31話、魔王が新たなチートアプリを作りました。
バイオスへ行くときの服装や、シルにバイオス経由で転送してもらうかなど、ニアに相談する事にした。
「服装は目立たないほうがいいかも知れない。人界側に行くときは、魔族に変装せずそのまま行ってもいいだろう」
「このままでか…、俺達の設定なんだけど、ニアはそのままでも魔族で通用するから、俺は人界を裏切った冒険者という設定はどうだ?」
「確かにな、それなら今のままで行動してても問題ない。魔王を演じる時だけ魔族に変装すればいいのだからな」
裏切り者の方が印象に残っていいかも知れない。あとは俺達の悪評をどうやって流すか。
人界の冒険者と遭遇したとき、相手が攻撃を仕掛けてくるように話をもっていき、返り討ちにしてやれば噂は広がるんじゃないだろうか?
「とても強い魔族に会ったぜ、俺は次こそあいつらを倒す」とでも言ってもらえたら作戦成功だ。
俺はこのプランをニアに話すと「悪くないプランだ」と言われた。
移動手段に関しては彼女に考えあるようだ。
「移動手段については、もうシルに同行してもらう必要はない」
「どういう事だ?俺達も転送が使えるとか?」
「その通りだ」
その場にいた全員が「えっ」と驚きの声を漏らし、ニアに視線を向けた。
「ちょっと借りるぞ」彼女は俺のタブレットを奪って説明を始めた。
「報告が遅くなって申し訳ないが、女神の承認を偽装するアプリを作った」
ニアは実演を始める。
「事前にデザインしておいた照明器具を、今から私の承認で実体化させてみる」
と言ってタブレットを操作し始めた。
ニアは器具を仮配置させたようで、目の前に半透明状態のそれが現れた。いつもならここで「シルちゃんデータ送ったから《Okay》してー」と依頼していたが…。
「ここで私が《Okay》を押す」
独特の効果音や煙と共に照明器具が実体化した。
「どうだろう?使用制限も設定できるので、ここにいる者以外は使えないようにしてある」
「お前は魔王プレストニアという名であったか?」
アランデールがニアの前に出てきて、彼女の正式な名を訪ねてきた。
「そうだが」
「ユビー、この魔王は何者なのだ?」
「知性Sランクの化け物だよ。俺なんて、こいつがプログラミング言語マスターしてからいらない子だもん。ビルさんとこのアプリストアでダウンロード数TOPになってるんだぞ」
「ユビユビ、ワタシニヒツヨウナコ!チュッチュ…」
「ライム、落ち着くんだ」俺はライムの目を見て落ち着くように促すと、それを受け入れてくれた。
話を戻そう。
ここ数日、ニアは口数も少なく目立っていなかったが、アプリが売れまくって結構な収入を得ていた。
その資金を元に、新たな開発ソフトを購入して女神を偽装するチートアプリを作ったのだ。
天界にバレたら絶対にヤバイ。
「いや、そんなに見つめられても困るぞ…」
ニアは珍しく頬を紅潮させた。ひょっとして褒められるのが苦手なのか?試してみよう。
「ニアは剣の腕前も凄くてな、文武両道に通じたとても優秀な人材だよ」
「ユビー殿のところは、優秀な人が揃っていて本当にうらやましいですな。しかも麗人揃い」
「不細工なアホで悪かったわね」アランデールは誰も視認できない速度で上村さんの足を蹴り払い、姿勢を崩した彼は床に倒れた。
アランデールの蹴りが見えなかったぞ?こいつ意外と戦闘向きか?
