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夜明けまでの縫合手術。異端者と呼ばれた男とドローンが繋いだ命

ドォォォン!!

研究所の食堂のドアが、凄まじい勢いで蹴り開けられた。老朽化していたドアは蝶番から外れ、けたたましい音を立てて床に吹き飛ぶ。しかし、クラインたちはそんな障害物など気にも留めず、雪崩れ込むように中へと急行した。


「そいつをそのテーブルの上に寝かせてくれ!」クラインはキリアンに指示を出した。


ここは医務室ではないが、負傷者を治療するのに最も適した場所だった。何より、この施設内で一番綺麗に掃除されている部屋だ。

キリアンは兄と自分を縛り付けていた上着を素早く解き、サイラスの体をテーブルの上へそっと横たわらせた。一方のクラインも、すでに意識を失いかけているミアの体を支えながら、別のテーブルの上に寝かせた。


「アルテミス、どうすればいい!? 治療はできそうか!」クラインは今最も頼りになる天才ドローンに向かって叫んだ。

「二人の容態は極めて危険な状態です。絶対に助かるとは約束できませんが、私の全機能を動員して最善を尽くします」


アルテミスはそう答えると、脈がほとんど触れないほど弱っているサイラスの元へ飛んでいき、真っ先に容態の確認を始めた。キリアンはその傍らで、祈るような目で固唾を飲んで見守っている。


「クラインさん、医務室の保管庫から救急箱を持ってきてください! すぐに必要です!」

クラインはその指示を聞くや否や、弾かれたように保管庫へと走った。


「脚の傷口からの出血が止まっていません。大動脈の完全な切断には至っていませんが、かなり深刻なダメージです。彼と同じ血液型の方はいますか?」アルテミスは兄の手を握りしめているキリアンに尋ねた。

「お、俺はこいつの弟だ! 血液型は同じだ!」キリアンは震える声で答えた。


確証はなかったが、今この瞬間において、このドローンの『異端の術』だけが、兄の命を繋ぎ止める唯一の希望だったのだ。


その時、クラインが両手いっぱいに医療器具や薬を抱えて戻ってきた。

「クラインさん、その薬のパッケージを開けて私に渡してください」

「これのことか!」

クラインは、かつて自分がゴブリンの槍で怪我をした時に使ったのと同じ薬を取り出し、シートから錠剤を次々と押し出して彼女に渡した。


アルテミスは極小のマニピュレーターを伸ばして薬を受け取ると、自身の機体内部へと取り込み、治療のための新しい成分へと急速に合成し始めた。

「ミアさんはまだ意識が残っています。先にこれを彼女に飲ませてください」

アルテミスは合成した薬をクラインに渡し、自身はサイラスの傷口に薬剤を噴射し始めた。そして、精密なロボットアームを直接傷口に挿入し、損傷した血管の修復作業に取り掛かった。


「ミア! しっかりしろ、起きるんだ! これを飲んでくれ!」クラインは彼女の体を支え起こし、弱々しく目を開けた彼女の口に薬を含ませた。

「アルテミス、薬は飲ませた! でも、ミアの様子がどんどん悪くなってるぞ!」クラインは血の気が引く思いで叫んだ。

「キリアンさん、ミアさんの寝ているテーブルを、こちらへ寄せてください」アルテミスはサイラスの血管を繋ぎ合わせながら、キリアンに指示を出した。


キリアンは何も聞かず、ミアが乗っているテーブルを力任せに持ち上げ、兄のテーブルのすぐ横までぴったりと移動させた。

アルテミスはクラインとキリアンにも合成した薬を飲ませると、自身の機体から複数の機械の触手アームを伸ばし、ミアの傷の治療も同時に開始した。


「ミアさんの傷はかなり深く、長さもありますが、幸い内臓には達していません。……クラインさん。私と一緒に、彼女の傷口を縫合してもらえますか」

「……はあ!?」


クラインは信じられないものを見るような目をした。彼には傷を縫った経験もなければ、医学の知識など欠片もない。それなのに、人間の生肉を縫い合わせろと言うのか?


「あなたの『お裁縫スキル』が、この窮地を救ってくれると信じています」


アルテミスの理路整然とした冷静な声が、クラインのパニックをスッと落ち着かせた。

確かに、彼は以前このスキルを使ってボロボロの服を綺麗に縫い合わせたことがある。裁縫の知識など全くなかったにもかかわらずだ。それなら、人間の肉を縫い合わせるのも、システムのアシストがあればできるかもしれない。……これ以上、迷っている暇はない。


「発動、『お裁縫ソーイング』スキル!」

クラインの手から、瞬時に手術用の針と合成糸が飛び出した。同時に、アルテミスが患部全体に強力な殺菌スプレーを噴射した。


「アルテミス……縫い方のリード、頼めるか?」クラインは深く深呼吸をして、極度の緊張をほぐした。

「はい。まずは彼女の服を脱がせてください。それとキリアンさん、保管庫から清潔な水と血を拭き取るための布をありったけ持ってきてください。私の内部タンクの水だけでは、この手術を乗り切れません」


