【王位戦エントリー編】私の夢は君の夢である『研究所を作る』という目標を叶えることだからね
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「アダムくん、もう着くよー」
「ニカさん、ありがとうございました」
「いいよー、あれ……! バロくんの車が停まってるねっ?!」
「あっ、本当ですね」
偶然にも、バロさんと同じタイミングでアンズの家に着いた。
一緒にルパタもいると思っていたのだが、車から降りたのはバロさんひとりだけだった。
「バロさん、ご無事で何より。ルパタは?」
「あぁ。事前に、私の方からルパタくんにタクシーチケットを渡しておいたんだよ。病室で異常事態が起きたら、私が中に入るから、君は病院からすぐに離れなさいと」
「なるほど……」
「実際、ルパタくんと共にギリギリまで喫煙所付近で結界を張っていたからね。私が病室から出た後、喫煙所に着いた頃には、ルパタくんの姿は見えなかった。だから、無事に帰ったんだろう」
「あの——」
「ルパタが無事なのか、本人に連絡は取れたのか?」と聞こうとした矢先に、玄関から明るく透き通った声が響き渡った。
「ニカさん、こんにちは! お父さん! アダム! おかえりなさいいいい!」
アンズは俺たちが帰って来たのがとても嬉しかったのか、俺の腕をギュッと両手で握った。
「アンズ……!」
「待ってたよー!」
「た、タンマ……!」
俺はギョッとしながら、バロさんの方をチラリと盗み見る。
案の定、バロさんは目を見開いて、石像のように固まっていた。
(やっぱりなぁー!)
愛娘が年頃の男である俺にスキンシップを取っているのを見たら、娘LOVEのバロさんは絶対動揺するよな……?
次にニカさんに視線を交わすと、察してくれたのか、すかさず助け舟を出してくれた。
「ぼ、僕はここで失礼するよ! アンズちゃん、お邪魔しました!」
「ニカさん、またねー!」
天真爛漫なアンズは俺の腕から離れ、ニカさんにバイバイと手を振った。
こうして、ニカさんが帰った後、俺とバロさんは書斎に移動した。
アンズお手製のバタークッキーを味わいながら、病室で起きた出来事について話し合っていた。
「実はね、君たちが病室から去った後、大物がやって来たのだよ」
「えっ、担任のことですか……?」
アイツは大物とはいえない。
ずっと胡散臭いし……。
「いや、国王陛下だよ」
「国王陛下だったんですね、そうですか——って、こ、こ、国王陛下?!」
バロさんがあっさり言うものだから、身内か知り合いかといったノリで返してしまったけれど、「国王陛下」だなんて、大物どころか……もはや雲の上の存在だ。
「どうして……国王陛下が……?」
「お見舞いらしい。その上、今回の件を事故ではなく事件だと、明確に認知していらっしゃった。国王陛下の指示で、双子は王立科学院直下の病院へ転院することになったよ」
「へぇ……鶴の一声ってやつですね」
「……でも私は生きた心地がしなかった」
バロさんは手を震わせながら、コーヒーカップを机に置く。
思い返して動悸がしてしまうとは——国王陛下は、刃のように鋭い人物なのだろうか。
「何か言われたのですか?」
「王族に戻らないかってね。そうすれば、アンズを第3王女として迎え入れると」
「アンズを第3王女に? 国王陛下本人がおっしゃっていたんですか?」
「あぁ。元々、私も彼も同じ王子だったからね」
不可解だ。
第3王女といえば、【3】の瞳を持つイブが該当するはずではないか。
だが、イブ自身は「右目と、王女であることは内緒にして」と最初から言っていた。
(どういうことだ。イブは国王に認知されていないのか? そういえば、だいぶ前に第2王子のダンさんがまとめてくれた議事録に『第3王女の枠は空いている』と書かれていたな……)
そもそも、イブは悪魔族のシアンさんと本当に血の繋がりがあるのか。
シアンさんが母さんの形見だと言って、園芸部の部室の鍵を俺に渡してくれたけれど、本来なら妹であるイブに引き継げば良かったのでは——。
「アダムくん? アダムくん……君も私と同じだね。アンズのことが気掛かりなのかい」
しまった。
つい「第3王女」に関する考察に没頭していたせいか、バロさんの問いかけに気づけなかった。
「……失礼しました。あっ、アンズは?」
「大丈夫。アンズは王女にならないよ。娘には叶えたい夢があるからと、はっきり断ってきたんだ」
「バロさん。さすが大人の対応です」
「あぁ。それに、私の夢は君の夢である『研究所を作る』という目標を叶えることだからね」
さっきと違って、バロさんの手は震えていない。
むしろ、バロさんは自身の手をギュッと握りしめた後、俺のことを満面の笑みで見つめていた。
(わ、笑った?!)
父親らしい微笑ましい表情だが、何か裏がありそうで、警戒してしまう。
「な、何か……?」
「明日から、私たちは特訓を頑張ろうね。アダムくん」
あぁ……また始まる。苦行が……。
でも、研究者として、この世界で必ず夢を叶えたいんだ。
「わかりました、バロさん」
以降、俺はバロさんのもとで、死に物狂いで修行をこなしていった。
* * *
そして、ついに王位戦前々日。
「お世話になりました」
朝食の席で、俺はバロさんとアンズのお母さん、そしてアンズに挨拶を済ませた。
明日にはザダ校に着いて、王位戦メンバーであるニコとサラの二人と作戦の打ち合わせを行う予定だ。
「寂しいよー! でも王位戦頑張ってね! 応援してるよ!」
アンズはチョコレートドーナツを頬張りながら、俺にハイタッチを求めた。
「ありがと……」
俺がアンズの手にちょんとハイタッチを返した、その時。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン——!
玄関チャイムをリズムゲームのように何度も連打した来客が、あろうことか、家主の確認も待たずに、ドカドカとリビングまで歩いてきた。
「ヤッホー! アダムお待たせ! 間に合ってるよねん?」
俺たちの目の前に、太陽のように現れたのはオオバコさん。
彼女の右手には——最終調整された俺の防護メガネが握られていた。




