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Day3, Sep. Eine Schwalbe macht noch keinen Sommer!

感想を頂ければ幸いです。


「今日も疲れた」


 デッキに一人佇む私。夜の海は真っ暗で、そのまま眠ってしまいそうになるけど、なぜか眠れない。うるさい蒸気と船内から漏れる光のせいでもない気がする。

 生まれも育ちもチステードの片田舎だから最初の頃はどこの港に降りても興奮して眠れなかったけど、今はそうでもないはずなんだけどなぁ。えっと、明日はどこにつくんだったかな......


「クリスティィィィーナッ! そんな顔して何を考え込んでいるのかな? そんな顔してたらせっかくの美貌が台無しじゃないか」

「なんでこんな所にまでいるんですかあなたは! 心配するよりももっと普通に接してくれた方が嬉しいのですけど」

「クリスティーナちゃんがここに居て、俺がここにいる。だから無理だね」


 意味不明な論理を振りかざされている。

 私はそれを無視して話題を変えようとする。


「はあ。ところで、今日公子サマどこにいらしたんです」

「普通ならオレは『尊称じゃなくて名前で呼んでくれよ』って言うところなんだろうけど、既に親しみが籠ってそうだからやめとくネ?」

「親しみというより侮蔑なんですが......じゃなくて! 今日どこにいらしてたんです? 食堂に来なかったじゃないですか」

「アレ? オレのこと待ってくれたの?」

「昼時の仕事がやけにスムーズに終わったから気づいただけです」


 公子サマは少しだけ悲しむ素振りを見せて、話を仕切り直した。


「ところでオレの最初の質問に答えてくれないかなぁ?」


 すこし時間が経っただけなのにもう忘れそうになっているほど、些細なことなんだけど......

 ――ああ!


