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Day2, Sep. Man soll den Tag nicht vor dem Abend loben...

タイトルにそこまで意味を求めてはいけません。中二病と言えばそこまでの話です。

「クリス......ティーナちゃん、ちょっと待って」


「はい。待ちました。ご用件をどうぞ」


 なんで私この人と話してるんだろう。もちろん仕事だからなのだけど。

 公子サマもめげないなぁ。あんなに殴られてるのに毎度毎度何かしらすれ違えば話しかけてくる。


「そんなぶっきらぼうな返事しないでよ、ね?」


「あのさ、これ、見てくれない?」


 そう言って公子サマが差し出してきたのは、筒状の何かだった。先端にはレンズのようなものが付いているから、もしかしたら眼鏡に似た何かかもしれない。


「見るってのはそういう意味じゃなくて、中を覗いてみるんだよ」


 そうしてみると、中には不思議な模様が浮かび上がっていた。で、後ろの方を回せば模様が変わっていって......


「子供騙しも大概にしてくださらないと。これただの万華鏡じゃないですか」


「一見そう見えるだろう?」


「はい。そうですね。私忙しいので、言いたいことがあるなら早急にお願いします」


「いやぁ、ただの万華鏡なんだけどね――」


「公子サマ、今日はお暇させていただ――」


「待って待って。いや、これを作ったのが、その発明者本人なんだよ」


「フレンケレンにまで行ってすることがそれだけですか? 第一、旅行自慢なら私以外の船員に頼んでもらえればと。下の階のバーにでも行けばいいじゃないですか」


「まだなんだよぉ! もう一つのお土産であるこれこそ至高なる我が頭脳が生み出した叡智! あるいは唯一にして全知全能の神がもたらした福音!」


「御託はいいのでさっさと話さんかこら」


「例の発明家が発表してた万華鏡の改良案をオレが完成させましたぁーーーー! ふっふー! パフパフ」


 自家製効果音お疲れ様です。


「で、これは何です? 同じ物のようにも見えますけど」


「ただのカレイド・スコォプと侮る莫れ。まずはさ、もう一回万華鏡を覗いてみて」


 言われた通りにしてみる。そうそう。このレンズを回すんだ。子供のころ、おばさんが王都に行った時に買ってきてくれたなぁ。出来るだけ早く回して目を回していたのをよく覚えている。しばらくおばさんと会っていないけど、元気にしてるといいな。


「でもレンズを塞いでみると――」


「何も見えなくなるじゃないですか」


「そうなんだよ、でも、ここでオレが発明したのはその問題も克服してる」


「それがすごいことなのは分かりましたけど、一体いつまで覗いてればいいんですか? 今度こそ本当に帰りますよ。あ! 褒めてほしいんですね。じゃあそうしてあげますよ、『すごーい、すごーい』って」


 普通バケーションが終わった学生っていうのはもっと調子が落ちているのが普通らしいんだけど、この公子サマは昨日の出航からもそのやかましさが抜けない。王侯貴族ってのはもう少しのんびりどっしりと構えるべきだと思う。


「褒めるのは一項に構わないんダ・ケ・ド、そう! まさにそれなんだよ! 同じ模様ばっかり見てても飽きるんだよ! だけど、オレが発明したタイプの万華鏡を覗いてみると......」


「ちょっと模様が変わっただけじゃないですか」


「そう言わずに、くるっとその場で一回転してみてよ」


「はぁ」


 またまた言われた通りに一回転する。って言っても、この不思議な模様が浮かび上がるだけ―—


「あれ、これ後ろの方を回してなくても模様が変わってない、ていうかそもそも後ろに回すパーツがない!」


「そうそう。これはね、覗いた先のものを何でも万華鏡風に見せることができるのさ。しかも先のレンズを球体にしたことで、先に見たいものをくっつけても」


「明るく見えるってことですか」


 いい加減な人だとは思っていたけど、こういう一面もあったのか。公子サマは一応あの国際学園の学生さんらしいし(それにしてはこの船に乗りすぎだけど)、考えてみればこういう知的な面があってもおかしくないか。


「でさ、ちょっとここに座って」


 そう言うと公子サマは自分が座っていた椅子から立ち上がると、そこに座るように催促してきた。

 当然その席には座らない。


「うーん、まあいっか。オレが何か適当なものを見せるから、何を見せているのか、このオレが作った新型万華鏡を覗きながら当ててみてよ」


「いいですよ、でも時間がないのでさっさと見せてくださいね。私もさっさと答えるので」


「ちょっと冷たくなーい! はい。じゃあ第一問」


 筒の奥の文様が変わった。時間はないわけではないが、公子サマのために時間を必要以上に浪費するのは違うような気がする。ここは手短に済ませたい所だが――

 この特徴的な穴と色はあれしかないか。そもそもこの食堂にあるものなんてそんなにないし。


「分かりましたけど、それはマナー的にどうなんですか?」


「いくらなんでも早すぎじゃない。分からないって言ってくれてもいいんだけど」


「チーズですよね」


「正解かもしれないし、不正解かもしれない」


「で、マナー的にそれは大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫」


「本当に大丈夫なんですか? さっきから喋り方が少しおかしいですけど、もう勝手に答え合わせしちゃいますよ」


「え? ちょっと待って今は!」


 そこにあったのは、唇の間にチーズを挟んでレンズの前に突き出す、公子サマ、いや、変態の顔だった。


「キモッ!」


「まあこうなるよね――――ブッゴォォォォっ」


 殴られた衝撃で唇を離れたチーズを見て、「もったいない」と最初に思う自分自身のみっともなさを自覚しつつ、あのおぞましい顔に寒気すらも感じられてきて、一言もしゃべらずに帰った。


