君の背中
幼馴染モノ。わたしが創作で一番最初に書いたのが、幼馴染モノだったせいか、度々登場する関係です。何と言うか、何回書いても難しいな、と思う。
両片想いも美味しいし、かたっぽだけでも美味しい。もちろん、全然気にしてなかった二人が歩み寄る話でもイケます。
とりあえず、書いても飽きないテーマ。
いつの間に、わたしの目の前にいるやつの背中は大きくなったんだろう。
そう思いつつ、目の前にある彼の背中を見やる。もちろん、気付かれないように。まぁ、相手は向こうを向いているんだし、大丈夫だとは思うけど。
見つめてたのがばれるのは嫌でしょう?
つい最近までわたしより小さくて、『しょうがないなぁ』と思いながら見守ってきたのに。今はわたしより大きい。身長だって、肩幅だって……背中だって。
何もかもが、わたしよりずっとずっと大きくて、彼とわたしの違いを示す。
彼は男で、わたしは女で、一緒じゃないんだと。
「ねぇ」
「んー?」
声だって、昔はもっと可愛かったのに。高くって、少し尖ってたけど面白くって。やっぱり可愛くって。
「何で成長するの?」
「はぁ?」
いつの間に、わたしの知らない人になったの?
わたしの代わりに自転車を押す背中を見つめ、振り返らないやつを見つめる。
いつの間に? わたしずっと見てきたのに、いつの間にそんなに。わたしの知らない『男の人』になったの??
わたし、全然気付かなかったよ。いつも、近くにいたと思ってたのに。
確かに、年を経るごとに一緒にいる時間は減っていったけど、だけどそれでも、近いと思ってた。誰より、近い、なんて。
彼に彼女ができたら、そんなことないだろうに。
そんなことに、今初めて気が付いた。そして、何故かその事実を疎ましく思った。
「わたしの方が、大きかったのに」
「一年も前の話だろう」
そうなんだけど、改めて、大きくなったと思う。ちょっと一緒に帰らなくなっただけで。
それが分かってしまう。
悔しいのか、寂しいのか。はたまたそれ以外か。分からないけれど、イラッとしたのも事実で。
「悔しい……」
「何、お前。まだ根に持ってんの?」
それが悪いか。負けるのは嫌なんだ。
たとえ仕方のないことだとしても。また一つ、わたしの知らない人みたいな証拠が増えた。
「絶対飲んでる牛乳の量なら、あんたに負けない気がする」
「牛乳……」
骨太くなるだけだろ、それ。そのツッコミは聞こえなかったふりをする。骨が丈夫になることはいいことなんだ。現に骨密度がだね。
「ずーるーいー」
「はいはい」
「その余裕そうな顔もむかつく」
「そうですか」
機嫌悪いなぁ、と呟きながら、笑った。
少しだけ、小さい頃のやつの顔と重なる。少し、気弱そうな笑顔もそのままだ。大人しくって、誰に何を言われても言い返そうとはしなかった。
その分、わたしが言い返してたんだけど。だから、弟みたいなものだと思ってたんだ。
彼は、わたしが近くで見てなきゃって。
「後ろ、乗っけて。歩くの疲れた」
「我がままだな」
「いいんだよ」
あんたにしか言わないんだから。
そうだ。クラスでこんな発言するわけない。いつもはわたしの方が大人しくて、聞き分けのよい、何を言われても言い返さない子。
そうしようと、学年が上がるごとに思うようになったのだ。昔のように、男の子とけんかなんてしない。
「はいはい。じゃぁ、乗ってくださいな」
「ありがと」
彼が自転車に跨ったのを確認し、わたしは後ろに乗った。そして無意味にぎゅっと抱きついてみる。
やっぱり少し大きかった。一年前はもう少し細かった気がする。
男の子、の体だった。細くて、頼りなくって、背丈だけが急に伸びたような。そんな。
もやしって言ったら怒られたっけ。
「太った……」
「筋肉がついたと言ってほしい」
そんなこと、絶対言ってやらない。
だって認めることになるもん。
「少しは動揺すればいいのに。女の子が抱きついてるんだから」
「女の子、ねぇ」
「何が言いたいの?」
「いいえ」
ぐっと必要以上力を入れても、彼は苦しがる様子を見せなかった。
それが悔しくって、もっと力を入れてみる。
これでもかと言うくらい押し付けて、それからふと『動揺しないのか』とつっこんだ。仮にも女の子が抱きついてるんだぞ。
少しくらい慌ててもいいだろう。
なんて。まぁ、女の子として意識されていないのだから、それも仕方のないことだろう。
「つまんないの」
「何が」
「何でもないよー」
せめてもう少し、立派な体つきをしていれば、彼も動揺するんだろうか、なんて詮のないことを考えた。もっとも、意識してほしいわけじゃないんだけど。
だって意識されたら、もっと遠のいてしまうから。
男と、女の距離は遠かった。だから一番近い、幼馴染でいい。性別なんて、気にしないほうがきっといいんだ。気にしたら、寂しくなってしまうだろうから。
「家つくぞ」
「うん」
「降りろよ」
「うーん。もうちょっとだけね」
「苦しい……」
「ハイハイ」
それだけの観想を言う彼が面白くって、少し笑った。何だ、やっぱり意識してないじゃん。
よかったのか、悪かったのか。
判断はつかないけれど。でもとりあえず、安心してしまった。
だがしかし、彼女は知る由もない。彼が苦しがっている様子を見せず、かつ冷静に見せかけようと必至なのを。
苦しがっている余裕もなく、彼はひたすら前に集中していた。そして、頭の中で素数を数え、羊を数え、挙句2の一乗から順々に計算している彼の心が伝わることは、当分ないのだった。
少なくとも彼は、彼女を『幼馴染』ではなく、『幼馴染の<女の子>』として見ていた。そう、彼は初めから、自分と彼女の違いなどはっきりと分かっていたのだ。
それを知らない彼女は、未だ『幼馴染』の関係に執着している。
「(馬鹿か、こいつは)」
そう思いつつ、口に出さないのは、彼女がそれを望んでいるからだった。
想いの伝わらない彼から、彼女へ。
その『心』が伝わる『当分先』はいつ頃なのか。
男の子→(恋愛)→←(友情?)女の子
こんな関係って、可愛い。男の子の成長って早すぎて、ちょっと寂しいよねって言うお話でした。
ネタ提供(無意識)の幼馴染に感謝。(残念ながら、現実では幼馴染に恋愛感情はそうそう持てない)