キリアンが保管庫へとすっ飛んでいく間、クラインは慎重にミアの上着を脱がせた。これほど間近で女性の裸を見るのは初めてだったが、今の彼の頭の中に邪念など一切存在しなかった。あるのはただ『絶対に彼女の命を救う』という強い決意だけだ。


キリアンが戻ってきて水のボトルのキャップを開け、アルテミスがすぐにチューブを挿して使えるように近くに配置した。

「キリアンさんは、私が指示した場所の血を拭き取るサポートをお願いします」


アルテミスは二人に、傷の縫合、止血、殺菌の手順を細かく、そして的確に指示した。クラインはその指示に一糸乱れぬ動きで従った。『お裁縫スキル』の恩恵を受けた彼の手は一切のブレを見せず、まるで長年外科手術をこなしてきた熟練の医師のように、正確かつ超スピードで傷口を縫い合わせていく。


この過酷な手術は数時間に及び、気づけば窓の外からは朝日が差し込み始めていた。

ミアの傷の縫合が終わると、クラインは休む間もなくサイラスの傷の縫合に取り掛かった。ミアの包帯を巻く作業はキリアンに任せる。その間も、キリアンの腕からアルテミスを経由してサイラスへと繋がれた輸血のチューブは、休むことなく働き続けていた。


そしてついに、二人は危険な状態を脱した。

サイラスとミアはまだ目を覚まさないものの、その顔色は見違えるほど良くなっていた。


「よし、この二人はもう大丈夫だ。次はあんたの番だな、キリアン」

クラインが言った。

キリアンの傷は二人に比べれば軽傷に見えるが、それでも急いで処置をしなければ、腕と片目を失う危険性があった。


キリアンは大人しく兄の隣に座り込み、『異端者』と呼んでいた彼らに自分の身を委ねた。アルテミスはまず腕の傷を評価し、組織を修復する殺菌剤を直接注入すると、クラインに縫合を指示した。そして彼女自身は、キリアンの目の傷の治療に専念するためにふわりと浮き上がった。


「一つ聞かせてくれ……あんたたちは、一体何者なんだ?」

キリアンは傷の治療を受けながら、静かな声で尋ねた。


「えーっと……何者って言われてもなぁ。俺はクライン。……その、ごく普通の人間だよ」

クラインはどう答えていいか分からなかった。なにせ、彼はこの世界で目覚めてからまだ数日しか経っていないのだ。ここの常識は、彼がいた元の世界とは何もかもが違いすぎる。


「お前たち……異端者のくせに、全く異端者らしくないな……」キリアンは目の前を飛び回る超高性能ドローンを見つめながら呟いた。


「君たちが言う『異端者』ってのがどんな奴らかは知らないけど、君のその反応を見る限り、あんまり性格のいい連中じゃないみたいだな。だろ?」

「………ああ。あいつらが俺たちを気にかけて、こんな風に手当てしてくれることなんて、絶対にあり得ない」

キリアンはどこか遠くを見つめるように答えた。その瞳の奥には、彼が過去に経験した深い苦悩と痛みが垣間見えた。


「はい、治療完了です。目の傷はそこまで深くありませんが、回復を早めるためにしばらくはこの包帯で眼帯をしておいてください。他の二人の容態も安定しています。……ですので、私はこれで少し、お休みさせていただきますね……」


そう言い終えた瞬間、アルテミスは機体から伸びていたすべてのアームとチューブをシュッと収納し、そのまま空中で力尽きて落下した。


カランッ!!


「アルテミス!!」

クラインは慌てて地面に落ちた彼女の体を拾い上げた。機体のステータスランプは危険を知らせる赤色に激しく点滅している。


「……大丈夫です、クラインさん。ただの……バッテリー切れ、ですから……。すみませんが、充電ポートに……繋いでおいて……ください……ね……」


彼女の声は徐々にフェードアウトし、完全に沈黙した。今日一日、彼女は休みなく限界を超えて稼働し続けていたのだ。こうして強制的にシャットダウンしてしまうのも無理はない。

クラインは彼女の丸い体を自分の頭の上にそっと乗せた。しかしその時、彼自身のシステムから警告音が鳴り響き、彼の動きもピタリと止まった。

彼のエネルギー残量もまた、限界ギリギリの『4%』を叩き出していたのだ。


「ヤッベェ……! 俺も、もう限界だ……」クラインはフラフラとキリアンの方を向いた。


「なぁ、筋肉のお兄さん……あとは、よろしく頼むぜ。腹が減ったら、保管庫にあるものを好きに食ってくれ。ただし、食べる前に『水を入れる』のだけは、絶対に忘れるなよ……」


その言葉を最後に、クラインの意識は完全に途切れ、その場にバタリと倒れ込んで深い眠りへと落ちていった。

静まり返った食堂には、困惑した表情で立ち尽くすキリアンだけが一人残されたのだった。

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