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魔女と竜狩り  作者: 合併
第4節 竜狩りの呪い
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第4節 9

 2人は何事もなく村へと戻り、辿り着いた時には既に夕刻になっていた。

 早速、王都に帰って昨日の確認をするつもりだったが、ヴァンは役場に着いた時点で告げた。

「悪いが、調査の結果についてはお前が確認しておいてくれ」

「はいぃ??」

 突然の言葉に、彼女は素っ頓狂な声を出す。ヴァンは全く気にせずに、普段通り淡々と再度告げる。

「俺は俺でこっちでやる事があるんだ。悪いが、頼むぞ」

 その用事が何かまで言わないものの、聞いたところで答えてはくれないのだろう。ヴァンの考えは読めないものの、コハクは不満げにしながらも頷いた。

「…仕方ないですね」

「助かる。これ、俺の代理である証拠として使ってくれ」

 短く感謝の意を伝え、ポーチから金色の勲章を取り出して渡した。

「…これって?」

「俺の身分を示すときに使う勲章だ。たまに使うから常備してるんだ」

 さらりと言い、ヴァンはコハクを追い出すように転送室へと送っていく。

「じゃあ、頼んだぞ」

 何処か慌ただしくコハクを送り届けた後、ふぅ、と一息吐いてから振り向くと、長がこちらを見ていた。

「……何か、あったのか?」

 何処かおかしい様子だと感じたのか、長が聞くと、彼はそうだな、と答える。

「今回の依頼の内、番の片割れを始末した。その遺体は、元々の契約の通り、こちらで引き取って、然るべき機関に引き渡している」

「そうだったのか。早かった」

 報告がてらに今日の成果を聞いて、長も一安心と言いたそうにしていたが、ヴァンは声のトーンを変えずに続けた。

「そうも言っていられない。

 すぐに村の防壁を固めろ、と伝えに来た」

「……竜でも、見つかったか?」

 長がまさかと言いたそうに聞くと、彼は首を横に振る。

「竜は見つけていない。痕跡があったくらいだから、まだここ周辺にいるかどうかは分からない。それは、いま調査中だから構わないのだが、番を奪われた擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)が、ただそれを受け入れるとは思えん。

 奴は、間違いなく近日中に報復に来る。そしてそれは、俺だけじゃなく、この村の人間全員が報復の対象になったと思え」

 普段通りに感情のない声で伝えるが、彼もそれがただの脅しではないと感じ取ったのだろう。すぐに立ち上がって、応接室に向かう。

「竜狩り。少し、防衛について相談させてくれ。一緒に、着いてきてくれないか?」

「構わん」

 長の頼みにヴァンも断ることなく、一緒に応接間へと向かっていった。


 応接間には、この村の防衛の書類も置いてあり、テーブルにそれを広げたうえで、彼は伝声器を片手に話を進めた。

「これが村の全体図。お前も見てきた通り、外を囲うように木製の柵を作って防壁にしている。これは、地上からの襲撃には確かに強いが、奴ら―空を飛ぶ生き物相手まで想定はしていない。

 だからこそ、射落とせるように櫓と弓矢も複数用意していたんだが、何か案はあるか?」

「警報の類は?」

 まず、伝達形態について聞くと、彼は怪訝な顔をする。

「勿論あるが、撃退するには必要な武器じゃないだろう?」

「逆に聞くが、今から撃退用のバリスタでも作って間に合うか? 確かに、王都に申請すれば設計図くらいはすぐ手配してくれるだろう。ただ、現物を急遽整備なんて出来やしないぞ」

「むぅ…それは…」

 焦らせたのはヴァンであるが、現実味のない策に興味はない。正論で叩き潰したところで、とてもシンプルな案を出した。

「余計なことはしなくていい。俺が潰せばいいだけの話だ」

「村の近くで、火を吐かれても大丈夫なのか?」

 彼が危惧しているのはそこなのだろう。木製の柵を利用していることから、疑似竜の火炎放射で引火してしまえば、大火事になる可能性もある。ヴァンも優秀な戦士であるのは彼も分かっているのだろう。ただ、無理やり引き起こされた災害に対しても、対応できるとは言い難い。

