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【入学式編】悪役令嬢向こう見ず〜アイスティーを濁す〜

 あの怒涛(どとう)の自己紹介を聞き終えた後、例の悪役令嬢(あくやくれいじょう)はあっさり席を(ゆず)ってくれた。でも(となり)にいる。うーん、入学式初日からこんな騒々(そうぞう)しい感じになるとは思わなかったため、座りながら机に伏せていた。


 すると、前のドアから突然、担任の先生がやって来た。教室にいる生徒たちは先生が入ると、すぐ静かになった。


(さすがザダ校。進学校だから、物分かりの良い生徒しかいないのか……? 大学で授業したときは、こんなすぐ静かにならなかった。)


 担任の先生も俺と同様のことを考えてたみたいだ。

 

「みんな、静かに……なってるな?! (えら)い、さすがA組! このクラスは一般科(いっぱんか)の中で一番頭が良いから、俺は大当たりだ〜。初めまして。俺の名前はホルム・ゴブリーン。今日からよろしくな!」


(教師って感じでハキハキしているけど、これまたイケメンだなぁ……)


 見た目は灰色の髪の毛に水色の瞳と優しそうで(さわ)やかな印象を受けた。そんな担任にちょっと熱視線を送っている人物――俺の右隣に座っていた悪役令嬢(あくやくれいじょう)が俺の方を向いて「へぇ……顔は整ってるじゃない」と感想を述べた後、先生に大声で身柄(みがら)を聞き始めた。


「先生って、もしかして王族だったりしますかー?」

「初めまして、ケイ・クマリーさん。ご明答、俺は第11王子だよ。でもここは学校だから、王族とか種族は関係なく、全員平等に扱います」


 「わかりましたぁ」と言って第4王女のケイは興味をなくしていた。小声で「二桁(ふたけた)かぁ〜」と呟く。まぁ、俺も二桁ってことに不満はある。なぜなら、10という数字のせいで、研究所設立の許可が()りないし……。それより、俺と担任は一個違いなのか……すごい奇遇だ。まさかの数字で、お隣さんだったとは。それに俺は彼女が先生の容姿を見ただけで、王族だとすぐ特定したことに正直驚いた。かなりの自信家だが、直感が優れているのかもしれない。


 その第11王子である担任は「そうだ!」と何かを思い出したのか――まとまったプリントを持って、俺たちに説明を始めた。

 

「さっき、校長から話があっただろう? 王位戦について、詳細が書かれた紙を今から全員に配ります」


 そう言って全員分のプリントを渡す。


「必要書類は申込書、部活動確認票、身上書、成績表、健康診断書の5点が必要になる。提出は王位戦初戦日(おういせんしょせんび)の2週間前だ。よく確認するように」


 俺はわずかでも可能性があるなら、挑戦したいと思い、書類の中身を確認する。申込書は名前を書けばいいだけだし、健康診断は受診すれば良いから――余裕だ。成績表は、実際に学校の授業を受けてみないとなんとも言えない。

 

 俺にとって、ややネックなのは身上書と部活動確認票だった。

 身上書には身内からのサインが必要になる。両親のうち片方に、サインを貰えればいいのだが……10歳の時に家を出されてしまったから、オッケーを貰えない可能性がある。

 それと、部活動確認票は5人以上所属する部活である事と注意書きされていた。俺の目論見(もくろみ)としては実験部みたいな部活を作って、一人で活動しようと思っていた。あまり人と話し合ったりしたいタイプじゃないからだ……。

 

 王位戦(おういせん)というバドル戦に参加することですら、億劫(おっくう)なのに、書類段階でも達成しないといけない案件が2点もある。


(これは()んだ……まだ、なんとかなりそうなのは部活の人数か?)


