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東エリアの絶対禁忌『ゾンビウルフ』の無双と

ズシン……ズシン……ズシン……。


静まり返った空気の中、先ほど幻影のゴブリンが飛び出してきた路地の奥から、地響きのような重い足音が響き渡った。そして、圧倒的な巨体を誇る巨大な影が暗闇の中から姿を現し、全員の前に立ち塞がった。


「グルォォォォォォォォォォッ!!!!!!」


路線バスほどもある超巨大な狼が、鼓膜を突き破るような凄まじい咆哮を上げた。

その体には毛が一切なく、濁った緑色の皮膚は腐り果ててドロドロに溶け落ち、強烈な腐臭を放っていた。全身には信じられないほど深い裂傷が無数に刻まれており、どう見ても生きているとは到底思えない。その姿は、地獄の底から蘇った『アンデッド・モンスター(歩く屍)』そのものだった。


目の前に現れた巨大なゾンビウルフの姿に、人間を追い詰めていたゴブリンの軍勢は完全にパニックに陥った。奴らは陣形を崩し、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

……これこそが、東エリアがゴブリンたちにとって「誰も足を踏み入れない絶対の禁足地」となっていた理由だったのだ。


巨大狼は、目の前に広がる極上の「餌の山」を見て、血に飢えたように口を大きく裂いて笑った。そして弾かれたように巨体を躍らせると、巨大な顎で一気に3匹のゴブリンを噛み砕いた。

バキィッ! メチャァッ! という骨が砕ける生々しい音と、ゴブリンたちの断末魔の悲鳴が狼の巨大な口の中から響き渡る。


その恐ろしい光景を前に、ゴブリンの老王は神輿の上で恐怖のあまり完全に硬直していた。ようやく声を振り絞り、全軍にあの化け物を攻撃するよう命じたが、もはや誰一人として王の命令に従う者などいなかった。


巨大狼は天を仰ぎ、口の中のゴブリンを一気に丸呑みにした。しかし、その強烈な飢餓感が満たされることは決してなかった。なぜなら、飲み込まれたゴブリンの肉体は喉を通った直後、狼の胸の中心にある『ぽっかりと空いた巨大な大穴』からすり抜け、そのまま地面へとボタボタとこぼれ落ちてしまったからだ。

まるで、この腐り果てた肉体は『永遠に満たされることなく、飢えと殺戮を繰り返す呪い』をかけられているかのようだった。


怪物は首をバキッと鳴らし、次の獲物――先ほど偉そうに命令を下していたゴブリンの老王へと視線を向けた。

老王は恐怖に顔を引き攣らせて激しく息を乱し、大慌てで杖の先端を怪物に向けた。次の瞬間、真紅の光が閃き、巨大な火球がゾンビウルフの体を正確に直撃する。大気を揺るがす凄まじい爆発音が轟き、猛烈な爆炎と砂埃が辺り一帯を包み込んだ。


やがて煙が晴れると、爆発によって右半身が完全に吹き飛び、地面に横たわってピクリとも動かなくなった巨大狼の姿が現れた。

老王は歓喜の声を上げた。しかし、その希望は一瞬にして絶望へと変わる。半壊した狼の死骸が、再びゆっくりと立ち上がったのだ。そして、千切れ飛んだ肉片と深い傷口が、おぞましい音を立てながら蠢き、凄まじいスピードで再生し始めたではないか!


その悪夢のような光景を目の当たりにした神輿の担ぎ手のゴブリン4匹は、完全に戦意を喪失し、王を放り出して一目散に逃げ出した。バランスを崩した神輿が傾き、ゴブリンの老王は無様に地面へと転げ落ちた。

老王はパニックになりながらも必死に立ち上がろうとしたが、その瞬間、頭上から強烈な腐臭を放つ生温かい息が吹きかかった。顔を上げると、そこには不気味に牙を剥いて笑うゾンビウルフの顔があった。

老王が悲鳴を上げる間もなく、怪物の巨大な顎が哀れな王の頭部をいとも簡単に食いちぎった。


一方その頃、人間たちはゴブリンの包囲網からあっさりと抜け出し、全力で逃走を続けていた。もはやこの状況で、人間に構っている余裕のあるゴブリンなど1匹もいなかったからだ。


「アルテミス、あいつ一体何なんだよ!?」クラインはミアに肩を貸して走りながら叫んだ。

「あの狼は『ネオゲート』の有毒物質から生き延びた唯一の生命体です。毒素に適応する過程で突然変異を引き起こし、異常なまでの長寿と再生能力を獲得しました。実質的に『不死身の怪物』と呼んで差し支えないでしょう」


クラインは走りながら後ろを振り返った。そこには、次から次へとゴブリンを面白半分に引き裂き、狂ったように暴れ回る巨大狼の姿があった。彼は心に固く誓った。『もう二度と、絶対に東エリアには近づかない』と。


