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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

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【王位戦エントリー編】私の兄上は致死量の猛毒。一方の私は薬そのもの

 隣にいる少女と初めて会ったのは、競馬場だった。

 次に会ったのは、ザダ校。

 そして、三度目の再会。


 一度なら偶然、二度なら必然。

 ならば、三度目ともなると、もはや三連単的中レベルの奇跡だろうか。


 今日の彼女も、黒いワンピースに白いボレロを羽織り、艶のある暗褐色のボブヘアを揺らしていた。

 

 だが、左耳の近くに飾っていたはずのヘアピンが無い。

 

 代わりに、彼女の右目は真っ黒な眼帯で覆われていた。


(この前までは前髪で隠していたはずなのに)

 

「アダムお兄様、どうしたのかしら? わたくしの顔に何かついていて?」

「なんでもないよ、イブ……」

「そう? でも、お兄様。葛藤しているお顔ですわね。任せて。わたくしが助けて差し上げますわ」


 イブは俺の手から、まだ通話中だった受話器を奪い取った。

 

「初めまして。今から数字をお伝えしますので、メモを取っていただいてもよろしいでしょうか?」


 受話器の向こうで困惑するニカさんをよそに、彼女は淡々と話を進めた。

 

「00000010、00001100。それでは」


 最後に彼女が口にしたのは、0と1の羅列。2進法の暗号だった。


 俺は頭の中で計算した。

 

(最初は2、次は……12)


「イブ、今のって……」

「お兄様。わたくし、乗馬の習い事をしておりますの。でも、来週は欠席しますわ。大切な命を優先いたします。ここからの出来事は、二人の秘密ですわよ?」


 イブは周囲を警戒するように見渡し、誰もいないことを確かめると、ゆっくりと眼帯の紐に指をかけた。


「この姿が、本当の私よ……」


 露わになった彼女の右眼――【3】の数字が刻まれた紅い瞳に、俺は息を呑んだ。

 

(あぁ……紛れもなく、ロイド氏と同じ瞳の色だ)


「正式に自己紹介をしていなかったわ。私のフルネームは、イブ・デーモン」


 驚愕の事実に、頭が回らなくなる。

 

 デーモン家……。


 つまり彼女は、この国の王族だ。

 しかも、第5王子と同じ血筋。


「シァ……ッ!」

「しーっ、ですわ!」


 反射的に「シアンさん」と呼びかけそうになった俺の口を、イブの小さな手が遮った。


「その人の名前は絶対に出さないで。わたくし、大嫌いなの!」


 猫のように拗ねた顔をしながら、再び眼帯を付け直すイブ。

 どうやら本気で毛嫌いしているらしい。


(そういえば、オオバコさんも嫌がってたな〜。深追いしない方が賢明だ)

 

「わかった。なら、なんで正体を教えてくれたんだ?」

「それは、お兄様が王女を必要としているからよ」

「えっ」

「私は天使族の王女ですもの」

「本当に?」


 嘘だろう。信じられない。

 だって、シアンさんは悪魔族だ。


 俺が固まっていると、イブは不服そうに俺の顔を覗き込んだ。


「あら。どうして疑うのかしら?」

「いや、デーモン家なら、悪魔族じゃないのかと思って」

「そう思うわよね。悪魔族が好みそうな、如何にも厨二病っぽい、ダサすぎる姓。本当はこんな姓、名乗りたくもないのだけれど」

「ふっ……」


 王族の姓を「厨二病」だの「ダサすぎる」だの、ボロクソに言うじゃないか。

 

 彼女の毒舌に堪えきれず、俺は吹き出してしまった。

 イブも俺の反応が面白かったのか、口元を押さえて、くすりと笑った。


「ふふっ、少しは安心したかしら? 『薬も過ぎれば毒となる』と言うけれど、私の兄上は致死量の猛毒。一方の私は薬そのもの」

「でも、薬も使い方次第で毒になるけどな。俺は前に、ある天使族に回復魔法を使ってもらったけど、効きすぎて視力まで戻ったんだ。あれは魔法のオーバードーズだったんじゃないのか?」

