-螺鈿の葬列- 10
「おぉ!スゴいぞ、圭吾!!」
カエデは、瞳をキラキラさせて興奮気味に叫んだ。
そんなカエデの側に、もう一人のカエデが涼やかに微笑んで立っている。
「他人の姿に変化出来るとは、『シキ』も成長したな!」
両手を拳にして息巻くカエデを見て、水谷も嬉しくなって微笑み返した。
『シキ』も狐の姿に戻ると、踊るように飛び跳ねる。
「今日は、このくらいにしておこう。出迎えに行かねばならぬしな」
「出迎え?」
「『裏御前』様が、お帰りになられるのだ。前に話した東雲とな」
カエデは何かを抱きしめるように腕を組むと、うっとりとした溜息をついた。
どこか色っぽい仕草に、水谷はドキリとする。
「東雲は可愛らしいぞ。目にいれても痛くない程にな」
「えっと・・・それは、『鬼』の方?」
「どっちもだ。あれほど可愛らしい女子は、そういない!」
カエデは、即答で言い切った。
可愛らしいと言われ、水谷は少女雑誌の挿絵を思い描く。
学校に、ほとんど行けてなかったせいで、あまり女の子と関わった事がなかった。
カエデのようにサバサバとした性格なら取っつきやすいが、女の子らしい女の子と、ちゃんと話が出来るだろうか。
水谷は、不安から苦笑いを浮かべた。
「『現世』よりも『隠世』で会う方が早いだろう。散華にも、そう伝えておいてくれ」
そう言うと、カエデは先に帰って行った。
颯爽と歩く姿が、竹のようにしなやかである。
なびく髪のサラサラという音が、笹の葉の葉擦れを思わせた。
その姿が木の陰に隠れるまで、水谷はぼんやりと見送る。
「ん?」
目の前に、灰褐色の蝶がヒラヒラと飛んで来た。
翅の内側に、瑠璃色の模様がチラリと見える。
「あ、散華さん」
水谷が人差し指を差し出すと、散華の『鬼』のルリタテハは、ふんわりととまった。
本当は名前があるらしいが、『隠世』の姿が散華にソックリな為、水谷は、そのまま「散華さん」と呼んでいる。
「珍しいですね。師匠の稽古を見に来るなんて」
制作中、散華の『鬼』は、散華の元から離れなかった。
必ず『シキ』の分身と共に、散華の側に控えているのである。
それがココに来ているということは、今は『シキ』を取り憑かせていないという事だった。
普段ならあり得ない状況に、水谷は一抹の不安を覚える。
「・・・何か、あったのかな」
『シキ』も嫌な予感を感じ取っているらしく、不安げに水谷にすり寄る。
水谷は散華の『鬼』を肩に乗せると、『シキ』と共に工房へと駆け出したのだった。




