#3 薄氷
どうも日暮です。
「妖怪魔王は鼓動を止める」という作品です。
ぜひ読んでみてください。
突然現れたシャルルが、ジェヘナの胸ぐらを掴んで叫んだ。
「テメェら、パメラをどこにやった! お前らが俺を裏切ってパメラを攫ったんだろ!!」
話が見えてこないな。何か事件が起きたようだ。
「ちょっと待ってくれ。僕らは君を裏切っていないしそもそもパメラって何?」
「……! とぼけやがって! 俺を誘き寄せたうちにパメラを攫ったんだろ!!」
そう言ってシャルルは拳を振り上げた。が、その拳がその拳が僕に落ちてくることは無かった。
「もしもそれが事実だとしても、僕はわざわざ君を誘き寄せる必要はないよ。だってこれが僕の能力だもの」
パチンと指を鳴らし、振り上げたシャルルの腕を鎖で壁に固定する。
僕の妖術____この世界風の言い方をすると【固有能力】は“伏魔従縛”という拘束型の能力である。妖怪を従えているのもこの能力に由来している。
ただし、悪さもしていない妖怪を無理やり従えたりはしていないけどね。
「くっ……拘束型かよ」
「さて、本意ではないが事件の謎を解くためだ。【覚】、頼むよ」
そう言って大猿のような妖怪を召喚した。
【覚】は人の心を読む妖怪である。
「じゃあまずパメラって誰だい?」
覚が大きな手でシャルルの顎を摘んでカクカクと動かした。するとシャルルの喉から声が漏れる。
「パメラは……俺の妹だ……」
「パメラも君と同じく獣人なのかい?」
「ああ……」
「家族は?」
「パメラだけだ」
唯一の肉親を引き離すか……。
「それは外道だよ“ヤツカケ商会”……」
自分でも気づかないうちに怒りの声が漏れる。
「よし、もういいよ。無理やり喋らせて悪かったね」
恐らく商会はパメラを餌にしてシャルルを釣る気なのだろう。
地下室を探った時に檻が一つ、無造作に安置されていたが、その中に何かが入っていた。それが恐らくパメラなのだろう。
「じゃあ僕がパメラを取り返してあげるよ」
というと、シャルルは呆然としていた。
「は? テメェらまだ自分が無実だと言い張る気か?」
「残念ながら僕は無実だよ。疑うってんなら僕らがパメラを君の元に連れてくるのを指を咥えて待つがいい」
「そんなことできっかよ! 俺だって助けに行くに決まってんだろうが!!」
と一旦息をついて、声を落ち着けてからシャルルが言った。
「だが、せめてお前らを信用できる証拠をくれ……」
「そうか、じゃあ僕は奪還作戦を教えるのと……僕の命を君に預けようかな」
そして僕は作戦をアンヘルとシャルルに話し始めた。
***
「本っ当にあの馬鹿作戦実行する気なの?」
「シャルルの信頼を得られてかつ成功率が一番高いのはあれなんだよ。それに今回のは“暇つぶし”じゃない。これでも僕、仲間内では任侠を大事にしている妖怪《漢》で通っているんだよ」
「ああ、一旦は信用する。恩に着るぜ」
作戦の根幹は至ってシンプル。
建物に突撃して、制圧して、パメラを奪い返す。
そこに少しスパイスを加えるだけだ。
「それじゃあ突撃だ」
そう合図をして、三人でカツカツと、建物の正面から入った。
窓口の女性を無視して建物に押し入る。
当然慌てて止められるも無視する。
「な……なんですかあなた達、通報しますよ!」
雑兵を呼ばれるか、面倒だな。今の目的はこの商会の長だけだ。
だが、僕らに刃向かうというのなら相手をしてやらんこともない。
ホールに入ったら、剣を構えたたくさんの傭兵達に取り囲まれた。
「この程度の雑魚なら俺でもやれるぜ」
そう言って近づいて行ったシャルルが回し蹴りで一気に五人ほど吹き飛ばす。
「ジェヘナぁ、お前には勝てる気はしねぇが俺だって戦えんだよ舐めんな!」
舐めたつもりはなかったのだが、一回りほど年齢がしたのガキにしてやられたのはシャルルのプライドを傷つけたようだ。
おかげですぐに道が開いた。
シャルルが一瞬で三分の一ほどの戦力を削ってくれたおかげで雑兵共は怯んで離れて行った。
迷いなく地下室への入り口に近づく。
だが流石に剥き出しにはされていないようで入り口があるはずの場所に棚が置いてあった。
それを蹴り飛ばしてどかして露出したマンホール上の入り口を弄る。鍵がかかっているようだ。
しかたがないので踵落としをして破壊を試みる。
破壊自体には成功したが、侵入者用のトラップが仕掛けてあったようで、ドアごと大きな爆発が発生した。
「やっぱり土塊で造っただけの身体は脆いな……」
今のジェヘナの様子を見て、アンヘルは
(アイツ、相当キレてるわね……今のジェヘナは、少し怖いくらい)
普段は温厚だからこそ怒りの振れ幅は大きい。
いや、それにしても少し違和感を感じる。と思わされるまでに今のジェヘナは恐ろしかった。
(いや、そんなことを考えるのは後ね……)
そして、地下室に突入して数分走ったところに、大きな鉄檻が見えた。その前方には人影が三つ。
「アンヘル、準備を頼む」
「うん、____火焔を喰らう神よ、我に力を貸し給へ。式神召喚【炎狼】!!
