夢見たダークヒーローは『究極のサイボーグ家政夫』!?
クラインは廃墟の食堂で、眉間に深いシワを刻みながらシステムの画面を睨みつけていた。そして、お湯を入れてちゃんと調理する手間すら惜しいのか、乾燥したままのレーションのブロックをボリボリと、歯が浮きそうな音を立ててかじり続けていた。
「クラインさん、お水も飲まずにそんな食べ方をしては、後でお腹を壊しますよ」
アルテミスは気遣うように注意したが、クラインの全神経は目の前のシステム画面に注がれており、完全に外部の世界からシャットアウトされていた。
「なぁ、アルテミス……俺、この画面の意味がさっぱりわからん」
クラインは画面から視線を外さずに呟いた。
「どの部分が分からないのですか、クラインさん?」
ようやく相棒が我に返って話しかけてくれたことに、アルテミスは少し嬉しそうに答えた。
「だって、ここに何も書いてないじゃないか。俺の名前だけで、レベルやクラスの欄は空っぽだ。それに何より……俺の『超絶クールなスキル』が何なのか、一言も書いてないぞ!」
アルテミスはクラインのシステム画面をチェックするためにふわりと近づいた。そこには、数行のテキストだけが表示されていた。
[名前:クライン・クイントン]
[性別:男性]
[タイプ:サイボーグ]
[状態:正常]
[※固有スキルを確認するにはここをタップ]
「『固有スキル』なら、一番下の行にあるじゃないですか」
アルテミスはクラインの方を振り返り、ステータスランプをチカチカと瞬かせた。これほどはっきりと書かれているのに、なぜ彼には見えないのだろうかと不思議に思いながら。
「あぁ、そこにあるのは知ってるさ……でも、実戦で使えるスキルが一つもねぇんだよ!」
「私が確認したところ、たくさんあるじゃないですか。ええと……『コーヒーブレイク(珈琲淹れ)』、『パーフェクト・ランドリー(洗濯)』、『スイープ・アンド・モップ(掃き拭き掃除)』、『ウォーター・ザ・プラント(水やり)』、『ベッドメイキング(シーツ交換)』、『クッキング(料理)』、それに『ソーイング(裁縫)』……ほら、こんなにたくさんのスキルが揃っていますよ!」
アルテミスがシステムに表示されたスキルのリストを読み上げると、クラインは頭を抱え、これ以上聞くに堪えないとばかりに絶叫した。
「そんなわけあるかあああっ! 外の世界にはモンスターがウヨウヨしてるってのに、なんで俺のスキルが『コーヒー淹れ』と『洗濯』なんだよ! 熱々のコーヒーをゴブリンの口にぶち込んで戦えってか!? ふざけんなぁぁぁっ!!」
青年の悲痛な叫び声が響き渡る。超絶クールなダークヒーロー系サイボーグになるという彼の夢は、木端微塵に打ち砕かれた……これはどう見ても、彼を『究極のサイボーグ・ハウスキーパー(家政夫)』にするためのスキルセットではないか!
「……クラインさん。もしかすると、あなたのメインミッションとは……」
「ストォォォップ!!」
クラインはアルテミスの言葉を遮るように両手をクロスさせた。彼女が次に何を言おうとしているのか、痛いほどわかっていたからだ。
これらのスキルから推測するに、クラインのミッションが何であるかは容易に想像がつく……そう、もしかすると『研究施設の清掃ミッション』かもしれないのだ。システムは単にこの辺りが汚れてきたから彼を叩き起こしただけで、掃除が終われば「はい、お疲れ様でした」と再びカプセルでの休眠を命じられるかもしれない。次の大掃除の時期が来るまで……。もちろん、これは彼の最悪の被害妄想に過ぎないが。
結局、クラインは哀愁漂う『絶望の石像』と化し、部屋の隅で体育座りをして、かわいそうなオーラを全開に放ち始めた。さすがのアルテミスも、この状況をフォローできるような良い慰めの言葉を見つけられなかった。
「あの……クラインさん?」
「……いや」
アルテミスは、彼が自分に八つ当たりして怒っているのではないかと密かに心配していた。しかし、それは彼女の完全な思い過ごしだった。
「……まだ、道は残されてるはずだ!」
クラインは再び立ち上がり、その瞳には希望の光が宿っていた。
「外に出てモンスターを倒しまくれば、戦闘用のクールなスキルがアンロックされるかもしれないだろ! な! そうだろ、アルテミス!」
クラインは異常なほどハイテンションでアルテミスに同意を求めた。しかし彼女は、彼の視線から逃れるように、ゆっくりと顔(?)を逸らした。
「そ、そうですね……その可能性も、なくはない……かも?」
どうやらこの天才ドローンは何か知っているようだった。しかし、キラキラと期待に満ちた目で見つめてくるクラインを見て、彼女はその残酷な真実を口にする勇気が出なかった。少なくとも、今は彼をこのまま立ち直らせておく方が得策だ。外に出て冒険を始めれば、そのうちこんなこと忘れてしまうかもしれないし。
