40. 花の季のある日︰sideレオン
レオン視点で送る振り返り&後日譚です。
初めてルカを見た時、その美しさに息を呑んだ。
白銀の滑らかな髪に吸い込まれそうなナイトブルーの瞳、過不足なく完璧なまでに整った顔立ち。それなのにどこか儚く、頼りなげにも映った。
“俺はレオン。アストラ魔法学園の一年生だ。お前は?”
“……ルカ。”
柔らかく澄んだ声で、ただ一言。不安そうなその様子に庇護欲をかき立てられた。
記憶がなく、本人ですら何者なのか分からない。そんな彼の力になりたいと自然と思った。
――放っておけない。それは保護本能に近かったはずなのに、いつの間に愛してしまったのだろう。
俺はずっと、守るべき“何か”を探していた。
決められた使命でも理屈でもなく、自分だけが守ることの出来るもの。けれどそんな漠然とした欲求は馬鹿げていると、自身に呆れてもいたのだ。
でも、本当にいたんだ。生涯をかけて守りたいと心から思える人が。このために守りの光魔法を授かったのだと、そう感じられるほどに。
ルカ、お前は自分の魅力にどれくらい気がついているんだろう?
魔法を扱う時の、緊張しつつもどこか楽しそうな表情。話す時に相手をじっと見つめる癖。自分にも他人に対しても取り繕わず、眩しいくらいに綺麗な心を持っている。
守りたいだけならまだ良かった。抱いてしまったのは厄介なことに、生まれて初めての感情だ。
ルカが笑うと自分も嬉しくなる。でもその笑みが他の奴に向くと、少し面白くない。ふいに触れたくなる。自分が恋をしているのだと気が付き、それを受け入れるのには少し時間がかかった。
ふとした時に女性らしい仕草を見せることはあっても、ルカは男だ。いや、同性を愛してはいけないという決まりはどこにもない。問題はルカが友人として、それも一番に頼れるルームメイトとして見てくれているらしいことだった。
だから想いを止められこそしないものの、ずっと抑えていた。今の関係性でも守ることは出来るから。
――けど結局、そうもいかなかったな。
あの日、ルカの方から触れられて期待してしまった。確かめずにはいられなかった。
“……聞いていいか、ルカ。俺に触れた時……どんな気持ちだったんだ?”
“それ、は……。”
戸惑ってはいたが拒まれなかった。多分好きだ、なんてずるい答えごと抱きしめて、もう二度と離したくないと思った。
素直に打ち明けてくれたことも、そのうえでこれからも傍にいたいと望んでくれたことも、心から幸せだ。たとえ想いの質量が異なっていたとしても。
ルカが許してくれる限り、傍で守り支えることを誓っている。
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「フィル先生、これ、頼まれてた書類です。」
「お、悪いなレオン。助かった!今日はこれで上がっていいぞ。」
そんなやり取りをした後で荷物をまとめ、職員室を出る。窓の外を見ると日が落ちて暗くなっていた。
――卒業後も予定通り、アストラ魔法学園に残った俺たち二人。
ルカは学園長補佐として、俺は教師見習いとして日々を送っている。学ぶことは山ほどあった。
慌ただしいが有難いことでもある。"学園に教師以外のかっこよすぎる人がいる"と、新入生の間で噂になり始めているのだけは気がかりだが。
同室生活は、学生寮とは別の棟で継続中だ。ルカはルカで忙しそうで、部屋に戻るのはこっちの方が早いこともある。今日は相手が先のようだ。
扉を開けると、机に向かっていたところを振り返り、朗らかに笑いかけてくれる。
「おかえり、レオン。」
「ん、ただいま。」
近づいてその頭に片手でポンと触れ、そのままそっと銀の髪を撫でた。相変わらず指通りの良い質感だ。触れているこちらの方が心地よくなる。
「……もう。」
されるがまま、満更でもなさそうな顔。もう何度もこうしているのにだ。微笑ましくて笑みがこぼれた。
「ルカ。」
「ん?」
「……なんでも、ない。」
抱きしめたい衝動はぐっと堪える。いきなり深く求めるつもりもないのだが、ルカはそうしたことにもの凄く慎重だった。だが焦ることでもない。
ただいつかは、もっと触れることも許してほしいと思う。心の準備が出来るまで、いつまででも待つから。
「……いや。やっぱり、好きだ。」
「……どうしたの、いきなり。」
「言葉にしちゃだめか?」
「………。」
美しい瞳のなかで光が揺れる。それから形の整った唇が綻んだ。
「ううん。……僕も好きだよ、レオンが。」
「……知ってる。」
「なんだよそれ。」
こんなやり取りがどうしようもなく愛おしい。名残惜しく距離を取ったあとで、一人静かに誓った。
これから先もずっと、愛し守り抜くのだと。
揺れ動きながら前へ進もうとしていた過去も、確かな意思で歩んでいる今とこれからも。誰にも傷つけさせないし奪わせはしない。
幸せでいよう。出来ることなら……いや、必ず二人一緒に。
こっそり振り返ると、そんな心の内を知ってか知らずか、ルカの横顔はどこまでも穏やかで優しかった。
-END-
完結です〜!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
結末から覗かれた方も、見つけてもらえたことが嬉しいです。
(誰か一人にでも気に入ってもらえますように……!)
ルカを中心に、頭のなかにいたキャラクター達を描けて作者は満足です。
ありがとうございました!




