表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/31

異端者の誤解と脱獄。響き渡る老王の咆哮と、終わりを告げる逃走の時間

『……異端者? こいつら、一体何の話をしてるんだ?』


クラインは困惑した表情で捕虜たちを見つめ返した。なぜ彼らは、せっかく助けに来た人間を『異端者』と呼ぶのだろうか。……俺の服装が変だったか? いや、普通のはずだ。それとも、さっきゴブリンと戦っている時に、無意識のうちに変な呪文でもブツブツと唱えてしまったのだろうか……。いや、そんな覚えはない。

だとしたら……もしかして彼らが自ら檻の中に入っているのは、何か神聖な儀式の最中で、俺は空気を読まずにそれに乱入してぶち壊してしまったのか!? ……ヤバい、やってしまったかもしれない……。


沈黙と気まずい空気が流れる中、クラインは自分が何かとんでもない無礼を働いてしまったのではないかと考え、どうしていいか分からずただ瞬きを繰り返した。


「あ……えっと……ごめんなさい。僕、その……儀式を邪魔しちゃったみたいで……」

クラインはしどろもどろに謝りながら、開け放った牢屋の扉を元通りに閉めようと一歩引いた。


「待って! 私たちをここから出して!」

扉が閉められそうになったのを見たミアは、慌てて鉄格子に掴みかかった。


「ミア! 異端者に関わるな! 奴らは俺たちに更なる災厄をもたらす存在だ!」

キリアンはクラインから兄を守るように、サイラスの前に立ちはだかった。


ミアは困惑した様子でキリアンをチラリと見てから、何かを天秤にかけるように視線を泳がせた。

「……もう私たちに選択肢なんてないわ、キリアン。このままここにいれば確実に殺される。……今は、この『異端者』の男に頼るしかないのよ」


クラインは内心で突っ込んだ。『これ、そろそろ怒っていいタイミングだよな? 連続で異端者、異端者って……』


「あのさ、君たち。もしよかったら、俺のことは『クライン』って呼んでくれないか? さっきから異端者呼ばわりされて、ちょっと気分が悪くなってきたんだけど」

クラインはできる限り丁寧な口調で努めて言った。


『クライン』という名前を聞いた瞬間、ミアとキリアンはあからさまに驚いた表情を見せた。


「……クライン……私たちをここから助け出してくれるの?」

若い女性は再び青年に向かって懇願した。


「……ああ、もちろんだ。でも急いでくれ。早く!」

クラインは牢屋の扉を大きく開け放ち、彼らに早く出てくるように手招きした。これ以上ここに長居するのは危険すぎる。


ミアはキリアンに向かって頷き、最初に牢屋から足を踏み出した。一方のキリアンは、いまだにクラインに対する強い警戒心と不信感を隠そうとしなかったが、今の彼には他に選べる道はなかった。


「サイラス兄さん、行くぞ」

キリアンはその屈強な体で、意識を失ったままの兄を慎重に背負い上げた。そして、自分の上着を使って兄と自分をしっかりと結びつけて固定し、檻の外へと踏み出した。


「これ、借りてもいいかしら……?」

ミアは床に落ちていたクラインの槍を拾い上げ、護身用の武器として構えた。キリアンも屈み込み、ゴブリンの落とした巨大な斧を片手で軽々と拾い上げた。もう片方の手は、背負った兄をしっかりと支えている。


「お、おう……ああ、いいぜ。俺にはこっちの斧があるからな」

クラインも地面に突き刺さっていたもう1匹のゴブリンの斧に手を伸ばした。しかし、どれだけ引っ張ってもビクともしなかった。


「ふんぬぅぅぅっ!! ……ハァ。まあいいさ。元からこんなもん使う気はなかったし」

サイボーグ青年はそう言い訳をしながら、ミアが持っている自分の槍をチラリと見た。彼女の目は「絶対に返さないわよ」と雄弁に語っていた。


「発動、『クッキング(料理)』スキル!」

クラインの右手が再び巨大な肉切り包丁へと変形した。彼は『最初からこれを使う予定だったんだぜ?』と言わんばかりのドヤ顔を見せた。


クラインが使用している『クッキング』スキルは、外見上の物理構造を変化させるだけなので、エネルギーを一切消費しない。そのため、エネルギー残量がわずか17%しかない状態でも、彼は何も気にすることなくこの武器をいつでも呼び出すことができた。


