何でもできるぞ! 何だって!」
「嬉しい……! やっと、やっと今までの恩返しが!」
ああ、だけど……主よ。偉大なる主よ。
今は、今だけはあの兄妹がはしゃぐのをお許しください。
主のもたらした奇跡を嚙み締めさせてあげてください。
かわいい子、好きでしょう……?
◇◇◇◇◇◇
僕が仮眠――意識を失った後、ほんの小一時間ほどらしいがその間に色々と確認をしたらしい。
専属医が泣きながら『問題ない』と宣言したことで他のメイドさんや兵士にも伝えられたとか。
「度重なる無礼、お詫び申し上げる」
「兄が大変ご迷惑をおかけしました」
“聖癒の間”にて横になる僕とアステラ。もちろんベッドは別だ。
その陰となっているところで、遂に兄は土下座しているらしい。全く見えない――いや、形のいいお尻だけ見えてる。
他の人がいないのは、こういうことか。
「いいよ。僕も逆の立場だったら――地獄なんて生ぬるい場所になんて逃がさないけど」
生きたまま、ありとあらゆる苦痛を――あぁ母様、罪深き僕をお許しください。
でも母様が同じ目にあったとしたら……うん、仕方がない。
「ご慈悲に感謝を……それと、此度の寄付金は相当に弾ませていただきたく」
「いや、それもいい」
「む?」
なにせ3割しか入らないからね。
10倍されても取り分は30金貨。結構多いな。
「それより、たまにでいいからあそびにいきたいな。ぼく、あそぶのだいすき!」
欲しいのは、“どんな悪評も吹き飛ばせる後ろ盾”。
ゲオルディクスよ、余は手に入れるぞ……!
「も、もちろんだ! 我がすべてをかけて持て成すことを誓おう! いつでも来てくれ!」
「うわぁーい! ありがとー!」
「しかし……何でそんな喋り方なんだ? まるで子どもだぞ……?」
「子どもだろうが」
しまった、つい心の声が。
あどけなさを前面に出し庇護欲をそそる作戦が台無しだ。
「――くっ、ははは……なんだか……ははは……!」
笑い方も様になっていてかっこいい。腹立つ。
むかつく。今までみたいなしかめっ面になってほしい。
「聖子様、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「ん? はい、僕の名はイクラウスです。史上最高最かわ聖女様の母様が名付けてくれました」
「イクラウス様、素敵な名前ですね。私はアステラと申します」
「え? あ、はい。そちらも素敵な名前ですね」
知っている。
何ならさすがに僕の名前も知っていたんじゃないの?
そして母様のことをスルーされてしまった。この子とは仲良くなれないかもしれん。
「聖女フルルーチェ様、1度我が城に来てくださいましたが、とてもお優しく聡明で朗らかな、それでいてかわいらしいお方でした」
「うん、君とは仲良くなれそうだ。よろしくね、アステラ!」
「はい! 私もイクラウス様と仲良くしたいです!」
母様好きに悪いものはいない。
なぜなら、母様のことが好きだからだ。その時点ですべての罪は許される。
この日この時この時代、母様と同じ時を歩めるということは、前世で聖人君子ほどの徳を積んだ結果だろうし。
「お前……妹に惚れるなよ? 惚れたら――いてっ!? ええ!?」
「はぁ? あなた、少々情緒不安定ですね。妹さんのことがあってそれも分かりますが……」
なぜか頭を押さえているグラウゼル。
なんだろう、この部屋には僕とアステラさん、それに情緒不安定王子しかいないはずなのだが。
奴の足元に枕が転がっているのも謎だ。
「イクラウス様、仲良くしましょうね!」
「え? はい、もちろんですよ」
笑顔のアステラと泣きそうな顔をしているグラウゼルの顔が印象的だった。
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