 その相談について、ヴァンは当たり前のように答える。

「防火設備を各櫓に置いておいて、万が一の時にはすぐに鎮火できる体勢を整えれば良いのでは?」

「なるほど。こちらからの援護すらいらない、ということか?」

「言ってしまえばそうだな。疑似竜は俺がやる。だから、お前たちは防衛に徹して欲しい。

 その前に片付けばそれに越したことはないが、何かあったときの備えはして損はないだろう」

「分かった。こっちも見張り連中に伝えておく。

 伝声器は使ってないから、基本的に警鐘くらいなんだが、お前は聞こえるか?」

 方針が決まったところで、連絡方法の確認をすると、ヴァンも少し考えてからポーチから丸い小石を取り出した。

「まぁ、大丈夫だろう。念のため、伝声器ほど大したものじゃないが、この石を使ってくれないか?」

「…これは、通信石か。簡単な作りのやつだな」

「そうだな。一定の衝撃を与えれば勝手にこちらへ反応を伝えてくれるやつだ。何かあれば、これで連絡を取ればすぐに戻れるはずだ」

「分かった。今話した内容で、こっちも準備をしておく。―ところで、お前はどうする? 王都に行くのか?」

 話自体、一段落したところで長が聞いてくるが、彼は首を横に振った。

「いや、俺は疑似竜の片割れの捜索に戻る」

「…これから日が沈むぞ?」

 心配する長に対し、彼はどうでもよさそうに答える。

「夜の捜索も慣れてるから安心しろ。それに、折角足手まといを他所に回せたんだ。今のうちに、自由に動いておきたい」

「…ん? お前たち恋仲じゃないのか?」

「勘弁してくれ。アイツは、あくまで戦い方を教える生徒でしかない」

 とんでもないことを言い出した長に向け、彼は本当に嫌そうに答えたあと、背中を向ける。

「まぁ、ちゃんと仕事はしてるから安心してくれ。ただ、何かあったら連絡を直ぐしてくれ。すぐに向かう」

「…ま、どうでもいいけどよ。連絡については任せておけ」

 既に歩き出したヴァンは、それを聞いて応答するように片手を上げて、役場をあとにした。


 ―その後、暗くなり始めた頃に民宿に戻り、一応残しておいた道具を多少補充し、空になった強壮剤や水筒を置いておき、必要なものだけにしておく。

 そして、準備を終えて再び外に出た頃には、太陽のかわりに赤い月が昇り始めていた。

「今日もいい夜だ」

 赤い月が世界を柔らかな赤色へと染め上げる―吸血鬼(ヴァン)が精力的に活動するには、ぴったりの夜。1人でそんなことを考え、小さく笑ってから村の柵の外へと向かっていった。

 そして、村から出るや否や、すぐに飛び立つ。

 向かうは、昼間、疑似竜を狩った山。

 疑似竜の片割れも、すぐに襲撃してくるとは思わないが、襲撃のための前準備として、暴食―ガスや栄養を溜め込もうとしているはずだろう。

 少なくとも、今は普段よりも精力的に活動している可能性が高く、痕跡を残しやすいからこそ、このタイミングで叩きに向かう。

 真っ当な理由もあるが、コハクに飲ませた強壮剤の半分を飲んでいたせいで、体を動かしていないと寝付けなさそうというのも、もう1つの理由だったりする。


 ―空を駆けながら、夜行性の猛禽類や蝙蝠と何度かすれ違うが、何かに追われている様子はない。夜となれば、まだ寝ているのか、と思ったところで、山に獣の叫び声が木霊した。

「……、」

 音のした方向を向き、ヴァンはそちらへとすぐに向かっていく。

 疑似竜が見つかると思いきや、音の発信源と思われる付近は既に事が済んだ後のようで、大きな口に削り取られたように、大きな窪みとなっていた。その周囲に飛び散る毛や、血飛沫から、何か生き物がいたとは思うが―明らかに"普通"ではない。

 上空から急降下して仕留められたとは思えない、倒れた木々に残っていた、齧り取られた跡。明らかに、疑似竜の仕業とは思えない荒れように、ヴァンの背筋に寒気が走る。

「これは…」

 明らかに異常な光景に、危険を感じながらも彼も着地して痕跡の調査を始める。

 ざっと見たところ、猪のような獣が狙われたと思うが、それ諸共食われたらしい木々の状況を見るに、下方向から―"地中"から食われたように見える。

 それ以外の、生き物らしき痕跡は全く見つからないが、この痕跡から、少し前に話した相手―ケイの操る、地面を這う闇の塊を思い出した。

 確かに連絡はしたので、彼女がこの周辺にいる可能性はあるが、わざわざ獣を狩るためにこんな方法を使うとは、普段の彼女からは考えられない。―実際、彼女の考え方や、仕事以外の事は把握していないものの、今まで見てきた中では、このやり方は彼女らしくない。

