32話、懐かしい仲間との再会
前世界で仲間だったパラディンのジャバ、旅芸人のスイフト、僧侶のパイソンだ。
彼らも、俺と一緒に魔王ウィラメットに敗れた。
そのタイミングが似ていたので、転生ルームで会えると思っていたが、結局再開はこの世界になった。
「久しぶりじゃないか、今までどうしてたんだ」
彼らに尋ねると、3人を代表してジャバが答えてくれた。
ジャバは魔王との戦いで、パラディン魔法最大の奥義を放ち魔王軍を壊滅させた実力を持つ。
「いや、お前の嫁が魔王だったとかびっくりだったよ」
そりゃそうだ、俺だって驚いてる。
「パーティーの全員が斬られたけど、絶命したのはお前が一番最初だ。それから俺達は瀕死の状態で魔王の城へ連れていかれて、数日間拘留されたのち実験素材になった」
「そりゃ大変だったな」
「最後に『短期間だがお前達と過ごした時間は楽しかった。最後は楽に逝かせてやる』と言って奴は俺達を眠らせ、次に目をあけると転生ルームだったわけだ」
「意外と仲間思いだったのかな」
「なら俺達は死んでねーだろ。それから転生先を探そうと思ったんだが、急に転生システムが変更されて、次を見つけるまで最大で10日間ルームで暮らすことが出来るようなったんだ」
俺の転生後数日で、そこまでシステムが変更されるなんて少し損した気分だ。
以前はリストを見てさっさと次へ行くか、天国へ行くように言われて終わりだったのにな。
「10日間どうやって暮らしたんだ?娯楽とか一切ないところだぞ」
「それが高級な宿みたいなところに泊まれてよー、酒場は美人のねーちゃんいっぱいいて天国みたいだったぜ」
めちゃくちゃうらやましいな。俺なんて自分で作った王都の繁華街まだ行ってないのに。
変装して早く行きたいな。
「パパ、鼻の下が伸びてますよ」
予想外のところから突っ込みが入ってしまった。言い方がシルに似ているので、彼女に俺のことを教わったのだろう。
今後、シルちゃんの家で鼻の下を伸ばすことがあれば、ステレオ状態で突っ込みが入ることになる。先が思いやられるな…。
「おい、パパって、まさかお前の子か?」
「そのようなんだ。ちょっとこっちで話さないか?」
ここから先は、他人に聞かれると困るのでギルドホールのミーティングスペースを借りることにした。
そして俺はこれまでのことと今進めているプランについて話した。
「面白そうじゃねーかユビキタス」
「俺達も加えろよ!」
「要はおいら達が、人界側の冒険者をまとめればいいわけだよな?」
ジャバ、スイフト、パイソンともかなり乗り気だ。
彼らが仲間に加わってくれればとても頼もしい。
「任せておけ!」ジャバは自身満々たる表情で引き受けてくれた。他の2人も同様だ。
「さっきから気になってると思うので紹介しておく。こっちのダークエルフは魔王プレストニア」
「よろしく。ニアと呼んでくれて構わない」
「魔王だって!…あぁ、よろしく、俺はパラディンのジャバだ。でもまさか魔王と組む事になるなんてな、本当に面白い世界だ」
「俺はスイフトっつって旅芸人をしている。ニアちゃんも俺の踊りを見れば虜になるぜ!」
「それは楽しみだな」
彼女は面白い物を見つけたように、深い笑みを浮かべた。
「おいらは僧侶のパイソンだ。お前さんが倒れた時は経文をあげてやる」
「その時は成仏できるように頼む」
彼女はいかにも満足げな顔になり、もう一度彼らを見た。3人も魔王と組む事を楽しみにしている感じだ。
次は娘の紹介。スライムとの間に子供が出来たとか言いにくいが、下手に隠してイムが傷ついても困る。
もうそのまま紹介しよう。
「イム、元の姿になってからフードをとってくれ。話がややこしくなる」
「わかったパパ」
イムが元の姿に戻ったのか、身長がみるみるうちに縮んでいきシルと同じくらいになった。
背後から3人の驚く声が耳に届く。俺は再び視線を移しイムの紹介を始めた。
「こっちは自慢の娘で、名前はイムだ。昨日生まれたばかりだ」
「はじめまして。イム0歳です。」
イムは深々と頭を下げたが、3人は言ってる意味が分からないといった表情をしていた。
「この子はスライムとの間に出来た子で、人型のスライムなんだ」
「・・・」
3人は必死に理解しようとしている様子だ。ここでジャバが口を開いた。
「えっと、お前がスライムとヤッて、この子が昨日生まれたって事か?」
「娘の前で生々しいこというな。厳密に言うとだな、人に変身できるスライム娘が俺の細胞を寝ている間に採取して、それを核にして作ったのがイムなんだ」
「そうか、いろいろあったんだな。さっき背が縮んだがイムちゃんも変身できるんか?」
「できますよ」
イムは再びニアの姿に戻った。
「イム、お前ニアに戻れるのか?」
「はい、どうやら一度変身したものには戻れるようですね」
3人とも腕を組み驚きを隠せない表情でイムを見ていた。
「おいらはとんでもない世界に来てしまったようだな」といってパイソンは祝詞を唱えだした。
「天照大御神 産土大神等の大前を拝み奉りて 恐み恐みも…」
「パイソン、ここでそのネタやめてくれ。大体お前はそっち系の僧侶じゃないだろ」
「ユビキタスは面白い仲間がいるな、信じられないが女神もいるんだろ?」
