鬼バズの翌日と継続するバズ
「うーん……」
枕元に置いてある、充電ケーブルにぶっ刺したスマホがブー、ブーと鳴っている。
その僅かな音に起こされてまどろんでいた意識が浮上する。
「……まだ5時なんですが」
スマホの画面を見ると、時刻は午前5時を示していた。いつもは6時ごろに起きるので、その時間よりも1時間早い。
通話でもなかったしアラーム音でもないので、そのまま二度寝を決め込もうとする。
「……いや待って、じゃあこのバイブ音は何?」
心地のいいまどろみに身を任せようとしたところ、じゃあこれは何なのだという疑問が殴りつけてきて、再び意識が浮上する。
体を起こしてスマホを手に取り、画面に目を落とす。
「ん~……?」
スマホがひたすらぶるぶると震え続けている理由。それは凄まじい速度で通知が来まくっていたからであった。
1200人があなたを新たにフォローしました
700人があなたの呟きをいいねしました
2900人があなたを新たにフォローしました
そんな通知内容がずらりと並び、信じがたいことにいまなお増え続けているのだ。
「は!? え!? はいぃ!? ナニコレ!?」
寝起きで碌に動いていなかった頭が動き始め、だんだんと画面に表示されている文字の意味を理解して、寝起きで若干かすれている声を張り上げる。
画面に表示されているのは姫乃が使っているSNS、ツウィーターから来たもの。いつもは多くても100人程度、それも自らいいね営業をかけたり他ユーザーの投稿にしたリプに対してくるものばかりだった。
過去に一度、何かの拍子でプチバズり見たいなものを経験してコメントが100件ほど来て、律儀に全部リプ返をして中々に地獄を見たが、今スマホに表示されているそれはかつてのものとは比較できないほどのものだ。
700人ほどいたフォロワーは、どういうわけかその数を40万人にまで爆増させている。
もうこの時点で動き始めてきた脳みそが再び停止しそうになる。何が何だかわからずに困惑していると、今度は通話アプリLAINEから通話が来る。
それはこの一年間、姫乃の配信のサポートをしてくれている、中学からの付き合いのある親友兼マネージャーの氷城美雪からのものだった。
『あ、もしもし姫乃? あんた今とてつもないことになってるわけだけど、気分はどうよ?』
「と、とんでもないこと? 確かになんか知らないけど、ツウィーターのフォロワーがぐんぐん伸びてるけど……」
『あんたもしかして、今自分がどんな状態かわかってない? 早くトレンド欄開いてみなよ。1位から30位全部あんたで埋め尽くされてるから』
「いやいやいや!? ボクがいくら寝起きだからって、流石に騙されないよ!?」
とは言いつつも寝巻のまま部屋のパソコンの前に行き、電源を点けてWEB版のツウィーターを開く。
トレンド1位:姫乃
トレンド2位:特級ソロ討伐
トレンド3位:うおふっと
とりあえず3位は見なかったことにして、美雪の言った通り1位には自分の名前があった。
もしかしたら自分と同じ名前なのかと思い1位のトレンドをクリックし、一番上に表示されている動画にカーソルを合わせる。
そこには縦横無尽にピンボールのように跳ね回りながら、爛れた大狼竜を一方的にボコす自分の姿があった。
『簡単に説明をすると、昨日あんたが助けた女性探索者。あの人が登録者数60万人の超人気配信者で、若手の中でも結構な実力者。近いうちに一級探索者に昇格して名実ともにトップになるんじゃないかって噂されてて、ものすごいたくさんの人から期待と注目を集めてたのよ。そんな人が配信中に大狼竜に襲われてピンチになっていたところを、あんたがギリギリで救出。そのまま特級をソロって言う非常識な行動をとった挙句に討伐。この一部始終が昨日の配信者の配信にがっつり映ってたのと、あんたが配信を切り忘れて連続配信可能時間限界まで配信が続いてたから、即特定されて今ものすごい勢いで伸びてるってわけ』
「……え、ボク配信切り忘れてたの?」