轟々と燃え盛る狼を召喚した。
「やあ、初めまして少年少女。私はこの“タニカケ商会”の会長、シャンティという。わざわざ獣人のガキを寄越してくれてありがとう。そこの獣人も馬鹿なものだよ。妹一人諦めるだけで自分は逃げられるのに、それなのにわざわざ兄妹揃って奴隷になりにきやがった」
想像以上の外道だ。
「耳を貸すな、シャルル。それじゃあ作戦通りに」
そう言った瞬間に、シャルルが三つの人影に全速力で走っていった。
「はは、遊んであげなさい。ドッペル、エレジー」
シャンティがそういうと、ドッペルと呼ばれた大男とエレジーと呼ばれたシスター服の少女がシャルルに襲いかかる。
だが、それまで直線的に動いていたシャルルが、急に三人を飛び越えて、後ろの鉄檻に触れた。
(パメラは、寝ているだけか。よかった、トラウマにはならねえな)
と考え大きく息を吸い、ジェヘナに合図を送る。
「今から僕はとある結界を張る。その結界の中に一度入ると5秒間は絶対に出られない。僕を殺さない限りは。さらに結界を張っている時間の間に僕は少しでも動いたらその瞬間僕は死ぬ。理解できたかな?」
そう言ってジェヘナは手を一回叩いた。
その瞬間、シャルルは鉄檻目掛けて走り出す。
そしてジェヘナは宣言通りに地面に両手をついた状態で結界を張った。
「妖幻結界術【薄氷】!!」
この5秒以内にシャルルが鉄檻を破壊できなければ作戦は失敗だ。
残り時間5秒
「早くあのガキに少しでもいいから触れろ!!」
そうシャンティがドッペルとエレジーに指令するよりも早く、二人は僕に襲いかかってきた。
「何それヨユーすぎない? 出エジプト記【十の災い・蛙】!」
少女がそういうと、突然数多の蛙が出現し、縦横無尽に動き回る。
一匹ぶつかる程度なら多分大丈夫だが、あくまでも可能性。
不安は尽きない。だが問題ない。
「全部噛み殺せ【炎狼】!!」
アンヘルと敵対していた頃は鬱陶しい小蝿くらいにしか思っていなかったが、味方になるとそこそこ頼もしいね。
残り時間4秒
「相変わらずエレジーは小賢しい真似ばかりをするな、これでいいんだよぉ!」
ドッペルと呼ばれる大男がジェヘナの身長はあろうかという大きさの両手剣を叩きつけてきた。
「木ノ術【寄生木籠】!」
蔓が大男を絡めて縛る。
いや、本当にアンヘル有能だな。
「何をしている! こんなガキ二人相手に!!」
戦ってもいないシャンティが後ろで喚いている。
シャルルも頑張って檻を破壊しようとはしているが、檻はわずかにしなるばかりで破壊からは程遠い。
残り3秒
「こいつら意外とめんどくさいねー、でもしょーみ5秒いないに倒せたら嬉しいってだけでボクたちって今も結構優勢なんだよね。でもせっかくだし君も止まってよ」
エレジーがドッペルと刀を交差させていたアンヘルの肩をチョイと突く。
【炎狼】は僕の護衛についていてくれている。
アンヘルがエレジーに反応して少し目をエレジーにむけてしまった瞬間、アンヘルの足元から結晶が出現してアンヘルの下半身を固定する。
「【ロトの妻の塩柱】♪」
「はっ、ザマアねえなクソガキが!」
調子に乗ったドッペルがアンヘルの腹にボディブローを叩き込んだ。
「ぐっ!!」
アンヘルが呻く。
あの男もどうしようもない外道だな、少女を虐めて喜ぶとは。
シャルルが握る鉄檻がミシミシと音をたて、次第に形を変えていく。
残り2秒
「エレジー、あの犬ころを抑えとけ。クソガキには俺様が引導を渡してやるよ。死にさらせぇ!!」
ドッペルが両手剣を振り下ろしてきた。
これは流石に死んだな、だがまあ意外と悪くない人生だったかもし
「北の神よ、我に力を与え給へ、【玄武】!!」
突然ジェヘナを六角形が複合した球が多い、片手剣を弾き飛ばした。