同時刻。敗走し、大混乱に陥るゴブリンの軍勢の中で、あの『刃の腕を持つゴブリン』は、首を失った老王の骸の前にひっそりと姿を現していた。

しかし、その帰還は決して主君への忠誠心からではない。奴は汚い裸足でかつての王の死体を乱暴にひっくり返し、死後硬直で握りしめられていた『価値ある魔術の杖』を無理やり奪い取った。

――新たな王が、権力の座に就く時が来たのだ。


___________________


クラインたちは、ついにネオゲートの研究所ビルの近くまでたどり着いていた。道中、逃げ遅れたゴブリンと何度か遭遇したが、彼らの歩みを止めるほどの障害にはならなかった。

今、彼らにとって真に深刻で憂慮すべき問題は……サイラスとミアの容態が、もはや限界のレッドゾーンを越えようとしていることだった。


サイラスの呼吸は、いつ止まってもおかしくないほど微弱になっていた。ミアの肩の傷も予想以上に深く、彼女の意識はすでに朦朧としている。クラインが必死に彼女の体を支えているが、ミアの足は完全に力尽き、地面を引きずるようにしてなんとか前へ進んでいる状態だった。


「着いたぞ、あそこだ!」

エントランスの階段まであと数歩というところで、クラインは息も絶え絶えに叫んだ。


しかしその瞬間、予期せぬ事態が起こった。

天井から3基の自動防衛タレット(機関銃)がウィーンと音を立てて降下し、彼らに銃口を向けてきたのだ。そして、あの無機質な合成音声が響き渡る。


『警告。侵入者を検知しました』


それを見たキリアンは、反射的に持っていた斧を構えた。クラインもパニックになり、慌てて両手を高く空へ突き上げた。


「おいおいおい! タレットさん、俺だよ、俺! クラインだってば!!」

青年はかなり焦っていた。少し小汚くなっているとはいえ、あの超優秀なAIシステムが俺の顔を認識できないはずがない。クラインが横を見ると、キリアンが斧を構えて完全に戦闘態勢に入っていた。


「おい! 筋肉のお兄さん! その斧を……下ろしてくれ……!」

クラインは必死にキリアンにシグナルを送った。どれだけ彼が腕力に自信があろうと、頭に照準を合わせている3丁のマシンガンに勝てるわけがない。一歩でも動けば、一瞬で蜂の巣にされるのは明白だ。しかし、キリアンの瞳からは戦意が全く消えていなかった。


「キリアン……武器を……捨てて……」

意識を失いかけていたミアが、消え入るような声で言った。


キリアンはこの不気味な建物も、謎のサイボーグの男も、その横に浮かぶ丸いボールも、何もかも信用していなかった。この状況で唯一の武器を手放すなど、あまりにも無謀すぎる。しかし、背中で息絶えようとしている兄の体から「冷たさ」が伝わってきた瞬間、彼の中のすべての迷いが吹き飛んだ。

彼は悔しそうに顔を歪めると、相棒の斧を床に投げ捨て、これから起こるかもしれない最悪の事態を受け入れるようにギュッと目を閉じた。


「タレット! 彼らは武器を捨てた! 中に入れてくれ! 彼らは俺の友達だ、頼む!!」

クラインはシステムに向かって必死に叫んだ。この機械がどういう基準で動いているのか全く分からないが、全員の命を救うためにはどんなことでもするしかなかった。


『……………』

『……確認完了。通行を許可します』


システムの音声が響くと同時に、3基のタレットは静かに天井のハッチへと収納されていった。


「キリアン! 早く中へ!」

クラインが手招きする。キリアンはまだ警戒していた。床に投げ捨てた斧を名残惜しそうに見つめた後、覚悟を決めてサイボーグの青年の後につき、研究所の中へと足を踏み入れた。


___________________


同じ頃。

巨大なゾンビウルフの『血の晩餐会』は、100匹近いゴブリンの残骸が散乱する凄惨な広場で終わりを迎えていた。

怪物は相変わらず満たされることなく、残った死肉を漁りながら広場を徘徊していた。しかし突然、その本能が何かに反応してピタリと止まる。奴の視線は、地面に残された『真っ赤な血だまり』に向けられていた。

ゾンビウルフは不思議そうに鼻を近づけ、今まで嗅いだことのない未知の匂いを嗅ぎ取ると、千切れかけた舌を出してその血をペロリと舐め取った。


次の瞬間、怪物の目がカッと見開かれた。

この赤い血は……ゴブリンどものドス黒く腐った血とは全く違う。信じられないほど甘く、極上の味がするのだ。

怪物の中で、眠っていた『純粋な捕食者の本能』が再び激しく呼び覚まされた。奴は狂ったように周囲を見回し、飢えと渇望に満ちた目で……その『赤い血の痕跡』が続いている方向を、じっと見つめた。

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