【退学処分編】保健室と部室での軍評定
俺は理事長と一緒に保健室へ入った。
「オウレンはいるか?! 今から私とアダムも交えて、3人で打ち合わせをしよう――!」
そう言いながら、キハダ理事長は大声で、オウレン先生のところまでズカズカ歩いて向かう。
「キハダ理事長……。今日はどうされましたか?」
「聞いてくれ、オウレン。実はね……アダムが規則違反をしたと思われている! 校長と教頭がそう判断したけれど、私は断じて認めない! アダム、君は何も悪くない!」と女理事長が怒りを爆発させた。
「えっ、アダムくんがどうして! むしろ、アンズちゃんたちを助けたのよ……?」
オウレン先生が驚いて声を上げている。
理事長はオウレン先生のほうを向いて、言葉を続けた。
「その通り! アダムは第9王子に制裁を加え、さらに3人の女子生徒を救ったんだぞ。そんな彼に退学処分なんて……許せないッ!」
お二人の言う通りである。
ただ、第9王子が俺に負けたのが悔しくて、王族という権力をフル活用して、校長などの大人を利用した可能性はゼロではない。
一応、理事長に聞いてみよう。
「あぁー。理事長。退学処分になったのは、もしかして第9王子の仕業じゃないですか? ヤツ、本当に姑息なんですよ。でも俺、討論でならヤツをギャフンと言わせられますよ?」
俺は堂々と言ったはずなのに、なぜか理事長は困った顔をして、頭をかいていた。
「いや、それがね……第9王子だけじゃないんだよ。体調不良で休んでいる君の担任もなんと『君が主犯で、実験施設のプールを壊した』と言っている。つまり、第11王子も絡んでいるんだ」
「はぁ?!」
あの担任――最初は「全員平等に扱います」なんて宣言してたのに、どの口が言ってんだよ。マジで、大嘘つき野郎だ。
いや、ちょっと待てよ。王族ならこっちにもいるぞ――。
「理事長先生、こちらには俺以外にも、第4王女のケイがいますよ?」
「……確かに王女がいるのは大きい。それでも相手が悪いんだよ。特別科に所属する第9王子なんだから」
「そうですか……。でも、部員に第6王子がいるんですが?」
彼女はふと誰かのことなのか思い出したのだろう……少し首を傾げながら答えた。
「ニコのことだろう? 彼は入学する際、自分が王族だと公表していないんだ。その場合、一般人か貴族として扱われるんだよ」
「えぇ……訳アリなんですか?」
「まぁ、そういうことになるな」
ニコが王族と公表していなかったとは……俺はつい頭をポリポリかきながら、深いため息をついてしまった。
「アダム。他の王族から賛同を得たいところだが……残念ながら、私には人脈がないんだ。仲良くしている王族なんて一人もいない!」
堂々とした表情で、理事長は人脈のなさをアピールしている……。
(……まぁ、理事長が人の話をあんまり聞かないからだろうな〜)と俺は内心で納得した。
「とにかく、証拠を集めるんだ! 審議会は6月1日に行われる予定だから、それまでに動けるだけ動いてくれ!」
「わかりましたよー」と俺が返事をした後、理事長は真剣な眼差しでオウレン先生を見つめる。
「オウレン、君は……Bクラスの女の子を手当てしたそうだな。その子と共に、参考人として一緒に来てもらいたい」
「はい……わかりました。参加します」
オウレン先生からすぐ同意を得られた理事長は「私はこの後、用事があるから」と保健室から去る直前、再度俺たちを見て、力強いセリフを言ってくれた。
「アダム、安心してくれ――私はオウレンと君たちの味方だ」
さて――俺の運命は6月初日に決まるらしい。
審議会で自分を弁護する準備を始めるため、とりあえず証拠になりそうなものを探すことにした。
盗聴器機能付き万年筆や第9王子からの手紙など……身近なものを片っ端からチェックする。
(クソ……こんなことに時間を割かれるなんて)
大好きな実験に集中できないのは悔しいが、この会議で無罪を証明できなければ退学になる。
だからこそ、やるしかない。
そんな日々が続き、ここ1週間――俺のテンションは最悪だった。部室で手を止めてため息をつく俺を見て、ケイ、アンズ、そしてサラの3人娘が声をかけてくれた。
「アダムさん、ヤッホー! あのさ、作戦立てよ!」
「そうね! とりあえず、アタシは会議に参加するから、資料を作るわよ?」
「私も手伝うよ! 何かできることない?」
俺は正直にすべてを話した。「審議会で証明できなければ、退学になるかも」と。
アンズとサラが同時に「いやだ!」と返事をする。二人は、声が揃ったのを面白いと思ったのか、顔を見合わせて照れている――うーん、かわいい!
サラは照れながらも、詳細を確認したいようで、俺にこう問いかけた。
「アダムさん。その会議って、証明人はケイちゃん以外に誰が参加する予定なの?」
「今わかっているのは……オウレン先生と理事長で、二人は俺の味方だ。一方で、俺を悪いと決めつけてるのは第9王子と担任。そして退学処分を主張してるのが校長と教頭だ」
担任と聞いた瞬間、アンズは「えっ……」と驚いている。
「ホルム先生がなんで?!」
俺はあの教師を信頼していない。アンズに真実を話すことにした。
「あいつは……大嘘をついてた。本来、一般科の女子生徒の健康診断は来月だったんだ」
「うわぁ、最低……。あいつ、顔だけはいいけど、かっこいいのはそれだけね」とケイが忌憚のない感想を漏らした。
「そっか……。アダムさん、ぼくいいこと考えた!」とサラは目を輝かせて、「他のメンバーで心強い人がいないか探してみる!」と言い、勢いよく部室を飛び出していった。
「私はBクラスのパーカーちゃんに、情報提供をお願いしてみる!」とアンズもすぐに立ち上がり、部室を後にした。
残ったのは、俺とケイの二人だけ。
「二人とも行動が早いわね。アタシは当日使えそうな証拠を元に、あんたが退学にならないように都合の良いストーリーを作っとくわ」とケイは腕を組みながら、頼もしげに言った。
俺は驚いた。最初は悪役令嬢のように見えていた彼女が、まさか俺の退学を防ぐために動いてくれるなんて……。
「永久不滅の映画版ジャ⚫︎アンかよ……」
思わず本音を小声で漏らしてしまった。
「えっ? 何を言ったの? 聞き取れなかったわ?」
彼女は怪訝そうに眉を上げたが、すぐに勢いを取り戻す。「とにかく、あんたは口が達者なんだから、この審議会で完全勝利を目指しなさい。落ち込んでる暇なんてないわよ!」と断言した。
そう言うや否や、彼女は手際よく紙を取り出し、資料の作成を始める。その真剣な姿を見て、俺の中に新たな決意が生まれた。
諦めるものか――そう胸に誓い、審議会当日までひたすら作戦を練ることにした。
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