「へぇ。その女性は、魔力の制御ができない『普通の天使族』だったのでしょうね。その場合、過剰回復による副次効果はあり得る話だわ」

「……」


 饒舌な彼女の横顔を、俺はじっと見つめた。

 

(不思議だ。この少女は、本当に12、13歳なのか? 知識量もさることながら、どこか達観している)


「お兄様ったら、本当にわかりやすいわね……。もう自分の世界に入っているのでしょう?」

「あっ、バレたか」

「筒抜けよ。なんだか、私が尊敬していた、大切なお姉様を思い出しちゃったわ」

「お姉様?」

「えぇ。過労で亡くなってしまったのだけれど。まぁ、昔の話よ。ひとまず、結論を言うわね。私が双子を治すわ。作戦を伝えますから、しっかりお聞きなさい?」


 物事の組み立て方も、優先順位の付け方も、妙に研究者じみていた。

 俺はイブの言葉を信じて、ひとつの作戦を立てた。


「よし。じゃあ、よろしく」

「お任せを。それにしても、お兄様は強運ね。私、いえ……わたくしとリュウコさんは同じ乗馬クラブに通う顔見知りですの。当日は彼女たちとも協力しますわね」


 イブは慌てて、「わたくし」と言い直した。

 時折、「私」と「わたくし」を混ぜながら、不器用に、けれど真摯に言葉を伝えてくれる。

 

 もしかして、シアンさんとか誰かに、厳格な礼儀作法を叩き込まれてきたのだろうか。


(シアンさんが第5王子だとすると、第一王女が行方不明の今、彼女は第3王女か? 相当、窮屈な環境で育てられたに違いない。何かお礼をしないとな)


「そうだ。今度、何かお礼をするよ」

「本当にっ?!」

「もちろん」

「行きたいところがありますの!」


 彼女の茶色の左目が、宝石のようにキラキラと輝いた。


「アダムお兄様、私を薬草園に連れて行って。そこで、あなたと一緒に過ごしたいわ」


 差し出されたのは、色白で華奢な小指だった。


 どこか懐かしそうな顔を浮かべたイブと、俺は互いの小指を絡ませた。

<用語補足>

(1)2進法の計算について

イブちゃんがニカさんに伝えた「00000010」と「00001100」という暗号。

コンピュータの世界で使われる「0と1だけで数を表す」2進法です!

右から順に、1、2、4、8、16……と数が倍になっていきます。

・00000010 = 右から2番目(2の位)だけが「1」なので、答えは【2】。

・00001100 = 右から3番目(4の位)と4番目(8の位)が「1」なので、4+8で答えは【12】。


(2)オーバードーズ(過剰摂取)について

安全規定量を超えて、薬を摂取してしまうことを「オーバードーズ」と呼びます。

普通の天使族が魔力を制御できず、「過剰な回復魔法」をかけた結果、視力まで治ってしまった。

この現象をアダムさんは「魔法のオーバードーズ」だと論理的に解釈しました。


(3)三連単さんれんたんについて

競馬で1着、2着、3着と順番通りに全て当てる、最も難易度の高い馬券のこと。

アダムさんにとって、イブちゃんとの3度目の再会は、「運命という名の、万馬券級の奇跡」に感じられたようです!


<ご挨拶>

ついに明かされたイブちゃんの正体!

「アダムの暗算すごい!」「イブちゃんとの薬草園、楽しみだね!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークと、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけますと、執筆の大きな励みになります!

それではまた次回!

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― 新着の感想 ―
眼帯の少女がイブだった、その事実だけでも強い! でも本当に刺さるのは、アダムとのやり取りに滲む『前世の縁』です。 かなり心に残りました。
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