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キミドリちゃんとの対面 前

とりあえず前後編で。いつもより少しだけ短いですが。

「つーわけでよろしく?」

 にっこり笑った木村が憎い。







 先日の飲み会で、木村と付き合うことになったわけだけど、なんで木村と付き合ってるのかちょっと疑問。というより、木村があたしを選んだ(ということになると思う)のが不思議なのだ。


 木村芳樹きむらよしきという男は、それほど目立つ男ではない。どちらかというと物静かな部類に入るのだと思う。それでも、学科の人間に一目置かれているのは、頭がいいのはもちろんだけど、ぶれない安定感があるからか。

 感情的でもなく、かといって無愛想でもない。適度に言葉を交わしつつも、それなりの距離をすべての人間と取る。近づきすぎず遠すぎず。大人びている、とでもいうのだろうか。泰然自若としているところがあって、案外頼りにされている男だ。

 高校時代までバスケ部にいたとかで、体つきも男らしい。といっても、マッチョって感じでもない。ちょうどいい感じ。親切なところもあるので、結構モテる。チャラチャラもしてないから、真剣に木村のことが好きだ、という女子も多いとまっつんから聞いた。つまりは選り取り見取り、なわけだ。


 それなのに、なんであたし?

 まぁ別に成績はそれほど悪くはないし、外見もそれなりに気を付けてる。化粧は面倒だからほとんどしてないけど、日焼けはしたくないので、日焼け止めクリームくらいは塗っている。どこにでもいる女子大生だ。

 木村とは研究室も違うし、普段はそう接触も多くない。それでも教養科目のときはそれなりに会っていたけど。いや、まあ教養科目っていくつかのなかから選択するだけだし、同じ学科だと同じ時間にクラスが振り分けられることが多いから、木村と会っていてもそれが特別なことではない。その証拠に野沢菜君とかまっつんとかもほぼ一緒にいたし。大抵の場合、サークルの先輩とかと仲良くなった誰かが、どの授業が楽とか先生が優しいとか情報を広めるんで、その情報をもとに授業を選ぶ学生が多いのだ。だって、教養なんて所詮は教養。専門じゃないし。

 卒業のために必要な教養科目の単位についてはやる気ない人がほとんどだけど、専門については結構みんなやる気がある。口ではぐだぐだいいながらも、それなりに楽しそうに勉強してるのをよく見かけるから。まあ、ここがそれなりに脳みそが必要な大学だっていうのもあるんだろうけど。


 うちの学年は仲が良いというか、みんなでわいわいやるのが好きな人間が多いので、学期末のテストが終わったりすると、自然と飲むかー、って話になる。嫌な酔い方をする人間はいないし、いてもすでに誰が誰の世話を焼くかは決まっていて、わいわいしてるのを見るのが好きというあたしみたいな変わり種は隅っこでちびちび飲んでることが多い。その隣にはよく考えるといつも木村がいたような気がしなくもない。


 うーん、うーん、と頭をひねってみても、なぜ木村があたしを選んだのかなんてわかるわけない。頭を二、三度横に振っていったんこの話題は忘れることにした。

 ちょうどそのとき、ローテーブルに置いていた携帯がブルブルと鳴ってメールが来たことを知らせた。











+ + +










「いらっしゃいませー」

 ドアベルが鳴ったのを感じて、お決まりのあいさつをする。今日はカフェ楡の木でのバイトの日だった。ランチタイムは終わり、そろそろデザートタイム。予約は一件。あたしの予想が外れていなければ、今入ってきた客はあたしの顔見知り、というよりもごもごな相手のはずだった。


「よ」

 予想通り、ドアベルを鳴らして店内に入ってきたのは、木村芳樹、ついこの間あたしの彼氏になったひと、だった。


「キミドリちゃんは?」

「外。飲み物はどうする?メニューあるよ」

「デザートは決まってるんだっけ?」

「うん。今日は抹茶と黒豆のシフォンとクッキーが何枚かとあとは自家製バニラアイスのプレート」

「ふぅん。じゃあコーヒーでいいや。ブレンドで」

「ミルクや砂糖は?」

「いらない。キミドリちゃんと戯れてもいい?」

「うん。外にあそこのドアから出られるから、外で戯れる分には問題ないよ。それともそもそもテラス席にする?」

「それもいいな。そうしてくれると嬉しい」

「うん、じゃあ、テラスの好きな席に座って。ただし、キミドリちゃんときどきつついてきたりするから気を付けて。あと、羽には手を触れないで」

「わかった」


 ひらひらと手を振ると、嬉しそうに木村はテラス席へと行ってしまった。



 木村と付き合うことになってから、頻繁にあたしは木村とメールするようになった。それまでもメールしてなかったわけじゃないけど、あたしはそんなにマメなほうでもないし、話したいことがあれば大学で話せばいいから、木村とメールすることはそんなになかった。

