【部活設立編】天使が通る
【※注意】中華屋にいるので、飯テロです。
俺は、オオバコさんと一緒に、小洒落た中華屋に入った。
「いらっしゃいませ〜。あっ、オオバコ様。いつもありがとうございます。今日は個室にしますか?」
「個室でお願い!」
話している感じから、どうやらオオバコさんはこのお店の常連客らしい。俺たちは案内されて、各々席に座った。すると、オオバコさんが突然、俺へオシャレにラッピングされた紙袋を差し出す。
「これ差し入れー! 防護メガネだよ、入学祝い。おめでとー!」
「えっ。いいんですか? ありがとうございます」
率直に嬉しいし、実用性も兼ねているから、さすがオオバコさんと言ったところだ。彼女は、いつの間にか注文のボタンを押していた。「とりあえず、エビチリと油淋鶏と青椒肉絲! あと豚まん二人分ちょうだい!」と、事前に決めていたであろうメニューを店員さんにスパッと伝える。
「あっ、食物アレルギーはない?」と、店員さんが行きかけたところで一応確認してくれた。
「食物はないんで、大丈夫ですよ」
「ふーん。その言い方、何かアレルギーあるんだ?」と、興味津々な表情を浮かべている。「蜂がダメでした」と答えたところ、「大変だね〜。また刺されないよう気をつけて。君がいなくなったら、寂しいからね」と思わず惚れそうになることを言う。
そんなカッコいいことを言ってくれた彼女は俺がザダ校の制服を着ている様子に関心が移ったようだ。
「そうだ! そのザダ校の制服で思い出したー! 王位戦って、どうなったの?」
「半年後です」
「そっかー。ファイトだね」
(ゆとりはあるけど、それまでにクリアしないといけない課題が複数あるから、本当に頑張らないとなぁ……)
まぁ、部活を作るだけでなく、ちゃんと人数も集められたんだから、今日はこれで良しとしよう。そう思いながら、二人分のジャスミン茶をカップに注ぐ。
オオバコさんは相変わらずお喋り好きだ。カップを手に取った瞬間、早速会話が弾み始めた。
「それよりさ、私の話聞いてくれるー?」
「えっ、なんですか」
「いやー、シアンって覚えてる? アダムが研究取扱者の発表試験を受けていた時に、タバコを吸ってた王子!」
俺はすぐにその第5王子を思い出す。彼は審査員として、倫理観が外れた質問をしていたから、インパクトが強過ぎた。
「わかりますよ。あの人雰囲気がミステリアスというか、独特じゃないですか」
「やっぱり? 最近さ、あいつに毎回会うたび、第一王女を見なかったかって聞かれるんだよ〜。悪魔って種族は、どいつもこいつも本当に強引だよね。嫌になっちゃうよ。でもさ、多分その第一王女様は私と同じ天使族なのかもねぇ……。だから、シアンのやつ私から情報を得ようとしてるのかな?」
オオバコさんは怒涛の勢いで、愚痴り出していた。やはり、最近話題の第一王女の話が出てきた。しかも【天使族】というキーワード。研究者として、こうした話題は特に語り甲斐を感じる。
「面白い着眼点ですね……。オオバコさんは第一王女が生きていると思ってますか?」
「生きてるでしょー! だって、行方不明のままってことはさ。遺体がいまだに見つかってないんでしょう? 王妃様は遺体で発見されたんだもん」
「確かに。その理屈で言うと、生きていそうですね。でもこの国は女性が少ないから、特定できそうだけど……」
「私もそう思う。それに王妃様が天使族だったから、その第一王女の遺伝としては天使族の可能性が極めて高いと思うよ。シアンも天使族だと思ってるみたいだし」
(あれ、天使族ってこの国にたった10人しかいない激レア種族だったんじゃ……?)
