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larme ~短編集~  作者: いつき
単品(1~2話)
22/50

君の背中

幼馴染モノ。わたしが創作で一番最初に書いたのが、幼馴染モノだったせいか、度々登場する関係です。何と言うか、何回書いても難しいな、と思う。

両片想いも美味しいし、かたっぽだけでも美味しい。もちろん、全然気にしてなかった二人が歩み寄る話でもイケます。

とりあえず、書いても飽きないテーマ。

 いつの間に、わたしの目の前にいるやつの背中は大きくなったんだろう。

 そう思いつつ、目の前にある彼の背中を見やる。もちろん、気付かれないように。まぁ、相手は向こうを向いているんだし、大丈夫だとは思うけど。

 見つめてたのがばれるのは嫌でしょう?

 つい最近までわたしより小さくて、『しょうがないなぁ』と思いながら見守ってきたのに。今はわたしより大きい。身長だって、肩幅だって……背中だって。

 何もかもが、わたしよりずっとずっと大きくて、彼とわたしの違いを示す。

 彼は男で、わたしは女で、一緒じゃないんだと。

「ねぇ」

「んー?」

 声だって、昔はもっと可愛かったのに。高くって、少し尖ってたけど面白くって。やっぱり可愛くって。

「何で成長するの?」

「はぁ?」

 いつの間に、わたしの知らない人になったの?

 わたしの代わりに自転車を押す背中を見つめ、振り返らないやつを見つめる。

 いつの間に? わたしずっと見てきたのに、いつの間にそんなに。わたしの知らない『男の人』になったの??

 わたし、全然気付かなかったよ。いつも、近くにいたと思ってたのに。

 確かに、年を経るごとに一緒にいる時間は減っていったけど、だけどそれでも、近いと思ってた。誰より、近い、なんて。

 彼に彼女ができたら、そんなことないだろうに。

 そんなことに、今初めて気が付いた。そして、何故かその事実を疎ましく思った。

「わたしの方が、大きかったのに」

「一年も前の話だろう」

 そうなんだけど、改めて、大きくなったと思う。ちょっと一緒に帰らなくなっただけで。

 それが分かってしまう。

 悔しいのか、寂しいのか。はたまたそれ以外か。分からないけれど、イラッとしたのも事実で。

「悔しい……」

「何、お前。まだ根に持ってんの?」

 それが悪いか。負けるのは嫌なんだ。

 たとえ仕方のないことだとしても。また一つ、わたしの知らない人みたいな証拠が増えた。

「絶対飲んでる牛乳の量なら、あんたに負けない気がする」

「牛乳……」

 骨太くなるだけだろ、それ。そのツッコミは聞こえなかったふりをする。骨が丈夫になることはいいことなんだ。現に骨密度がだね。

「ずーるーいー」

「はいはい」

「その余裕そうな顔もむかつく」

「そうですか」

 機嫌悪いなぁ、と呟きながら、笑った。

 少しだけ、小さい頃のやつの顔と重なる。少し、気弱そうな笑顔もそのままだ。大人しくって、誰に何を言われても言い返そうとはしなかった。

 その分、わたしが言い返してたんだけど。だから、弟みたいなものだと思ってたんだ。

 彼は、わたしが近くで見てなきゃって。

「後ろ、乗っけて。歩くの疲れた」

「我がままだな」

「いいんだよ」

 あんたにしか言わないんだから。

 そうだ。クラスでこんな発言するわけない。いつもはわたしの方が大人しくて、聞き分けのよい、何を言われても言い返さない子。

 そうしようと、学年が上がるごとに思うようになったのだ。昔のように、男の子とけんかなんてしない。

「はいはい。じゃぁ、乗ってくださいな」

「ありがと」

 彼が自転車に跨ったのを確認し、わたしは後ろに乗った。そして無意味にぎゅっと抱きついてみる。

やっぱり少し大きかった。一年前はもう少し細かった気がする。

 男の子、の体だった。細くて、頼りなくって、背丈だけが急に伸びたような。そんな。

 もやしって言ったら怒られたっけ。

「太った……」

「筋肉がついたと言ってほしい」

 そんなこと、絶対言ってやらない。

 だって認めることになるもん。

「少しは動揺すればいいのに。女の子が抱きついてるんだから」

「女の子、ねぇ」

「何が言いたいの?」

「いいえ」

 ぐっと必要以上力を入れても、彼は苦しがる様子を見せなかった。

 それが悔しくって、もっと力を入れてみる。

 これでもかと言うくらい押し付けて、それからふと『動揺しないのか』とつっこんだ。仮にも女の子が抱きついてるんだぞ。

 少しくらい慌ててもいいだろう。

 なんて。まぁ、女の子として意識されていないのだから、それも仕方のないことだろう。

「つまんないの」

「何が」

「何でもないよー」

 せめてもう少し、立派な体つきをしていれば、彼も動揺するんだろうか、なんて詮のないことを考えた。もっとも、意識してほしいわけじゃないんだけど。

 だって意識されたら、もっと遠のいてしまうから。

 男と、女の距離は遠かった。だから一番近い、幼馴染でいい。性別なんて、気にしないほうがきっといいんだ。気にしたら、寂しくなってしまうだろうから。

「家つくぞ」

「うん」

「降りろよ」

「うーん。もうちょっとだけね」

「苦しい……」

「ハイハイ」

 それだけの観想を言う彼が面白くって、少し笑った。何だ、やっぱり意識してないじゃん。

 よかったのか、悪かったのか。

 判断はつかないけれど。でもとりあえず、安心してしまった。



 

 だがしかし、彼女は知る由もない。彼が苦しがっている様子を見せず、かつ冷静に見せかけようと必至なのを。

 苦しがっている余裕もなく、彼はひたすら前に集中していた。そして、頭の中で素数を数え、羊を数え、挙句2の一乗から順々に計算している彼の心が伝わることは、当分ないのだった。

 少なくとも彼は、彼女を『幼馴染』ではなく、『幼馴染の<女の子>』として見ていた。そう、彼は初めから、自分と彼女の違いなどはっきりと分かっていたのだ。

 それを知らない彼女は、未だ『幼馴染』の関係に執着している。

「(馬鹿か、こいつは)」

 そう思いつつ、口に出さないのは、彼女がそれを望んでいるからだった。


 想いの伝わらない彼から、彼女へ。

 その『心』が伝わる『当分先』はいつ頃なのか。


 男の子→(恋愛)→←(友情?)女の子

 こんな関係って、可愛い。男の子の成長って早すぎて、ちょっと寂しいよねって言うお話でした。

 ネタ提供(無意識)の幼馴染に感謝。(残念ながら、現実では幼馴染に恋愛感情はそうそう持てない)

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