今後の活動
今まで十人からリプが来ればたくさん来た! と喜んでいたのに、昨日のことがきっかけで1000倍の一万人からリプが来るという異常事態が発生。
そのまま玄関でフリーズしてしまい、そのまま数分間動かずにいたら危うく電車の時間に間に合わなくなりそうだったので、大急ぎで家を飛び出した。
玄関でフリーズした分を巻き返すように爆速で登校し、昨日のバズが現在もなお継続しているため大量の視線を向けられ、恥ずかしさで顔を赤くしながらHRが始まる前の教室に飛び込む。
その瞬間、がやがやとしていた教室内が一瞬で静かになり、頼むからいつも通りにしていてくれと心の中で叫びつつ、教室の隅の窓際にいるセミロングの栗毛に目端が少し吊り上がっており切れ長な目元、左目の下にある特徴的な泣きほくろの姫乃より身長が十五センチほど高い美少女、氷城美雪のもとに駆けよる。
「おはよう美雪。そして助けて」
「おはよう姫乃。答えは無理よ」
「なんで!?」
「起きたことはもう変えられないからに決まってるでしょうが。別に変なことしてバズったわけじゃないんだし、別に恥ずかしがることじゃないでしょうに」
「だとしてもこの四方八方からぶっ刺さる視線が気になり過ぎるんだけど!?」
姫乃が教室の中に入った後、クラスメイトからの視線だけにとどまらず野次馬のように他クラスの生徒が姫乃の教室の前に集まり、入り口や窓から中の様子をうかがっている。
美雪の言う通り、とても恥ずかしいことをやらかしたわけじゃないし、むしろ人を助けたのだ。この行動は誇るべきだと思っているが、その結果がこの針の筵だ。
「そりゃクラスメイトがあんなヤバい武器使って特級をソロでぶっ倒した動画が流れてくりゃ、誰だって興味を持つし気にもなるでしょ。それだけ特級ソロ討伐っていうインパクトが強いわけ」
昨日の爛れた大狼竜は、いわばめちゃくちゃ早く動き回る災害のようなもの。
特級の中でもその強さはかなりのピンキリで、昨日のあれはその階級の中でも比較的下のほうだ。それでも、町1つくらい容易に壊滅できるだけの強さがある。
「それよりも、わたし昨日あんたが使った雷の奴知らないんだけど。また知らないうちに付け加えたわけ?」
「先週雷系のいい素材手に入れたから、枠空いてたし突っ込んじゃおうかなって」
「……その半端じゃない加工の技術も、そのうちバレるんだろうな」
姫乃は未成年だ。モンスターを倒して得られる核石はギルドで換金できるが、ドロップする素材は換金できない。
現代ではドロップした素材の持ち帰りだけは可能となっている。かつては未成年の後をこっそりついていって、ハイエナ行為やスカベンジャー行為を繰り返す不埒な輩がたくさんおり問題となったため、長い議論の末に法改正された結果だ。
換金はできない、とは明記されているが、加工をしてはいけないとは書かれていない。言ってしまえば脱法に近いニュアンスになってしまうが、法律に書かれていないのだからセーフだ。
「ひとまずは、改めてバズおめでとう、姫乃。配信者活動で食べていくっていう目標が叶ったわね」
「ボクは別に、配信者で食べていくぞー、とは言ってないけどね」
「稼ぎ口は複数あることに越したことはないよー。探索者での活動だって、想像付かないけどあんたが怪我して引退したらその瞬間から収入はゼロ。配信活動をしておいて熱心なファンを大量に獲得しておけば、探索者ができなくなっても配信者としていろいろできるようになる。今あんたのバズで集まってる野次馬を全部まるっと固定リスナーにすることができれば、やり口はいくらでもあるわよ」
美雪の言っていることは理解できる。
自分でも自分が探索者を辞めるところなんて想像もつかないが、万が一辞めることになった場合今の時点でも割とギリギリな生活をしているので、核石換金で食い繋ぐこともできない。
なので今回のこのバズで集まった野次馬を、きちっと一過性のものにするのではなく、毎回配信に来てくれる固定リスナーにすることが最優先事項だ。
そうすれば、収益化した後にアーカイブや投稿している動画が再生されてそれによる広告収入も入るし、スパチャやメンバーシップなどでも収入が入る。
収入が増えて生活が安定すれば、余剰資金を貯金することもできるし今はまだ無理でも18歳になれば証券口座を開けるし、株取引による資産運用もできる。
こういったことができるようになるのは、すべてはこのバズを一過性ではなく完全に自分のものにしてから。そう思うと少し緊張してくる。
もしこれをものにできなかったらたまにテレビとかで見かける、一時期ものすごく話題になって人気が爆発したのに、その後上手いこと人気の獲得ができずに低迷してそのまま姿を消して、数年後にアルバイトをして細々と暮らしているという芸能人のようになってしまう。
今の姫乃はまさにその状態。爆発的な人気を集めているが、失敗したらまた元通りになってしまう。
アナリティクスで見た、昨日の切り忘れた配信の最大同接数17万人。これが、バズ直前までの20人前後に戻ったらと思うとぞっとする。
「野次馬を固定リスナーに……。できるのかな」
「100億パーセントできるって断言しておくわ。雑談配信するのもありだし、そのままいつも通りの配信をするのもあり。おすすめは雑談することね。昨日のあんたはあまりにも衝撃的だったし。国が抱えてる超精鋭の特務執行室のメンバーじゃないか、どこかの企業所属じゃないかとかいろいろ言われてるし。中には、実はあの爛れた大狼竜は姫乃が自分であそこまで誘導して、あの女性配信者を意図的にピンチにして自分で助けたマッチポンプじゃないかって疑ってるのもいるし」
「え゛、そんな人いるの? ボクそんな器用なことできないのに」
「というか、根っからの善性の塊のあんたがそんな他人を傷つけることするわけないんだけどね。姫乃のことを何もわかってないやつが勝手に言うなっての」
一体誰が言っているのだろうか。こういう風に一気に人気を獲得した人に必ず噛みついてくる暇人だろうか。
なんてことを思いつつ、ちゃんと助言をもらってやっとここで少し肩の力が抜ける。何かものすごく特別なことをするのではなく、いつも通りのことをすればいいのだ。
持つべきものは親友だなと感謝しながら「ありがとー。大好きー」と言いながら美雪にぎゅっと抱き着く。
「じゃあ早速、帰ったら雑談にしようかな。きちんとボクが使ってた武器とかも含めて全部説明するよ」
「そうしなそうしな。……そしてあんたの魔導兵装のイカレっぷりをリスナーに教えてもらいたいわね」
「? なんか言った?」
「うんにゃ、別に」
美雪が何かをぼそっと言ったように聞こえたが姫乃はそれを聞き取れず、きょとんと首を傾げた。
その後、「いつまで抱き着いてんの暑苦しい」といわれ美雪に引きはがされ、すぐ後にクラスメイト達に囲まれて質問の嵐を受けることとなった。
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