第29話 不安に襲われる0歳児
「いいですか坊ちゃん。一般的に獣人は迫害されております」
「知ってる」
「耳や尻尾などに獣の特徴が多くみられ、身体能力もその獣と似たように優れている。半面、魔法は一切使えない。それが主な獣人の特徴です」
「ふむ」
「これだけでも差別の理由とする人間がいることも事実ですが、主な理由はそうではありません。確たる因があるのです」
「む」
「成人を迎えた獣人は人を襲う。性的に、ですが」
「なっ!? それはさすがに……なんだって!?」
同意の上でなら……!
ゴクリ。
「もちろん、すべての獣人がそうではないはずです。しかし子孫を残すための本能が強く発揮され、そういった事態になることは非常に多い。獣人は本能的――直情的な考えの方が多いとも言われています」
「…………」
「この神殿にも、獣人に辱めを受けた者が訪れることは多い。神官にもおりますな」
「そう、か……」
それは……そうだろう。
強姦は最も許されない罪の1つ。主も本当にそう言っている。
その受けた傷は、神に縋るに十分すぎる理由だ。
「ふぅ、あえて厳しいことを申し上げましたが、あくまで坊ちゃんやロロップさんのためを思ってのこと。何卒、心に留めておいてください」
「……わかった」
◇◇◇◇◇◇
……どうしよう。
「ぴょん♡ 旦那様、どうしたぴょん♡」
本能的、直情的。
まさにそうだろう。
出会ったばかりの僕に愛と忠誠を捧げすぎ。
「ロロップは……今何歳?」
「ぴょん? 13歳、です……」
「そっか」
「……獣人の噂、聞いちゃいました……?」
む。
バレてしまったか。それと本人たちも把握していたか。
「……うむ」
「大人……『15歳になると、子どもを残す本能が高まり番を求める。時には無理やり』ってママにも言われてきたぴょん」
「15歳……」
「私のママもそれで……でもでも! ママとパパは結婚して……それで……仲良しさんだった、ですので……」
「ふぅむ」
参った。
僕は未だに0歳児である。順調に育ったとしても、残り2年では2歳にしかなれない。
そもそも僕には母様がいる。母様がお許しくだされば話は別だが。うん、どうにか頼んで許してもらおう。
「まぁ、そっちは別にいい。どうにかなるだろう」
「ぴょん?」
「実はな、この神殿にも獣人に傷つけられたものが多くいるそうな」
「それは……」
もちろん、それを行ったのはロロップではない。
彼女は人のために戦える立派な獣人だ。
しかし被害を受けた人にとって、嫌なことを思いださせるのも事実だろう。
「わ、私……いなくなった方が――」
「なので、これからのロロップの行動が肝心だぞ。獣人にも立派な人はいる、そう思われるように行動するんだぞ!」
「旦那様……」
「好感度マイナスからのスタートだ、嫌な思いをするかも知れない。それでもついてくるのだ!」
「は、はいっ!」
「まあ、いざとなったら僕の闇魔法で洗脳してやるからな」
「ぴょん?」
まぁ、こっちも大した問題じゃない。
大変だろうが、後は努力と運次第。それでもだめなら仕方がない。
母様、主よ。どうか我らにご加護を。
「しかし参った……困った……」
「えとえと……他に何か……ぴょん」
「耳だよ、耳! 急ごしらえのではなくちゃんと復元してやりたいからさ!」
現在も頭部に着いてはいるが、あくまで見た目だけ。
僕の勝手な想像で作っただけに過ぎない白い耳。
「失って時間が経ったものは作り直すしかないから、どうしても元の姿にはできない。だから色や形、手触りも覚えてる範囲で教えて欲しい」
「ぴょん……これがいいですぴょん!」
「いや、それはだな――」
「この耳をつけてくれた時、私は本当に嬉しかったです。ありのままの私を受け入れてくれたような気がして……だから、これがいいんです! ぴょん♡」
「ま、まぁ……そう言ってくれるのなら」
嬉しいことを言ってくれるではないか。
直情的だが、人の思いをしっかり受け止められる子だ。
「だがそれは耳としての機能を持っていない。見た目はそのままにするから――」
「いいですぴょん! どうせ元々飾りみたいなもんでしたぴょん!」
「嘘つけ!」
治すのに小一時間かかった。
あと、不機嫌なウサギは『ブー』となくことも分かった。
◇◇◇◇◇◇
「ここは……」
周囲を見渡すと、真っ白い空間。そして包まれるような安心感。
母様はわかってくださている。僕がどうしても不安なことを。
だからきっと会いに来てくれたんだ。
ロロップのこれからのこと、ごまかしてはいたがやはり不安だから。
「はぁ~い、イクラちゃん♪」
「母様!」
姿を現したのはやはり母様。
よかった、これでゲオルディクスだったら本当に漏らしてしまう。
「うふふ♪ そんなこと言っちゃあ、教皇様悲しんじゃうよぉ~」
「あの腹黒たぬ――教皇様のことを庇うとは……母様はやはりお優しい!」
「まぁね~♪ けどぉ、教皇様昔はも~っと怖い人だったんだよ?」
「ふむ?」
「最近優しくなったというか……きっと、イクラちゃんのことが好きなんだよぉ~♪」
思わずぞわっとしてしまった。
いや、そんなことより、母様との大事な時間をあの男のために割くのはもったいない。
「母様、友達が増えました」
「うんうん♪」
「1人は……家族に奴隷にされそうだった子です。もう1人は、獣人の子です」
「うん♪ 2人ともすてきでかわいいよね~♪ 2人を救えたこと、お母さんも誇りに思います!」
よかった、思った通り……マリンはともかくロロップのことも認めてくれた。
「うんうん♪ では、イクラちゃんにお母さんからありがた~いお言葉です!」
「はい!」
なんと……! なんとありがたい!
神の言葉にも勝る金言となること間違いなし!
「『イクラちゃん、これから大変なことがたくさんあると思います。それでもお母さんはいつまでもあなたの味方です』。うふふ、当たり前すぎてごめんねぇ~♪」
「……いえ」
そうだろうと思っていても、こうして言葉にしてもらえるとやはり違う。
母様は僕の味方。
今、1番欲しかった言葉かもしれない。
「……僕も、母様のように人に寄り添える人間でありたいです」
「うんうん♪ よきかなよきかな~♪」
「あ、でも1番聞きたかったことは違いました。母様、僕は――」
しかし、夢の時間は終わりとでも言うように浮遊感に襲われる。
そんな、まだ話したいことがあったのに!
「イク――――」
「かあ――」
あぁ……母様……。
お嫁さんは何人までよろしいでしょうか……。
母様含めて……。
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