第77話「クランの戦い方、俺の戦い方」
地下4階への階段脇で、俺達は紅茶を飲みながら休憩している。
加えて、階下での戦いをいろいろとシミュレーションもしていた。
各自の今迄の戦い方を考えて、クランとしての戦法を再確認した。
本当は盾役のアモンだが、相手の強さを考えて俺が経験を積ませて貰っている。
彼の強さは良く分かった。
それは俺をオークから助けてくれた時。
人間離れした(悪魔だから当然だけど)膂力を使い、怖ろしい魔剣を使ってオークを瞬殺したのを目の当たりにしたから。
ちょっと手品っぽいけど、口から猛炎も吐く。
それ以上に戦いの判断能力に長けているので軍師役としてアドバイスを貰えるのが本当に助かるのだ。
嫁のひとり、悪魔王女イザベラの攻撃魔法は思ったより強力。
彼女の爆炎魔法は遠距離攻撃の手段として凄く使える。
一瞬にして、オークが粉々になったもの。
支援魔法もこれからフル稼働するに違いない。
もうひとりの嫁ジュリアは魔法を使えないが、キャンプで購入した魔法杖を有効に使っている。
今の所回復魔法が主だが、攻撃&支援魔法もいけると思う。
そして最後に俺。
まずリーダーとしての責務を果たす。
そして、考えたのは剣士としての身体の捌き方、そして技について。
前世の俺は、剣道に関しては全くの素人。
冒険者ギルドで試した、『なんちゃって剣法』で戦っている。
散々読み耽っていた資料本の中に、剣豪と呼ばれる人達のものが数冊あったので、雑学的知識は一応あった。
だが、その本にしたって主に剣豪達の足跡を語っているだけのものが殆ど。
だから、使う技なんかは大体俺の推測と想像なのである。
俺が主に使っているのは、ご存知新選組の天才剣士沖田総司の技。 無明剣と呼ばれる伝説の3段突きだ。
この技は単なる突き技ではない。
基本は喉、鳩尾、胸の急所を神速で突く技と伝えられている。
だが、突く順番はおろか、それ以外のどこを突くかも、攻撃する相手により千変万化。
定型は全く無いという。
逆に言えば、敵からは攻め手の予測が出来ない。
また刀を水平にして構え、刃を外に向ける事で、突き技以外にも斬る事への切り替えが容易に出来る優れものなのだ。
動物型のヘルハウンドや昆虫系はともかく……
人型の魔物に対して、この『無明の剣』はとても有効だろう。
新撰組の剣技は幕末の京都の街の路地で威力を充分に発揮した。
同じ様に狭い迷宮の中だから使い易い。
鬼に金棒である。
もっと練度を高めて行く価値は充分にあるのだ。
ある程度『無明の剣』で戦ったら、俺が試してみたい剣法はまだまだある。
やってみて再認識したが、邪神様に改造された俺の体術、身体の捌きや速度は既に人間離れしている。
型さえ身につけて練度を高めれば、これまた夢見た剣豪への道まっしぐらであろう。
俺が憧れているものに、『居合い』がある。
これは納刀の状態から抜刀し、さらに納刀に至るまでの間に相手を斬る技である。
もし達人になれば、抜く瞬間は常人の目には捉えきれない速度だという。
沖田総司の次に好きなのが宮本武蔵の二天一流……
こちらもあまりにも有名だが、2刀を使いこなす特殊な剣法だ。
俺が持っているのは邪神様に授かった魔剣1本のみなので、もう1本剣を手に入れられればぜひ試してみたいと思っている。
他に試したい剣豪の技はたくさんあるので随時試して行くつもりだ。
これは改造された俺の『チート野郎』としての特権である。
そして最後は……
現在の俺の究極奥義とも言えるモノ。
そう!
放射する魔力波で、相手を触れずに遠くから斬る大技。
まるでカマイタチ——すなわち風の魔法使いが大気で相手を切り刻む魔法、風刃みたいなものであろうか。
風の代わりに、俺は魔力波で相手を斬るのであるが。
しかし、この前は失敗した。
アモンが助けてくれなければ、危うくオークに喰われるところであった。
使う魔力の加減が分らず、俺は完全な魔力切れを起こしてしまったから。
だけど、いずれこの技を極めなくてはならないだろう。
俺はこの異世界で仲買人にはなるが、これから家族も守らなきゃいけない。
修羅場をいくつも潜るだろう。
アモンの言う通り、強いに越した事は無いのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
充分に休息を取ったので、クランバトルブローカーは出発した。
戦いのシュミレーションを終え、万全を期して地下4階へ降りて行く。
当然索敵をしながら。
俺は鋭くなった五感を駆使して、敵が居ないか探っている。
ふむ……
とりあえず階段近辺に敵の気配はないようだ。
俺はホッと息を吐いた。
そんな俺を見たアモンの口調は相変わらず重々しい。
「トール、この階でも今迄の階とやる事は変わらない。お前の戦闘の経験値をしっかりと積み、場合によってはクラン全員で戦う」
ああ、暫く盾役は俺って事ね。
了解!
アドバイスありがとう。
僅かに頷いた俺は例によって先頭に立ち、「すっすっ」と静かに歩き始めたのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
 