「そうなんだジャバ、合計で3人いる。1人は女神というより悪魔みたいな奴なので邪神役をやってもらってる」
「お前、女神様に邪神をやらせるとか酷い奴だな」
「実物を見りゃわかるさ、あれは邪神がピッタリだ。そのうち会えると思うぞ」
「そりゃ楽しみだ」と言ってジャバは笑い出した。
他の2人もそれにつられたのか、心底楽しそうな顔をして笑っている。
「さて、挨拶はここまでにして本題に入ろうかユビキタス」
「そうだな」
「確認だが、俺達は人界側をまとめればいいんだな?」
「そうだ」と言って俺は頷いた。
「お前のとこは誰がメインで戦うんだ?ユビキタスはレベル1で固定されてるんだろ?」
「うちはニアが中心となって戦う」
「戦う時は本気でやってもいいのか?」
「もちろんだ、演技と思われても困る」
決戦は本気で戦うつもりだ。ニアが圧倒的に強いだろうが手抜きをするつもりはない。
人界の冒険者は派手に逝ってもらって、転生ルームでこの世界の事を語ってもらわないといけないからだ。
演技ってことがバレたら元も子もない。
「ニアちゃんの力量を見てみたのだが、誰もいない場所でお手合わせ願えないだろうか?」
ジャバの提案を聞いた俺は視線をニアに向けた。
「ユビー、私は構わん」
「わかった。場所を用意するから少し待ってくれ」
俺は未開拓地を山で囲い即席の戦闘エリアを作る事にした。
ジャバの最大奥義は山を消す恐れがあるため、地質はオリハルコンの鉱石を含む硬いものにした。
「お待たせ。準備が出来たので移動しよう」
ギルドホールは人目があるので、バイオス郊外の森まで移動することにした。
目的地について俺達は手をつなぎ、転送移動で即席の戦闘エリアに飛んだ。
そのエリアは広さ20キロ四方あり、中心部の10キロは平原。残りは頑丈な山で囲ったので、膨大なエネルギー波が山を貫通して稼働中の最初のエリアに達することはないはず。
「今からニアとジャバのガチンコ勝負を行う。お互い死なないようにうまくやってくれ」
「うまくやれと言われても全力でやるのだろ?私は問題ないが、ジャバが消えた場合はどうする?」
「問題ない、俺もそれなりの対策をしてから気にせずやってくれ」
「俺達は山の上に避難させてもらうよ」
ニアとジャバを残して、俺達は手を繋ぎ山の上に転生移動した。戦いの様子はタブレットで見ることが出来る。
準備が出来た2人は、お互いに構えると魔法を詠唱し始めた。俺の読み通り、剣術ではなく魔術で勝負をするようだ。
ジャバはパラディンの魔法を使った攻撃が得意で、一発の魔法に全ての魔力を注ぐことが出来る。その破壊力は前世界で魔王軍を消滅させるほどだが、使えるのは1日に一度だけという欠点もある。
「あの構えだと、ジャバの野郎サンダーブレイドレイジ使う気だな」
彼の構えを見たスイフトが、これから使う魔法奥義を教えてくれた。
「それは初めて聞くやつだな。どこで教わったんだ?」
「雷系の範囲魔法なんだが、修練を積めば一点に集中して放つことが出来るんだ。転生ルームにいるとき、とある勇者から教わったって聞いたな」
転生ルームって技の習得もできるようになってるのか。
「ニアの方はなんだろうな?あいつの攻撃技とか聞いた事ないからさっぱりわからん」
「パパ、タブレットの画面にある解析を押して、ニアさんを選択すると情報が出ませんか?」
イムからアプリの説明をされるとは思わなかった。恐ろしい0歳児だ。
試しに彼女の説明通りに操作してみるとニアの情報が出てきた。
「ニアはフランメシュラークブレイカーという炎系の打撃魔法を使うようだな」
「そのタブレットって便利いいんだな。おいらも欲しいぜ」
パイソンがタブレットの画面をのぞき込んできた。
疑問なのは、イムはどうやってタブレットの使い方が分かったのだろうか?
「イム、これの操作方法をニアに教わったのか?」
「いえ、さっきパパに触れた時に少しですが使い方を理解したんです。あとはそれを元に推測しました」
とんでもない学習能力だな…。思ったのだが、このメンバー全員でどこかの異世界に乗り込んだら世界征服できるんじゃないだろう…。
大軍がいたとしても、ニアとジャバで殲滅できそうだ。難題があったらイムとシルが解決してくれそうだ。
腕を組んで、そんなことを考えていた俺の元に、とても明るい光が届き始めた。
両者とも魔法が完成したようだ。
山の上から2人を見ても眩しすぎて直視できない。
俺達はタブレットを見たが、画面が真っ白でどうなってるのかわからなかった。
そして、とてつもなく眩しい光のあとに、凄まじい轟音と共に爆風の砂煙がこちらに近づいてきた。
山は標高2000メールにしてあったが、麓から勢いよく吹き上がって来るのが見えた。これはまずい。
「退避するから手を繋いでくれ」俺は叫び手を繋ぐと更に20キロ離れた地点まで転送移動した。
緑の平原に移動した後、視線を山へ向けると山頂を砂煙が越えているところだった。
あの場に留まっていたら、こちらも無事ではなかっただろう。それほどの破壊力だ。
周囲の安全を確認した俺達は再びタブレットの画像を見ることにした。
少し時間を置くと砂煙が落ち着き、1人のシルエットが見えてきた。
背丈からするとニアだ。