 でも最近はだいたいメールするし、電話することもある。なんか付き合ってる、って感じ。それでもそんなに負担に感じたりすることはないから、きっと木村が上手いんだろうなと思う。そういう人間関係の距離の取り方が。


 とはいえ、メールの内容は他愛もないものばかり。あたしの話題はほぼキミドリちゃんで占められている。だって、それくらいしかないし。

 でも、木村は別にそんな内容でも構わないらしい。むしろ、キミドリちゃんに興味津々のようだった。

 

 キミドリちゃんに会いたい、と木村が言い出すのに時間はかからなかった。



 キミドリちゃんに会うのならば、お昼の時間帯がいちばんいい。と、いうのも基本的にキミドリちゃんは放し飼いなため、どこにいるのか飼い主のあたしですら知らないことが多い。しかし、あたしがバイトするようになってから、ランチタイムからデザートタイムくらいまでは楡の木にいるようになったらしい。

 らしい、というのは楡の木の奥さん情報だ。

 毎日、かわいらしい声を聴かせてくれるからお客様にも大好評よ、とにっこり笑って教えてくれた。キミドリちゃんは大変賢い鳥なので、外面だけはわきまえているようだ。飼い主としては安心なところ。

 夜になるとキミドリちゃんは家の籠のなかでぐっすり眠ってしまうので、会うならやはり昼だろう。そういったことをメールするとデザートタイムには行けそうだ、というのであたしがバイトの日に予約を入れたのだった。






「デザートプレート、ブレンドでお願いします」

「ねぇ、今日来てるのってもしかしなくても彼氏さん?」


 奥さんこと依子さんの言葉に一応頷く。木村が何考えてるのかはわからないけれど、付き合ってるのは、まあ間違ってない。


「ふふ。じゃあ運んじゃったらそのまま上がっていいわよ。焼き菓子がちょこっと余ってるからそれも持って行って食べるといいわ」

「え、でも」

「今日はほかにお客様も来ないし、手伝ってもらわなきゃいけない仕事も終わったの。それにたまにはいいでしょ?」


 そういって、いたずらっぽく笑う依子さんには誰も勝てないと思う。

 苦笑しながらも、お礼だけ言っておいた。




 デザートプレートとブレンドをテラス席に運ぶと、そこにはキミドリちゃんと楽しそうに戯れる木村が。指先に赤いものは滲んだりしていないからきっとキミドリちゃんはつついたりしてないんだろう。小鳥のくせにキミドリちゃんはバイオレンスだから、加減するってことができないのだ。


「お待たせー」

「おー、仕事はもういいの?」

「うん。今日は上がっていいって。ほら、クッキーとかももらっちゃった。冷めないうちに飲みなよ」

「さんきゅー」


 立っていた木村が椅子に座る。キミドリちゃんを呼ぶと大人しくあたしの肩に停まった。

 うまい、といってデザートプレートを平らげていく木村を尻目に、あたしも焼き菓子をつまむ。うん、美味しい。


「すっかり、キミドリちゃんとは仲よしみたいね」

「まぁな。つかすごいよなー。猫とかで人に慣れてるやつとかはたまに見るけど、メジロだろ?メジロもこんなに人になつくんだな」

「まー、キミドリちゃんは特殊だから。でも小鳥だからってなめてると案外痛い目にあうよ」

「ははははっ。気を付けるよ」


 しかし、あたしの心配は杞憂だったらしい。

 キミドリちゃんは終始おとなしく、木村に攻撃をしかけたりすることはなかった。キミドリちゃんは案外、攻撃早い。短気であるというのとはちょっと違って、とりあえず、攻撃しておこう、みたいな物騒なノリなときがある。あたしとかは一応飼い主として認識されているのか、攻撃されることはないけど、初対面だとどうしても警戒心の方が先立つらしく、ぴりぴりしていることもある。野生の血ってやつなんだろうか。でも、メジロってそんな鳥じゃないとおもうんだけど。


 

 

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