オオバコさんにかなり絞られるのではと聞いたところ、「そうなんだよー。元々女性しかいない種族で10人しかいないもんね。それに、ほとんどはこの本土じゃなくて、島に住んでるからさぁ。しかも、その島に第一王女のアザを持つ天使族はいなかったんだよ……」と話を聞くに、行方不明になってから15年も経っているのに、未だ特定できていない状況らしい。ここまで来ると、どこかで変装しているんじゃないだろうか。
そんなことを話し合っている間に、頼んでいた中華料理が次々とやってきた。豚まんは最後に提供されるらしい。お互い好きなものを摘む。俺は天使族の話を聞いたついでに、試験中に会ったメンバーの種族について知りたくなり、オオバコさんに質問する。
「種族で気になったことがあります。あの試験会場にいた審査員の人たちの種族って聞いてもいいですか?」
「いいよー。まず、シアンは悪魔で、ニカは吸血鬼でしょ。あと、ランプ市長! あの外見通り、エルフ。それは知ってるよね?」
俺はエビチリのプリプリした海老を味わっている最中だったので、言葉を飲み込み、代わりに静かに頷いた。
「あっ! ひとり忘れてた! バク閣下は鬼!」
(あぁ……思い出した。あの、みんなのお父さん的なポジションだった人か。とてもマッチョだった気がする……)
「へぇ。ああいう体が大きい人って、やっぱり鬼なんですか?」
「そうだね〜。大きい人は、だいたい9割がた鬼か吸血鬼、悪魔。ま、例外もいるけどね!」
「ふーん。外見でパッとわかるのって、エルフくらいなんですか?」
「正解! 耳の形があれだけ特徴的なら、そりゃ一目瞭然だよね。面白いことに、天使と人間は区別がつかないってよく言われるよ。天使って名前なのに羽が生えてないから、人間だと思われがち……それに天使族自体が激レアだからさ。出会えるだけで運が良くなるって言われてるんだって〜!ウケるー!」
オオバコさんは喋りながらも、その息継ぎの合間に油淋鶏を食べていた。「おいひー!」と感想も俺に伝える。俺は天使族に羽がない事実を初めて知った。
「じゃあ、天使族のオオバコさんは、羽が生えることは一生ないんですか?」
「いや、違うね。生まれた直後と瀕死になった時、羽が現れるんだよ。要するに……生死に関わる時ってことだね」
いつもよりテンション低めの声が響いた直後、まるで場の空気を和らげるかのように豚まんがちょうど提供された。オオバコさんはすぐ切り替えて、「アダム、この豚まん美味しいから、ぜひ食べて!」と俺に差し出してくれた。
(もしかしたら、他の天使族が亡くなった姿を見たことがあるのかもしれない。この話を続けるのはやめておこう)
それに俺は『久しぶりの豚まんが……ここにいる!』とつい目をキラキラさせてしまった。
前世で研究者として働いていて、大学で残業していた時のことを思い出す――『研究の合間を縫って、コンビニで買って食べる豚まんとかピザまんってめちゃくちゃ美味しかったんだよなぁ〜』と。こちらの世界では、俺は学生ということもあり、残業自体存在しないから、豚まんは前世で頑張った分のご褒美だと思うことにした。食べた瞬間、肉汁が口内でブワァと広がる。懐かしい感触過ぎて、感極まりながら、オオバコさんに感想を伝える。
「これ、美味しすぎます……! いやぁ、俺はオオバコさんという天使族かつ研究者であるレアな人材に運良く出会えて、幸せ者ですね〜」
「アッハッハ! また面白いこと言ってるね。この世界で食べたのは、初めてなのかい?」
「そうですね……」
また、オオバコさんは核心をつくような言い方をする。まるで……俺がこの世界に来る前、どこかで生きていたんだろうとわかっているかのように。俺はその件について、深く突っ込まれるのを避けるためにも、豚まんとは異なる話題をした。
「研究者同士で接点があっても、オオバコさん以外の天使族と会える機会なんて、もう二度とない気がします……ほとんど島にいるのなら……」
口ではこう言ったものの……珍しい種族と言われると、もっと会ってみたい気もするが。オオバコさんは俺の発言が消極的だと思ったのか目を見開いている。
「珍しくネガティブな考えだね。君は王族だろう……? 王族同士って惹かれ合うらしいから、もしかしたらさ」とオオバコさんは何かを言いかけそうになっていたが、腕時計を見て、焦り出した。
「おっと、もうこんな時間だ! 明日、王立科学院で学会発表があるから、急いで準備しないと……。帰るねー! またね、アダム」と言って、オオバコさんが俺の分も奢ってくれた。そして、恒例のバイクで消え去ってしまった。
その時、オオバコさんがヘルメット越しで「身近なところで出会っているのかもしれないよ……かわいい天使族の第一王女様に」と小声で言っていたことに気づかず、俺は入学祝いでもらった防護メガネを嬉しそうに持ちながら、オオバコさんに手を振って、お別れをした。
なお、この時の俺はオオバコさんが言っていた強引どころか嫉妬深い悪魔が同じ学校に現れるなんて……思ってもいなかった。
次回、新編スタート! 王子様たちが登場します!