#############################


「いやお前、昨日はさ、いつあの子がマズいことにならないか冷や冷やしながら見てたけど、あれは大丈夫だ。もはや一種の夫婦漫才だね。あの子が当てたら口から外すつもりだったんだろうけど、公子様に対して失礼なのは承知の上で、殴られた方が面白いわ」


「そうだろそうだろ、だから俺は昼飯を食う時はこの食堂室の端の席って決めてるんだよ」


「ところでさ、話は変わるけどさっきから公子様、何か手に持ってないか?」


「こういう時には双眼鏡でっと」


「そこは万華鏡で見ろよ」


「別にそのボケ面白くねぇから黙ってろ。集中できない」


「俺が話しかけてなくても何が見えたかそろそろ分かったんじゃねぇの?」


「黙れって言ってるだろうが。 何だ? 男物のパンツを、ティーカップに詰めてる!? 変人だとは思ってたけどまさかここまでとは思わなかった。あの子が毎回殴るのも納得だよ。あんな変人とここまでコミュニケーションを我慢してとれてるだけで偉いと思うね。

 そもそもただの使用人にお熱を上げてどうしようってんだろうな。あの子ともしくっついたとしても、確実に貴賤結婚になって公位継承権が消滅するんだろ? だったら、あの子とはお遊びでしかないじゃねぇか。ますますあの子が不憫に思えてきたよ......って、長々と喋ってるけど、お前、さっきから黙って何考え込んでるんだよ。もう全部見るべきものは見たから律儀に言うこと聞かなくてもいいんだぞ」


「いやさ、いくら公子様が変人だとしても、あんな意味わかんないことするかって思ってさ」


「はあ? そんなのティーカップかと思わせて中身はパンツでした――ってやりたいだけだろ?」


「そうじゃないんだよ、ほら、頭文字とると隠されたメッセージが浮かび上がるとかさ」


「え、『cheese』の『c』だろ、『pants』が『p』で、『teacup』は『t』か」


「母音が一つもねぇぞ、単語として成立すんのか?」


「じゃあ『pants』じゃなくて下着で『underwear』とかどうだ?」


「順番にならべて、c、u、tか」


「cut? 意味は通るけど何が言いたいか全く分からんぞ」


「そもそも公子様はチステード人なのに、なんでブリーズ語で事を進めてんだよ」


「それもそうか。なんかもう考えるの疲れたから、部屋に戻ってなんかしようぜ」


「カードとかどうよ」


「別にいいけど、今金ないから賭けはナシな」


「つまんねぇの」


###############################


 よくよく考えてみれば、公子サマは私にはあんなことをしてたってバレないようにするつもりだったみたいだし、今日はちょっと悪いことしちゃったかな。

 いやいや、あんなことをすること自体が悪いんだから、公子サマが悪いに決まってるでしょ。けど、なんでこのことが頭から離れないかなぁ。

 公子サマの顔がキモかったせいか。納得。


「あ! クリス! 例の公子様から贈り物だって」


「ゲっ!」


「仮にも公子様で、しかも贈り物までもらったんだからそんなに嫌そうな声出さない」


「はーい。ところで何なんです、その贈り物って。しょうもないものだったら捨ててもいいですよ」


「あんたが最初に見なくてどうすんのよ」


 少し嫌な予感がするけど、恐る恐る箱を受け取ってみる。

 そこには......ブリーズ語? 「You’re...」って書いてある。私が読める簡単な文で良かったけど、読めても意味がよく分からない。

 箱の中身は......ってこれ、今流行りのイヤリングじゃん! 王妃様が付けてて流行ったやつと似たジュエリーだ。やっぱり公子サマは公子様なんだなぁ。嵌っているのは、なんだろう、ピンク色の宝石だ。名前は分からない。


 まあ、今日のことは許してあげてもいいかな、なんて。


「何が入ってたのよ?」


「このイヤリングなんだけど、嵌ってる石の名前が分からなくて」


「一使用人がもらえるものとしては最高級品じゃないのこれ。間に嵌ってるのはローズクォーツだね」


「よく知ってるねぇ」


 普段の行いを詫びて、私という存在に感謝しているというなら、「You’re welcome」ということでね。

 明日は私も謝ってあげてもいいかな。


ちなみに公子様が作った万華鏡は「テレイドスコープ」といいます。人にearringsを送った経験はまだない僕でも感想が欲しい。

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