「頼む!それ以上褒めないでくれ。耐えられん…」恥ずかしいニアは両手で顔を覆い体を左右に振った。
「ニアも少女ような反応をするんだな」
「えーい!覚えてろユビー!」
ニアの弱点を発見してしまった。今後何かに使えるかも知れないが、ここにいるみんなも知ってしまったので、期待するほどの効果がないかも知れない。
◇ ◇ ◇
俺とニア、イムの3人はバイオス近く廃屋に転送移動した。この建物は転送用にあらかじめ用意しておいたものだ。
「今さらなんだが、イムも魔族っぽくないのだがどうしたものかな。イムは変身して人の姿をしてるんだよな」
「いえ、元からこの姿です」
「そうなの?」
てっきりライムと同じ姿がデフォルトなのかと思ってた。と、なると…。
「イムはどうやって生まれたんだ?何か覚えてるか?」
「はっきりと覚えてませんが、目覚めるとママが私を抱えていて、カワイイカワイイユビノコと言ってました」
「ライムから分裂したとか、覚えてないよね?」
「ユビー、それはライムに聞くべきだろ。相手を間違えるんじゃない」
それもそうだ、イムに聞いても覚えているはずがない。あとでライムに聞いてみよう。
今はこの姿をどうするかだ。
「確かにそうだな。すまんイム」
「覚えてなくてごめんなさいパパ」いやいや、悪いのはパパなんだよ。俺はイムの頭を撫でておいた。
「イムは何かに変身できるのかな」
「まだやった事ないです。どうやるのでしょうか?」
「変身してみたいものを頭に浮かべてみるのはどうだろうか?昔いた世界で同じ能力を持つ者に聞いた時はイメージが大事と言っていた」
魔法も詠唱なしで発動させる場合はイメージが大切と聞く。この世界で魔法や特殊能力を使う場合はそれが大切なんだろうな。
俺も何かイメージしてみよう。目を静かに閉じて心を清らかに落ち着かせる。何もない真っ白な世界を展開し、心の赴くままに好きなものをイメージしてみた。
やがて現れたのは一糸もまとわない姿のニアだ。あー、数日前のニアじゃないかこれは。
そして誰かの手が俺の頭に触れた感じがしたので、目を開いてみると想像した通りのニアがいた。いや、正確に言うとニアの隣に裸のニアがいた。
「パパが想像していたものに変身してみました」
イムは手に触れた者や物、相手が人の場合はその人がイメージしているものにも変身できることが判明。問題点は、イム本人がイメージしたものには変身できない。
「これはまた特殊な能力を持っているな。ところでユビーは私の裸を想像していたのか?」
「そうだ。目を閉じたら、寝相の悪いお前が浮かんだんだ」堂々と言ってやった。
「そうか、かなりリアルな部分まで再現されていたので少し驚いたのだが、お前の観察能力は素晴らしいな。私はあのように見られていたんだな」
ニアに言われたので改めてイムを見てみると、俺が興味をもつ部分は精巧に再現されている。妄想も加味されているので実物のニアより凄いかもしれない。
俺の妄想力はさておき、イムの変身能力はかなり有能だ。
俺はますますいらない子になっちまう。
「これでイムも魔族に見えるな、でもいきなり魔族として登場はまずいから何かで隠さないといけないな」
「フード付きのローブを3人分持ってきた」
準備がいいな。2人はローブを着用し、フードを被り顔が見えないようにした。
俺だけ違う服装というのもおかしいので同じものを着る事にした。
怪しい3人組の完成なのだが、これで街中を歩いたらかなり目立つ。衛兵がいたら間違いなく職質コースだ。
「提案なんだが、ニアとイムは2人は双子の姉妹という設定でどうだ?」2人の違いはイムの方が肌の色が若干明るい程度。
「承知した」「わかりましたパパ」
この町は人界に属しているので、NPCが魔族を見た場合は襲てくる可能性がある。俺達はローブを着て町に入る事にした。
バイオスを訪れるのはいつ以来だろうか?ここは郊外に鉱山とダンジョンがある町なので工夫の姿が目立つ。
中規模な商会もいくつか設置してあるので商人の姿も見える。
今のところ人界の冒険者は見当たらない。
「冒険者は来ていないようだな。ニアのアプリで奴らの位置は把握できないのか?」
「何故その機能がある事を知っているのだ?」
「お前こっそり開発してたのか?」
「あまり褒められては困るので伏せておいたのだ」
そこは伏せずに報告するべきだと思うぞ。そのうち天界のシステムをハッキングしたりしそうで怖い。
「人界の冒険者は町にいるのか?」
「3名いるな。位置はギルドの支部だ」
俺達は町の中心にある噴水広場を目指した。ギルドの支部は広場に面したところにある。
ここは2番目に出来た町で、シルの要望でケーキ屋や花屋もある。
あの頃は、俺とシルの2人しかこの世界にいなくて、街中も今みたいに賑やかではなかった。
彼女の手料理も毎日食べれて幸せだった。今も幸せだけど、手料理はここ数日食べてないので恋しい…。
やがて正面に噴水が見えてきた。目的の広場に到着だ。
広場に面したケーキ屋と花屋も客が出入りしており、それなりに繁盛しているようだ。
「ギルドの支部はあそこだな」
ニアが支部の建物を指さした。この町を設計したのは俺だが、それから多くの建物を作っているのでバイオスの詳細な建物の配置は少し忘れかけていた。
隣は教会だったはずなので間違いないだろう。
銀行、ギルド、教会の3軒を並べておけば、金の預け入れ後ギルドでクエストを受け、教会で祈りを捧げてから冒険へ出発といった動線を考えて配置した事を思い出す。
ギルドの建物に入るとNPCの冒険者も多くいて、どれが転生してきた者か見分けにくかった。
ローブのフードが視界を遮って邪魔なので、俺はそれをはずした。
そして支部のホール内をもう一度見てみると。
「おいユビキタスじゃねーか?」
俺を呼ぶ声がしたので視線を移すと、懐かしい顔ぶれが目に入って来た。
あれは…。