 そうなれば、似たような力を使う―魔女のような相手がいる可能性がある。

 正体は分からないものの、警戒するに越したことはない。調査もほどほどに、彼は再び空へと駆け出し、疑似竜を探すことにした。

 とは言うものの、先ほどの獣の叫びを聞いていれば、本来臆病な生き物である疑似竜なら、下手に外に出てこない可能性も高い。

 それでも、先ほどの声を聞いてから住処に帰っているとなれば、その途中でを発見することができるかも知れない。

 指輪の魔力はまだ余裕があり、ヴァンの体力も今晩は問題ないので、もう少し調査を続けることにした。

 そして、少しの物音すらも聞き逃さないよう、集中しながら調査を進めること1時間ほど。結果として、成果は何もなく、先ほどの異様な光景以外の痕跡は何もない。これ以上の捜索は、体力と魔力の無駄と判断し、ヴァンも1度宿に戻り、休むことにした。

 ――暗い森の中。闇の中から見える、2つの満月のような黄色い目が、ヴァンを静かに見つめたあと―彼の姿が消えるのと同時に、闇に再び消えていった。



 ―ヴァンが山の空を駆け回っていた頃。

 王城の研究棟に調査結果を確認しに来たコハクは会議室に通されていた。

(えぇ……)

 通された、10人程度の会議を想定した広さの机と椅子以外ない殺風景な部屋。四角形に並べられた机を囲んで会議できるようにされている。

 既に席に着いていた、光り輝くスキンヘッドをした、スーツ姿老人ことノーゼン博士は、コハクに気が付いて声をかけた。

「おお、お前さん。確か、金色と一緒にいた…」

「コハクです」

 改めて名乗ると、彼はそうか、と手を叩く。

「いやはやすまんね。如何せん、人の名前を覚えるのが苦手でね。そんなところで立ってないで、座ってくれ。他の人の邪魔になる。

 なんなら、ワシの膝の上でもいいぞ?」

「そうさせてもらいますね」

 当たり前のように飛び出たセクハラ初感を無視し、彼とは対角になるように座ると、少し寂しほうな顔をした。

「そんなに私は魅力ないかの…。

 それはそうと、金色はどうした? 別の女とよろしくやってるのか?」

 ようやく、ヴァンの姿が見えないことに気が付き、改めて聞くと、彼女は後半をスルーして答える。

「いえ、依頼先の村で用事を済ませると言ってました」

 その言葉に、彼は少し目を光らせ、すぐに何でもない風に装った。

「そうか。それは残念だったな 。どうせ、今晩はしっぽり楽しむ予定だったんだろう?」

「それ答える必要あります?」

 流石にスルーしにくくなってきたので、遂にツッコミをいれると、彼は当たり前だと言いたそうに断言した。

「魔女と突き合う男なんだから大事な事だろう? どうせ、経験がないわけではないのだから、恥ずかしがることでも無いだろうに」

「…、」

 彼の言うことは確かにそうなのだが、一々個人の情事に首を突っ込んでほしくないのは、当然の感情である。少し前にヴァンが話していた意味を理解した上で、彼女は答えた。

「今どきの子はそんなものなのか? 私の若いときはもっとオープンだったんだがなぁ」

「―それは、そういう時代だったからですよ」

 扉が開くと同時に、聞き慣れた声が聞こえ、鎧に身を包んだ碧の竜狩り―マダムが部屋に入ってきた。

「おお、マダム。随分と久しいな。あのガキンチョに適当に声かけとけと言っただけなんだが、引きこもってるお前さんも来るとはな」

 ノーゼンは一切遠慮せずに言いたいだけ言うと、彼女もコハクの隣に座って答えた。

「今回、金色とこの子に依頼を紹介したのは私ですからね。当然の対応です。

 それにしても、あなたも変わりませんね」

「勿論とも。下以外は昔と変わった気はしとらんぞ」

 呆れ気味のマダムに対し、まだまだ現役と言わんばかりに元気なノーゼン。調査結果を聞くだけの筈なのに、なんだか雲行きが怪しくなってきたのを感じ取り、まだ聞きやすいマダムの方に、この状況について聞いた。

「あの…マダム、こんなに人が集まってるのは一体…?」

「何も聞いてなかったの?」

 コハクの反応を見て聞き返してくる。彼女も答えようとした時、また扉が開き、新たな来客が来た。

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