「よし、俺についてこい!」


___________________


狂喜乱舞する悪魔たちの宴の最中。10匹にまで減ってしまった刃のゴブリンの部隊が、手ぶらで巣窟へと帰還した。新しく部隊長となった刃のゴブリンは、怒り狂い、極度に苛立っていた。獲物はすぐ目の前にいたというのに、まるで煙のように跡形もなく消え失せてしまったからだ。


刃のゴブリンは酔っ払って騒ぐ仲間たちを乱暴に押しのけ、大いなる王に失敗を報告すべく玉座へと一直線に向かった。奴は玉座の前に膝まずき、ゴブリン特有のしゃがれた言語で事の顛末を報告した。


……しかし、ゴブリンの老王は全くの無反応だった。部下を見下ろすその視線は氷のように冷たく、圧倒的な軽蔑に満ちていた。まるで価値のないただのゴミクズを見ているかのようだ。老王はすぐに興味を失い、使えない部下のことなど見向きもせず、再び宴の狂乱へと意識を戻した。

その無言のサインを受け取った巨大な護衛ゴブリンたちは、即座に刃のゴブリンを玉座から乱暴に突き飛ばし、王の視界から追い出した。


大勢の仲間の前でゴミのように扱われた刃のゴブリンは、激しい屈辱と怒りに震えた。しかし、主君の面前でその野蛮な感情を爆発させるわけにはいかない。奴は腹立ち紛れに近くのゴブリンから黒い酒をひったくり、「シャーッ!」と牙を剥いて威嚇し、誰も近づかせないようにした。

今、奴の鬱憤を晴らすことができるのは、檻に閉じ込めた『捕虜』たちをサンドバッグにして甚振いたぶることだけだった。奴はボトルの酒を一気飲みすると、足早に廃病院へと向かった。


しかし、3階の階段にたどり着いた時、奴は異常事態に直面した。

部屋の前の松明は完全に消え去り、外の巨大な焚き火の光だけが鉄格子越しに差し込んでいた。開け放たれた牢屋の扉と、真っ黒な血の海に沈み、ピクリとも動かない2匹の筋骨隆々な門番の死体がそこにあったのだ。


刃のゴブリンは驚愕に目を丸くした。慌てて牢屋の中を見回したが、そこは完全にもぬけの殻だった。奴は弾かれたように建物の裏側のバルコニーへと飛び出した。

奴の視界に飛び込んできたのは……自分が何よりも憎悪している『あのサイボーグの人間』が、捕虜たちを引き連れて逃走している姿だった!


刃のゴブリンは血を吐くほど強く歯を食いしばり、怒りで顔を歪ませた。そして後ろを振り返り、病院中に響き渡る声で「捕虜が脱走したぞ!」と仲間に向かって叫んだ。


その叫び声は、外にいるゴブリンの老王の耳にもしっかりと届いた。

老王は手にした杖を天高く掲げ、魔術を詠唱した。真っ赤な光が閃き、同時に空気を震わせるほどの轟音が響き渡る。その音は、周囲の狂騒を一瞬にして静まり返らせた。老術師は、鉄格子の奥から必死に叫んでいる刃のゴブリンをギロリと睨みつけた。


老王の目に激しい怒りの炎が宿る。奴は玉座から眼下の広場にひしめく500匹近いゴブリンの軍勢に向かって、雷鳴のような咆哮を放った。


「ギィィィッ! グロォッ、ギャアアアッ!!!!」


王は配下の者たちに宣言した。自らのような絶対的な王の誇りを汚した者たちを直ちに追跡し、想像を絶する凄惨な拷問にかけるために引きずり戻せ、と。


その命令が下された瞬間……500匹の悪魔の軍勢が一斉に雄叫びを上げた。その地鳴りのような咆哮は、周囲の廃ビルを激しく揺るがした。ゴブリンたちは各々の武器を掴み取り、人間の捕虜たちを血祭りにあげるべく、怒涛の勢いで追跡を開始した!

そしてなんと、今回は老王自身も前線に立ち、敵を狩るために自ら軍勢を率いて出陣したのだ!


空気をビリビリと震わせるほどの凄まじい雄叫びは、遠く離れた場所で逃走を続けていたクラインたちの耳にも届いていた。彼らはピタリと足を止め、顔面を蒼白にして互いの顔を見合わせた。


……誰もが悟っていた。彼らの『逃走の猶予時間』は、今この瞬間に……完全に尽きてしまったということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