「もうすっかり夕方だな。あと数分もすれば日が沈む。今から外に出たら、暗くなる前に戻ってこられないぜ。よし、明日の朝早く起きて出発しよう! な、アルテミス!」
「了解しました、クラインさん。では今日は、明日に備えてゆっくり休むことにしましょう」
そう決まると、クラインはすぐさまゴミを集めて捨て、カプセルルームへと一目散に戻っていった。
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カプセルルームに戻ったクラインは、急いでベッド(カプセル)によじ登り、横になる準備として枕の埃を数回手で払った。その時、ふと部屋の入り口付近でフワフワと浮いているアルテミスの姿が目に入った。
「悪い悪い、アルテミス。すっかり忘れてたよ」
クラインは、彼女の寝床について全く考えていなかったことに気がついた。彼はカプセルから飛び降り、ベッドの下にあるドローン収納用のハッチを開けてやった。なんせ、彼女には自分でハッチの蓋を開けるための『手』がないのだから。
「お気遣いなく、クラインさん」
アルテミスがそう言った直後。彼女はスーッと下降し、クラインの頭のてっぺんに『ピタッ!』と張り付いた。あまりの突然の出来事に、クラインはビクッと体を震わせた。
「あのー……アルテミスさん? 俺の頭はドローンのヘリポートじゃないんですけど」
クラインは眉をひそめ、困惑しながら抗議した。
「何を仰っているんですか。あぁ、これが私の『睡眠モード』なんですよ。私には大容量のバッテリーや内蔵発電機が搭載されていないため、休む時や充電する時は、外部のエネルギー源に頼る必要があるんです。例えば今、私はクラインさんからエネルギーを充電しています。昔のスマートフォンのテクノロジーに例えるなら、MagSafeのようなシステムですかね」
確かにワイヤレス充電のMagSafeだと言われれば納得できる。なぜなら今のアルテミスは、クラインの頭頂部にガッチリと吸着しており、彼がどの方向に頭を傾けても、微動だにしないからだ。
「そうなのか……俺の体の中に、お前を充電できるほどたくさんのエネルギーがあるのか?」
「現在私が感知している限りでは、クラインさんの体内には有り余るほどの膨大なエネルギーが流れていますよ。最近のヒューマノイドロボットは自己発電できるものが主流ですが、サイボーグであるクラインさんのメイン動力が何なのかは、私にもよくわかりません。私のシステムにはサイボーグに関するデータが極端に少ないのです。
ですが、私なりに二つの仮説を立ててみました。一つ目は、摂取した栄養分を電気エネルギーに変換するシステムが備わっている可能性。そして二つ目は……体内に『小型の動力炉』が内蔵されている可能性です。そうでなければ、その機械の義手や義足をこれほどスムーズに動かすことは不可能でしょう」
クラインは自分の体を見下ろし、機械の腕を胸のあたりに当てた。
「そ、それって……もし本当に動力炉が入ってるとしたら……その、ドッカーン!って爆発したりしないよな?」
クラインは不安げに尋ねた。彼の中には、『この世のすべての機械は自爆機能を持っている』という奇妙な思い込みがあったのだ。ミシンでさえ例外ではない。
「そうですね、一部の古いリアクターには爆発のリスクがありますよ」
アルテミスの答えを聞いて、クラインの顔から一瞬で血の気が引いた。
「ですが、現在送られてきている電流を見る限り、エネルギーの安定性は極めて高いです。ですから、爆発の確率は『ほぼゼロ』と言っていいでしょう」
それを聞いて、クラインは安堵の大きなため息をついた。しかし心の片隅では、相棒の『ほぼ』という言葉が引っかかって仕方なかった。
「もしクラインさんがご不安でしたら、私があなたの身体を解剖して調べてみましょうか? そうすれば、どんなエネルギー源なのか確実にわかりますよ」
アルテミスはそう提案すると同時に、彼女の小さな機械の腕の一つを鋭いブレード(メス)へと変形させた。空中で『シャキィン……シャキィン……』と物騒な音を立てている。
「おっ! お気遣いなく、アルテミス殿! 私めは別に、自分の身体の秘密をすべて知りたいなどという野心は持ち合わせておりませぬ! エネルギーが何であろうと、動けばそれでヨシ! アルテミス殿が快適に充電できれば、それで十分でございますからぁっ!」
ドローン娘が本当に自分の体を切り刻むのではないかと恐れ、クラインは早口で全力の拒否権を発動した。
「クラインさんがそう仰るなら、わかりました。私もなんだか眠くなってきましたし。今日はエネルギーをかなり消費しましたからね」
クラインは心の中で猛烈にツッコミを入れた。『そりゃ消費するだろうよ! 一日中、俺にスタンガンみたいに電流を浴びせまくってたんだからな!』
「おやすみなさい、クラインさん」
「……おやすみ、アルテミス」
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