『えぇ、しっかりと切り忘れてたわよ。あんた1年配信活動してるのに、なんでそんな初歩的なミスしてんのよって思ったけど、結果的になんかバズったし結果オーライね』
次に急いでアワーチューブのWEB版のタブにカーソルを合わせてクリック。そのままアワーチューブスタジオを開いてダッシュボードに欄にあるアナリティクスを見ると、登録者数が50万人にまで爆増していた。
900人程度から50万人。まさかの約555倍。
「え……えぇえええええええええええええええ!?」
一回の配信で一人増えればとてもうれしくて、配信の翌日にアナリティクスを見た時にまた一人増えていたら舞い上がってしまいそうなほどだったのに、それが寝て起きたら49万9100人も増えていた。登録者数の増減を見るグラフが、まっすぐピーンと直立している。
しかも今もなおその登録者数は数百から千単位でぐんぐん伸びている。
あまりにも一気に数字が増えすぎているせいで、実はまだ夢の中にいるのではないかと疑ってしまう。
『これは夢じゃないわよ。まあわたしも最初見た時、想像した以上の伸び方に自分の目と頭を疑ったけど、これは紛れもない現実。よかったじゃないの、夢にまで見たアワーチューブドリームを掴めて』
「いや実感わかないってぇ!?」
『実感わかないだろうけど、今は喜ぶことが最優先。1年間頑張ってきた努力が、予想外の結果とはいえ報われたのも事実なんだしさ。学校で直接会った時にも言うけど、ひとまずはおめでとう』
美雪の言う通り、姫乃はコツコツと地道に頑張って今日までやってきた。
努力はいつか報われる。非常に地道だが、いつかは必ず大きなチャンネルにできる。そう信じて頑張り続けて、想定していなかった結果ではあったが努力が報われたのは確かだ。
「……ありがとう、美雪。次のお休みの時、何かごちそうするよ」
『それなら姫乃お手製こだわり卵のプリンを所望するわ。あれマジで病みつきになる美味しさだから』
「本当に好きだねぇ」
同じように寝起きだったのかややダウナー系でドライな声がよりドライに聞こえていたが、プリンを所望する時に一気に声音が明るくなっていた。
そのことにくすくすと小さく笑い、スマホ越しに『……笑うなバカ』と小さな声で言われる。
その後、学校であってもう少し詳しく話をしようと言ってから通話を切り、姫乃はスマホを耳から離す。
「……なんか、眠気が全部とんじゃった」
もう少しベッドの上でぐっすり惰眠を貪りたかったが、ツウィーターとアワーチューブが昨日の出来事をきっかけに鬼バズりしフォロワーと登録者が激増。
もう一度アナリティクスを開いて、チャンネル成長の推移を表すグラフを見る。先ほど見た時よりも、垂直に伸びているグラフが伸びている。
「本当に、ボクのチャンネルがここまで一気に大きくなるなんてね……」
繰り返し見ても変わらぬどころか数が増え続けている数字を見て、ようやく遅れて実感がわき始める。
「今から寝るのもなんか変な感じだし、このまま起きてようかな。いやでもまだ五時だし……。おはツイを予約投稿だけして二度寝しよう」
こんな早い時間からずっと起き続けると午後に眠くなりそうなので、眠気がなくとも二度寝することにする。
とりあえずとパソコンでツウィーターを開いて、適当におはツイの投稿を作ってから6時半ごろに予約設定する。
これだけバズった後だし、いまだにトレンドにも載っているのできっとたくさんリプが来てくれるかもしれないなと期待に胸を膨らませて、ゲーミングチェアから腰を上げてもそもそとベッドの中にもぐりこんだ。
一時間半後、朝食を食べている間ずっとツウィーターから通知が鳴り続けており、姫乃が学校に登校するため家を出る時点で予約投稿したおはツイに、1万件ものリプが来ており頭の中が真っ白になった。
作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』
Q.姫乃ちゃんの太ももってどれくらい太い?
A.一気のグリッドマンの六花以上、ライザのアトリエのライザ以下




