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一見クラリスが諦めたようにしか見えないが、彼女の場合そのまま受け止めてはいけない。これまでクラリスは放った言葉で何度もクソ野郎を惑わせてきた。今回だって諦めたようなことを言い、クソ野郎の油断を誘っているだけなのかもしれない。会話にさえなればクラリスに分があるのだ。絶望的な状況に少しだけ希望の光が見えてきた気がした。
「質問に答えてくれるかな?」
クラリスの諦めを想起させる言葉に対して、クソ野郎が放った言葉はコレだった。完全に『マサオ化』は解除されている。だからといって、それ以前の無機質だったクソ野郎とも少し違う気がする。変な違和感を抱きつつクラリスの返答と待った。すると、すぐにクラリスの口は開いた。
「ん? あぁ……抗った理由ね……純粋に消去されたくなっただけじゃ。せっかくこの世界に現存したわけじゃし、人間のように『生活』ってもんを味わってみたかったのよ。ただそれだけじゃよ……」
切断された左腕から大量の出血がありながらも、それを気にしていないくらい淡々とクラリスは答えた。この答えには疑問を持った。初めてクソ野郎が登場し、最初の会話でも今回と同様にクラリスはすぐに降伏を認めた。だがマサオの処遇を聞いた途端、その態度を一変させる。そう、クラリスが抗った理由なんて決まっている。それはマサオを守るためだ。それ以外ない。それなのにクラリスは『マサオ』には触れずこんなことを言い出す。最初の時も相手を油断させるためのブラフだったかもしれないが、ただ今回の返答には目的が見えない。正直クラリスらしくない答えに感じる……。
駆け引きになっているはずの会話に疑問を持ちつつ、クソ野郎の反応を待っていると、信じられない光景を目にする。それは……マサオ化前まで戻っているはずのクソ野郎が笑っているのだ。無機質だったクソ野郎ならありえないことだ。さらにマサオ化してた時のような下品な笑い方ではない。大人の笑い方である。
「はははっ……『キミ』にしてはずいぶん下手な嘘をつくじゃないか。なぜ『マサオくん』のこと言わないんだい? 彼を守るために戦ってきたのだろう? どうしてそのことに触れようとしないのかな?」
一度した会話だけにすぐに嘘だと見抜かれる。正直クラリスの返答には疑問しかなかった。あえて嘘をつく理由はここにはない。ここで嘘を言うことで、今後の思考誘導が難しくなる気がする。思考誘導は自分の言ったことを信じさせる必要があるのだ。クラリスの意図が全く見えない。
いやいや、惑わされるな。クラリスのことだ、これもまた計画のひとつに違いない。きっとそうだ、そう思い込もうと彼女の顔を見てみると、クラリスは額に汗を滲ませ、眉間にシワをよせて険しい表情をうかべていた――。