「明日が寄港の日なので、その地名を思い出そうとしてただけですよ」

「確か学園中央区シキリエンだねぇ。中央区最大の面積を誇る自治領だ」


 仕切りエン...... 別に面白くないか。

 そんな言葉遊びよりもっと重要なのは――


「そう! シキリエン! 聖セシリア劇場にずっと行きたかったんですよ!」


 100年以上前に建てられた古い建物だけれど、つい最近改修工事があったらしい。

 聞くところによると、ステージが上り下りできる機構が備わっているようだ。


 単にミーハーだから見たい、とかいうわけではなく、むしろ私は伝統と新技術の融合が見たいのだ。

 そういう伝統を破ることをチステード人は嫌うけど、そんな心構えじゃこれからの激動の時代を生き抜くことはできない。

 言い訳はこのくらいで十分かな。


「残念だけども寄港地はメッサナだから、劇場があるパノルムスには一日じゃつけないよ」

「え? どうにかならないんですか? 船で行くとか」

「そんな短い航路はないよ、だからさ、明日オレと――」

「あぁ、楽しみにしてたのに」

「途中で遮られようとも何度でも言うさ! 明日オレと――」

「もう何を言いたいかは分かってますから。嫌ですよ」

「古代劇場の遺跡もあるのに?」

「遺跡で公演しているなら行きますけど。何をなさっていたのかそんなに言いたくないんですか?」

「いや、言いたくないわけじゃないんだけどね。言ってもしょうがない些細なことだから」


 言ってみれば案外些細じゃないかもしれない。ソースはさっきの私。

 もしくは聞くなと、唐回しに言っているのだろうか。いくらこんなアホみたいな人でも一応は公子サマなのだから、人に言ってはいけないことの一つや二つくらいあるか。


「ならもうおっしゃらなくてもいいです」

「そこに至るまで余計な思案があったようにも見えるけれども、それが賢明な判断だよ。そういえばなんだけど、オレがあげたイヤリング付けてくれてないの?」

「いや、私耳に穴開けてないですし」

「クリスちゃん、もしかしてピアスとイヤリングの違い知らない感じ?」


 恥ずかしながら、子供の作る小麦の穂先で出来た王冠くらいしか、地元でアクセサリーを見たことがない。

 それにしても得意げな人間がここまでうざったいとは思わなかった。素直に質問に答えて損をした気分。


「あれって名前が違っても中身は同じものなんじゃないですか? それとどさくさに紛れて呼び名を変えないでください」

「イヤリングは耳たぶに引っかけた後、ねじを回して付けるんだよ。今持ってたりする?」

「持ってませんけど。というか持ってても付けさせませんけど」

「残念。じゃあオレはここでお別れ。クリスティーナちゃんも冷える前に戻っときなよ。ちなみにオレの部屋の扉は何人なんぴとにも開かれていることを約束しよう」

「私に来てほしいと伝えたいなら表現を改めることをおすすめします」

「じゃあ今度こそ――」


 いや。まだお別れじゃない。



「待ってください!」



「何? もしかしてオレの部屋に来たかったりするのカナ? 安心してよオレは紳士だからそもそも使用人がいるから――」

「イヤリングありがとうございました! それと、昨日も一昨日もそれ以前も、反射で殴っちゃってごめんなさい!」


 公子様は一瞬呆けた顔して、いつものように笑いながら話し始めた。


「なんだ、そんなことを言いにオレを探してたのかクリスティーナちゃんは」


 その言葉を聞いた時、同じく間抜けな呆け顔を晒している気がして、思わず私は急いで言葉を被せる。


「そんなことってなんですか、そんなことって。

 私の忙しい一日の中から何分かを削り取って決めたのにひどくないですか」

「オレを殴る殴らないはどうでもいいんだよ。むしろ殴ってくれ」

「少し退きますよ」

「第一そのイヤリングだってもともとオレのじゃないし。母さんから送られてきたものの中で間違って入ってたやつだからってこぶし振り上げないで嘘だから」

「なんでこのタイミングで嘘つく必要があるんですか」

「誤魔化し、なんてことはなくてね、今みたいに自然体に接してくれてればいいってことだよ」


 呆れすぎてもう被せる言葉も出てこない。

 肝心なところでこうやって引くから、周りの人からモテないのだと思う。

 この一連のやりとりのせいで公子サマの言うことが本当かどうか調べる気もないくらい疲れてきた。


「もう疲れたので戻りますね」


 もしかしたら「おかげ」なのかもしれない......いや、そう考えるだけ癪ね。

 何はともあれ疲れた。早く寝よ。


################################


「おい! あそこにいるの公子様と例のあの子じゃねえの?」

「窓の前からどいて双眼鏡を貸してからそういうことを言え」


 舷窓の外では、それこそ幻想的なラブロマンスが繰り広げられているが、醜い内側を覗けば......こうである。

 小さな窓にレンズを擦り付けて全体重をかけている様は、とても爵位を将来持つものとは思えない。

 必死さのあまり今自分がどんな体勢を取っているかさえ彼らはきっと分かっていないのだろう。


「ああ! あの子どっかに行っちまったよ!」

「結局俺に見せる気なんて最初からなかったんじゃねぇのか?」

「ちょっと待てよ、あの子が殴りかかったと思いきや、殴らなかった......ちょっと待て、今日は革命的な一日かもしれん。ひょっとしたらあの子が公子様を殴ってないかも」

「だから俺はその公子様の表情も見てないから何を言っても伝わらねぇよ」

「昨日ポーカーでぼろ負けしたヤツが何か言ってるなあ」

「それは関係ねぇだろ、ところで明日は寄港の日だけど、どこ行くか決めてんのか?」

「露骨な話題逸らし乙、と言いたいところだが......どうしよっかなぁ。まだ決めてねぇんだよ。古代遺跡とか?」

「んなとこ行ったって見るべきもんは全部アンジェリンが持ってっちまってるだろ?

 そこでだ――公子様の後つけてみる、ってのはどうだ?」


 突拍子もない提案。暇を持て余した学生の自由な発想である。


「お前、実家に迷惑かけても知らねぇぞ」

「じゃあお前はウェイトレスの方で」

「勝手に決めんなよ、まさか二人を見れなかったこと根に持ってんのか?」

「じゃあ俺は搭乗口の所一番に出て外で待機してるから。確か船員が降りられるのって一番最後だったはずだからお前は船内で見張ってた方が効率いいと思うぜ」

「ああ、もういいよ。なるようになれってもんだ。あの子が船外に行かないことを祈って」


寄港前夜です。そろそろタイトルのストックが無くなって来たので、9月編が終わったらタイトルの雰囲気を変えようと思います。

補足にはなりますが、学園の長期休暇は日本とは違って、9月から新学期が始まって、10月に秋休み、12月に特別休暇、2月に冬休み、4月に春休み、7月に夏休み。夏休みは2か月ありますが、それ以外は2~3週間ほどの休み。正直休み過ぎだと思います。

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