 とりあえず、担任の説明が終わって休み時間になったら、アンズたちに何か部活に入るのか聞いてみることにした。



 キーンコーンカーンコーン。


 俺はまず、前の席に座っているアンズの肩を右手でぽんっと叩く。アンズは担任の説明が長過ぎて疲れたのか……寝ていたみたいだ。

 

「アンズー、アンズ?」

「きゃあー! どうしたの? アダム」


 アンズは驚いて、ビックリした顔をしながら、俺の方を向く。


「あのさ、アンズは部活なんか入るの?」

「えっ。私は軽音(けいおん)とか、音楽系の部活動に入ろうと思ってる!」

「そうか、歌のレッスン習ってたもんな。聴きたいなぁ〜」


 残念ながら、アンズは……俺が作ろうとしている実験部に入らなさそうだ……。

 一方、アンズは歌の話が出たことを恥ずかしく思ったみたいで、顔を隠している。


「アダム、ここで歌うのはさすがに恥ずかしいよ〜。でもどこかで披露するから、楽しみにして」

「へーい、了解(りょーかい)


 次は……俺の左隣に座っているサラに聞いてみるか。

 彼女はお腹が空いたのか、うさぎのポーチケースからチョコレートを取り出して食べていた。その様子を見ていたら、俺にチョコを3つ渡してくれた……なぜだ?


「サラ、こんなにいっぱいは食べない」

「あー、アンズちゃんとケイちゃんにも渡して〜」


 なんとアンズだけでなく、悪役令嬢(あくやくれいじょう)にも大好物のチョコレートを渡すのか――なんて人たらしだ。そう言われてしまったら、受け取るしかない。


「そうするよ。それよりサラは……部活、どこに入る予定?」

「ぼくは剣術部(けんじゅつぶ)に入ろうと思ってたけど……。もしかしてアダムさんは部活を新しく作る予定を立てていて、人数が必要な感じなの?」


 サラはさっき配られた部活動確認票を見て、俺が王位戦(おういせん)に出たいことをちゃんと察したようだ。

 

「その通りだ……」

「そっか、いいこと考えた! 先生のところに行って、兼部(けんぶ)できないか聞いてみるよ!」


 そう言って、サラはすぐ職員室に行った。


(さすが、こちらの男装令嬢は協調性がある上、行動力の塊だ。一方……)


 チラッと俺は右隣の悪役令嬢(あくやくれいじょう)を見る。すると彼女も俺のことを見ていたようで……。

 俺はとりあえず、サラが渡してくれたチョコをケイに渡す。うさぎの形をしているチョコレートだ。


「ふぅーん。さっきの男の子、ウサギみたいな……かわいい顔してたわね」


(意外だ。サラのことは『かわいい』と思うのか)


「それより、あんた。もしかして王位戦に出ようと思ってる?」


 ギクッ。


 俺は図星だったこともあり、全身揺れてしまったため、人の感情に鈍感(どんかん)そうな彼女にもバレてしまったようだ。


「やっぱり〜。アタシもあんたと同じ王族だけど、王位戦(おういせん)はパス! だって、相手は上位(トップ)よー! 無理っしょ!」

「そうだー!」

「ケイさんのおっしゃる通り!」

「無理、無理ィ!」


 なぜか彼女だけでなく、前の席から男子生徒たちのヤジが入る。


「ホル先生や俺たち――悪魔族が王位戦(おういせん)に参加するっていうならわかるけど……。もしかして、人間の分際(ぶんざい)で、このイベントにチャレンジするわけ?」


 なるほど……こいつらは例の悪魔(アクマ)族なのか。俺は研究取扱者けんきゅうとりあつかいしゃ試験を受けた時に、初めて第5王子という王族かつ悪魔族である人物に会ったけど、彼は独特だった。彼らはその第5王子と比べると、大したことない気がするし、(くっ)するつもりもない。

 

「受けるかは未定だが、誰だって挑戦する権利はあるだろう?」

「ウケるー! 前に座ってるのは……アンズ?ちゃんだっけ。あとケイさんもそのメガネから貰ったチョコレートじゃなくて、こっちを飲まない? アイスティーなんだけど……どう?」


 そうか――このクラスに女子はアンズとケイしかいないのか。それで、この悪魔たちは数少ない女性陣を狙っているのか。

 それにチョコレートは俺が渡したのではなく、そもそもサラが渡したものだ。色々勘違いされているし、なんでアイスティーを用意していたのだろう……。初対面の女の子に飲み物を渡すバカがいるのか?


 アンズは「いらない……。私、冷たい紅茶は苦手で……」と断っている。さすが、アンズだ。


 一方、悪役令嬢(あくやくれいじょう)は「気が()くじゃない?」とそのコップを持ち始めていた。

 俺は『飲めばいいや』と思いつつも、ふととある疑念(ぎねん)(いだ)いたため、彼女が飲む直前、魔法を使うことにした。

【余談】

ホルム先生の名前の由来はホルムアルデヒド(HCHO)から。

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