第1話 気分屋
「一樹、今日一緒に帰ろ〜。」
そう声をかけてきたのは幼馴染の七夏だった。
「わかった。じゃ、また放課後ね。」
そう言って俺たちはそれぞれの教室へ向かった。
そして放課後七夏の教室に向かった。
友達と話してるしちょっと待っててあげるかぁ。
しばらくして七夏は俺に気づいたらしくこっちに
やって来た。
「ごめんね。待たせたよね。」
「いつもに比べたらマシだろ。」
そう、酷い時は1時間以上待たされるのだ。
今日は15分なので全然マシである。
「ねぇ一樹、今日家泊まってくね。」
「え?」
俺たちは幼馴染ということもあって小さい頃から
よくどちらかの家に泊まることがあるのだが
当日に宣告されると言うのは初めてだ。
「部屋汚いし片付けてからでいいなら…」
「いやいや、いっつも汚いし変わらないって。」
相変わらず笑顔でとんでもないことを言ってくるやつである。他の人にもこんな感じなんだろうか。
「変わるよ…ちょっとは」
実際ずっと汚いので強く言い返せなかった。
クヤシイ
「話変わるけどさ、一樹今日部活あったんじゃないの?私と一緒に帰って大丈夫だったの?」
「え?」
スマホの予定表を確認するとカレンダーにはしっかり部活の2文字が刻まれていた。
「明日確定で怒られるやつだ。オワッタ」
どうして忘れていたのだろうか。いや待て
「知ってたならなんで教えてくれなかったんだよお前」
「ほんとは放課後教えてあげるつもりだったけど待っててくれてたし一緒に帰ってあげよっかなって思ってね。」
私優しいでしょ、みたいな顔をしながら七夏はそう言った。
「悪魔かお前は……」
「しょうがないじゃん。私は私の気分に従っただけだよぉ。」
「気分、ねぇ」
「そう、気分」
俺はこいつの気分のせいでいつも振り回されている。今回に関しては俺も悪いのでなんともいえないのだが…
「お、家ついたね。」
「じゃあ5分くらい待ってて。片付けてくるから」
「え〜いいのに。」
「俺がよくないんだよ。」
そう言って家に入る。そしてある程度片付けて玄関のドアを開けると
そこには誰もいなかった。
「え、」
俺は通知が来ているのに気づいてスマホを取りだした。やっぱり七夏からだ。
「やっぱり家帰りたくなったから今日は帰るね。
部屋の片付けしなくてよくなって良かったね。」
「もう片付けたあとだっつうの。」
あくまで自分は悪くないみたいに書いてるのが腹立つ。でもほんとに悪いと思ってないんだろうなぁ。
七夏の気分屋は今に始まった訳じゃないから慣れている。七夏は自分の気分に正直すぎる。中学の修学旅行の出発前になって面倒くさくなったと言ってドタキャンしようとしたこともあるほどだ。あれを説得するのは大変だった。七夏を説得するには彼女の気が向くようなことを言わなければならないのだが10数年間一緒にいるというのに彼女の好みが未だに分からないのだ。なんと言っても1回好きと言ったものがいつの間にか好きじゃなくなってたりすることがよくあるのだ。そんな彼女をその気にさせるにはとにかく数打つしかない。ちなみに修学旅行には集合時間の2分前に到着して無事間に合った。
しばらくして俺が課題をしているとインターホンが鳴った。
「は〜いどちら様ですか。」
「来ちゃった。」
「来ちゃったじゃなくてさ…
帰りたくなったんじゃないの?」
「いや〜家に1人で寂しくなっちゃった。」
「元からわかってただろそれ…」
「寂しくなる時は突然寂しくなるのです。」
「誇らしげに言うな。」
とはいえこうなるとめんどくさいし部屋もせっかく片付けたので家にあげることにした。入れたら入れたでめんどくさいというのは言わないお約束。
「客がいるっていうのにおもてなしの1つもないのかい?和菓子とか食べたいなぁ」
あ、やっぱめんどくさいはこいつ。
「和菓子指定してくるやつあんまいないぞ。お茶と和菓子だけでいいか?」
「いいよ〜。」
そしてお茶とお菓子を七夏の元へ持っていくと
「ん〜和菓子の気分じゃないかも。」
「1分前のお前が気分だったんだから黙ってたベろ」
「うわ〜お前って言われた〜ひど」
人がせっかく持ってきたお菓子を気分じゃないとか言ってる七夏の方がよっぽど酷いと思うのは気のせいだろうか、いやそうでない。っと今日の授業で出てきた反語を心の中で詠唱しておいた。
「ねぇ一樹。」
あ、嫌な予感。
「明日遊園地のペアチケット取ったから一緒にいける?」
「なぜチケットを取る前に聞かない。」
「だってどうせ暇じゃん。」
「…」
その通りであった。俺には七夏以外に友達という友達がいない。そして部活もないとなるともちろん一緒に誰かと遊びに行くなんてことはない。つまり暇なのである。かと言ってここで何も言い返さないのは癪なので
「明日はちょっと家族で出かけるから厳しいかもな」
「へ〜。嘘ついちゃうんだ。」
なんでばれてるんだろうか。
「嘘じゃねぇよ。俺が暇な証拠あるのかよ。」
「楓さんにさっき聞いたら明日は家でダラダラするって言ってたよ。」
変なとこだけ抜かりないのはなんで??お母さんもお母さんでなんで仕事中に連絡返してるんだよ…
「ってことで明日行けるね」
「しょうがねぇな…」
なんで七夏はこんなニヤニヤしてるんだろうか
そう思っていると
「あ、嘘ついたから罰として明日のプラン考えといてね。それじゃ私お風呂入ってくるね。」
言うだけ言って逃げられた。しかしプランを考えるというのは中々に鬼畜な罰ゲームである。なんたって七夏の気分を当てないといけないのだから。
まぁ考えてもしょうがないし明日考えるか。