「勝手に諦めてんじゃねえよクソバカがぁ! アンタがくれた窮地のおかげで私は成長したぞ! だから私に殺されるまで死のうとすんな!!!」
残り1秒
隙を見つけた【炎狼】が主人を捉える塩を噛み砕き、アンヘルを解放する。
「シャルルは!?」
アンヘルは解放されて真っ先にシャルルとパメラの心配をした。
僕さっき死にそうだったんだから少しくらい心配してくれてもいいじゃん、と内心で不貞腐れる。
シャルルの腕の筋肉がブチブチと音を立てている。万力の力を込められた鉄檻は、遂に完全に曲げられた。
残り0秒
ミッション達成だ。
僕が立ち上がったことで、部下の失敗を悟ったシャンティが腰を抜かして地面に座り込んだ。
パチンと指を鳴らして鎖を出現させ、首に絡めて絞め落とした。
もうこれでシャルルたちに牙を向けることはないだろう。
「シャルル、大丈夫かい」
「ああっ……本当にありがとう……」
シャルルは少女を抱き抱えていた。パメラだろう。
パメラに視線をやると、少し意外だった。てっきりケモ耳でも生えているのかと思ったが、容姿は人間そのものだった。
僕の疑問に気付いたようでシャルルが解説してくれた。
「ああ、パメラは突然変異なんだ。日によって犬の獣人になったり猫の獣人になったりするんだ。それに寝ている時の姿は完全に人なんだよ。それにしてもアンタらには返しきれない恩をもらった。だから俺はアンタの舎弟になるぜ! ジェヘナ!」
ええ……舎弟とか僕興味ないんだけど……。
「でも仲間が増えるのは嬉しいよ、これからもよろしくシャルル!」
ふと新たな疑問が湧く。
「シャルルは今までずっと商会に狙われていたんだろ? 別の街に行こうとは思わなかったのかい?」
「ああ、一度捕まったことがあったんだ。なんとかその時は逃げ出せたんだが、呪いの刻印が刻まれたんだよ。この街から出たら死ぬっていう。だから舎弟になるとは言ったが、俺たちは結局この街から動けない。すまないな……」
なるほど、そういうことだったのか。
「解けたよその呪い」
呪いなんて僕の得意分野だ。
「だからもう自由だよ、よければ住みかだって紹介する。僕と一緒に暮らさないかい?」
「……! 何から何まで本当にありがとう……!!」
といい感じになっていたのだが、水が注される。
「その住みか、私も連れて行きなさい」
アンヘルが僕の家について行こうとしている。
なんでわざわざそんな……。
「監視に決まってるじゃない! 寮ならすぐに退寮手続きできるから大丈夫、もちろんダメだなんて言わないわよね?」
う……妖怪魔王ともあろう僕がなんでこの程度のお願いを断れないんだろうか。
***
「ほら、ここが僕の家だよ」
アンヘルたちを連れてきたのは洞窟だ。
「ちょ、アンタ絶対私のこと騙してるでしょ!!」
「いや本当だよ。着いて来て」
そうして洞窟の奥まで案内する。
しばらく行った先に大岩で塞がれている。そこに手を当てると、ジェヘナが岩に吸い込まれた。
「え……何今の」
「本当アイツすげーな……」
「兄さん今のみた!? すごい!!」
いつの間にか目を覚ましたパメラも大はしゃぎである。
「と、とりあえず私たちも真似してみましょうか……」
と言ってアンヘルが手を触れると、同様に吸い込まれた。
「ここがジェヘナの住みか……」
そこはいわゆる廃村であった。
次々にシャルルとパメラもやってくる。
「やあ、ようこそ僕の“妖怪村”に。早速だけど農作業手伝って!」
いかがでしたか?
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キャラクタープロフィール
名前:シャルル
種族:獣人(アルビノ個体)
性別:男
年齢:17
固有能力:蔑透
備考:肉が好き、大人が嫌い




