表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色帝都の紅い死鬼  作者: 平田やすひろ
鬼灯の送り火
82/153

-鬼灯の送り火- 10

 ()(でら)山門(さんもん)に、『白蓮(びゃくれん)』は腰を下ろしていた。


 その(ひざ)の上には、『(うつろ)』が空蝉の姿で乗っている。


 しばらく周りの気配をうかがっていたが、事なきを得たと確信し、『虚』はカタリと体を(きし)ませた。


 そんな『虚』に、『白蓮』は小首をかしげて問い掛ける。



「どうしたの?」



 しかし、問いには答えず、『虚』は前足の間に顔をうずめた。


 長い沈黙が延々と続く。




 カサリ・・・




 急に近くの茂みが、かすかに葉擦(はず)れの音を上げた。


 それと同時に、『虚』は痙攣(けいれん)するように身構える。


 『虚』が射殺すような眼差しを向けていると、小さなカヤネズミが茂みの陰から顔をのぞかせた。



 チュ・・・



 『虚』たちは『遁甲(とんこう)』している為、向こうからは姿が見えない。


 しかし、それでも何かの気配を感じているらしく、カヤネズミは、せわしなく鼻をひくつかせた。



「『鬼喰(おにぐ)らい』だけど・・・あの子、たいして強くないよ」



「うるさい、だまれ」



 『白蓮』を叱咤(しった)すると、『虚』は緊張した面持ちでカヤネズミを(にら)み続けた。


 すると、かすかに感じる気配を見定められなかったらしく、カヤネズミは小首をかしげ、ささっと足早に走り去る。


 二匹の静かな戦いの結末に、『白蓮』はクスクスと笑い出した。




「ほらね」




 しかし、構えを解かない『虚』に気付き、『白蓮』は言葉を失った。



 震えてる・・・



 『白蓮』が、そっと背中に手を当てると、『虚』はビクリと跳ね上がった。


 だが、『白蓮』が、そのまま手を添え続けると、振り上げた腕をなで下ろし、膝の上で丸まる。


 まるで普段とは別人の『虚』を、『白蓮』は、うかがうようにのぞき込む。



「コワいの?」



 しかし、『虚』は返事をすることなく、土の中で夏を待っている蝉の幼虫のように動かない。


 『白蓮』は、どう慰めたものか、皆目言葉が見つからず、考えあぐねた末、『虚』を(つか)むと、おもいきり真上に放り投げた。




「―――っ!?」




 落ちてきた『虚』をキャッチすると、『白蓮』はおかしそうに笑った。


 『白蓮』に体を掴まれたまま、『虚』はグギギギギと異音を立てる。



「俺を手毬(てまり)代わりにするな!!」



「たのしい?」



「・・・・」



「ねぇ、たのしい?」



「・・・少しな」



「よかった」



 『白蓮』は、ニコニコと屈託(くったく)なく微笑んだ。


 『虚』は軋むような音を上げると、掴まれた格好のまま、身を縮めて顔を隠す。



「・・・すまぬ、『白蓮』」



「なに?」



「お前を・・・少し誤解していた。お前、悪気はないのだな」



 『白蓮』は控えめに微笑むと、『虚』を膝に下ろした。


 『虚』は体勢を整え、『白蓮』を見上げる。



「で、どうしたの?」



「・・・『鬼喰らい』の『鬼』共は、俺にとって天敵なのだ」



「どうして?」



「『鬼喰らい』の『鬼』は、『瘴気(しょうき)』を生みの親の元に、持ち帰る能力がある」



「ボクも、『(そばえ)』と『東雲(しののめ)』に連れてかれた。たのしかったよ?」



「俺は『瘴気』を持っていかれると、飢餓(きが)状態になって飢え死にする」



「―――」



「相手が数体程度はどうにかなるが・・・あの数の『鬼』に持って行かれたら、ひとたまりもない―――それに」



「それに?」



「俺は、今まで喰らった『鬼』の『瘴気』を、魂魄(こんぱく)の内に蓄積している。『鬼喰らい』の『鬼』共は、その『瘴気』を取り出そうと・・・襲ってくるのだ」




 『虚』は、カタリと軋む音を上げた。


 前足の爪が、『白蓮』の制服を引き寄せるように食い込む。




「その時に、魂魄を砕かれる」



「―――」



「あの集団に・・・寄ってたかって、肢体(したい)をバラバラにされるのだ」



 『虚』は、再び縮こまった。


 『白蓮』が背をなでると、更に爪を食い込ませる。


 透けて見える赤褐色(せきかっしょく)の体液が、かすかに打ち震えて水面(みなも)が揺れた。



「・・・『虚』にも、コワいモノがあるんだね」



「フン・・・」



「かえってイイよ?」



「―――」



「ボク、独りでさがす」



「お前一人では無理だ」



「・・・たよりない?」



「そうではない!俺にも、これだけ不得手があるように、お前にも不得手があろう!」



 『虚』は、重厚な門扉(もんぴ)を閉めるような声で唸った。


 『白蓮』は、突然強気になった『虚』の態度に目を丸くする。



「お前は確かに享楽(きょうらく)的な所はあるが、事を成す力は備わっておる」



「おだててない?」



「得もないのに、おだてて何になる」



 『白蓮』は、ほのかな笑みを浮かべ、瞳に涙をにじませた。


 涙を、一つ、二つと、したたらせると、かすれた声でつぶやく。



「・・・『虚』」



「なんだ?」



「うれしい!」



 『白蓮』は、再び『虚』を両手で抱き上げると、渾身(こんしん)の力を込めて抱き締めた。


 空蝉の姿態から、ミシミシといつもとは違った軋む音が上がる。



「ぎゃああ!!」



「どうしよう・・・昇天しそう」



「や、やめろッ、離せ!俺が昇天する!!」




『白蓮』が、いよいよ力を込めると、砕けそうな音が更に上がる。


 すると、子猫ほどの大きさだった『虚』は、小さな空蝉へと分散し、こぼれ落ちるように『白蓮』の手から逃れた。


 次第に、散り散りに逃げた空蝉は寄り集まり、(あか)燐光(りんこう)を放つと、人の姿へと変化する。


 瞬間、小童となった『虚』は、長い錫杖を思いきり振り下ろした。





 ガンッ・・・





 もろに脳天に直撃を受けた『白蓮』は、頭を押さえてうめき声を上げた。


 一方、『虚』は蝉の(はね)の耳飾りを振り乱し、ぜぇぜぇと息を切らす。



「・・・いっ・・・たいぃ・・・」



「痛いように殴ったんだ!!この馬鹿者が!」



「そんな・・・本気でなぐらなくても・・・」



「本気で締め上げたのは、お前であろうが!魂魄が砕ける寸前だったぞ!!」



「『東雲』は、こうすると喜んでたよ?」



「あの淫乱(いんらん)娘・・・お前の手加減のない歪んだ感情表現はアイツのせいかっ!」



 『虚』が息も絶え絶えに叫ぶと、『白蓮』は小首をかしげた。


 何も分かって無さそうな様子に、『虚』は、げんなりと(こうべ)を垂れるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