脱退、そして加入
ケルヴァーグを討伐してから数十分。二人はぐんぐんダンジョンを上っていき、中層の第一階層に戻ってきた。
下層第四階層は姫乃が鶏肉欲しさに走り回って、ついでに色んなものをしばいていたため数が少なかったが、第三階層からはほどほどにモンスターがいてくれた。
スパルタ的な鍛錬はさせられないので、同一種のモンスターが大量発生するモンスターハウスにはいかずにスルーして、トリガルドスや妖鎧武者、甲虫種モンスターのラプシールなどを相手に戦った。
姫乃からすれば下層の最強格でも雑魚同然だが、楓恋にとっては圧倒的な格上。存在感も威圧感も半端ではないため、特に妖鎧武者相手には一歩踏み出すことを恐れていた。
姫乃が前に立って武者と殺陣を繰り広げながらタンク役を引き受け、腕を片方そぎ落とし余っているパーツで槍を作って左足に突き刺してそのまま地面に固定することで、妖鎧武者が回避できない状況を演出。
すぐに意図に気付いてくれた楓恋がガンブレードの銃撃を数回行い、鎧を破壊して弱点であるコアを貫通。サポートありでも下層最強格を倒せたという自信を持たせた。
そうして中層の第一階層にまで戻ってきて、上層に上がる前に少しだけ休憩をはさむ。
「なんかめっちゃ魔力伸びた」
「そりゃあんなのと戦ったからね。ゲームと一緒で、めちゃくちゃ強いやつ倒したらものすごい経験値はいるのと一緒」
「すっごい分かりやすい。姫乃ちゃんもゲームするんだ」
「結構色んなのやってるよ。マリオ〇ートとかモンハンとか。ボクの武器とかは結構モンハンから来てるしね」
楯斧とか剣斧とか、ガンランスなんかがまさにそれだ。かの機神フレイヤも何気にモンハンの影響を受けていたのではと言われているし、あのゲームの武器を参考にするのは間違っていないはずだ。
「それだけ魔力増えてれば、五回どころか数十回は余裕で行けるんじゃないかな。物の構造の見え方とかは変わってたりする?」
「うーんと……ううん、変わんない。こればかりはモンスターを倒すだけじゃダメみたい。複製回数は、多分すごいたくさんできそう。ちょっと試してみる」
そう言って常に背中に展開して待機状態にしている七式真装、左腰に下げている七式魔剣、深層級モンスターやファーヴニルに使った六連砲星と龍葬砲、今も履いている雷霆軍化を次々と複製する。
どれもしっかりと見て把握しているものではないためハリボテだが、こうして自分のものが複製されるのを見ると驚いてしまう。
「うん、全然余裕。消費量的に……あと六十回くらいはできるかも」
「めーっちゃ増えたねぇ。それで確定で壊れるけど一発限りで能力再現できるし、きちんと伸ばせばぶっ壊れもいいところじゃん。なんでそんなすごい能力持ってるのに、黒夜の人たちって育てようって思わなかったんだろう」
「なんでだろう?」
”姫様の魔導兵装複製できるっていうことがでかすぎて忘れてたけど、そういやそうじゃんね”
”特級の武器をハリボテ再現して、その武器の能力一発使ってまたすぐに補填してぶっ放してを繰り返せるのに、どうして楓恋ちゃんを育てようとしなかったんだろう。今くらいにまで成長させたらものすごく楽だったろうに”
”結果的に姫様に拾われてものすごい成長してるし、ファインプレーやな”
”ちょくちょく姫様が抱き着いていい感じの百合シーン見せてくれるし、マジで感謝”
”楓恋ちゃんが姫様より少し背が低いのが実にいい百合の味を出している”
”姫様がお姉ちゃん味醸し出してて最高”
”お姉ちゃんかどうかは知らんけど、姫様のほうが先輩だし、楓恋ちゃんに先輩って呼ばれて照れてるところとか見て見たいわ”
”その後輩が凄まじい速度で成長してて、ワンチャン姫様レベルになりそうな気配があるのですが”
コメント欄にいるリスナーたちも困惑している。
姫乃の大暴れの影響で株価が大暴落を続けており、今では大赤字状態とのこと。失った信用もそう簡単に取り戻すことなんてできないし、できることと言えばクランの本来の運営だ。
探索者は他の探索者に迷惑をかけず、彼ら彼女らの利益を尊重し、必要な時は協力し合う。探索者に限らず他の職種でもいえることだ。
信用を積み上げるのは非常に大変だが、地道にやること以外の近道など存在しない。今からでも慈善活動でもすれば、最初こそバチボコに叩かれまくるだろうが、ずっと根気強く続ければ次第に好転するはずだ。
後進の育成だって立派な慈善活動の一つだし、強い探索者が生まれればそれだけダンジョンという謎に一歩近づける可能性が出てくる。
楓恋の能力はきちんと成長させれば、武器の摩耗という活動上どうしても発生するものを無視することができるし、強い武器を一つ作ってそれを見せて把握させれば魔力が続く限り無限増産ができる。
楓恋が成長すればともに行動する仲間の攻略が楽になる。少し考えればわかることなはずなのに、どうしてそれをしなかったのか不思議でならない。
黒葛原晴章も、今はどういうわけか自分の罪を認めて自首して自ら塀の向こうに入ったが、その前は頑なに自分の罪を認めず穴だらけな謎理論で武装して、その上で自分が勝てると思い込んでいた。
あまりにもお粗末な計画。彼の父親も同じようなやり方で姫乃のことを訴えるだのなんだの言っていたが、向こうが絶望的なレベルで不利なため向こうの弁護士が争うのを辞めようと諭すほどらしい。
遺伝だと片付けてしまえなくはないが、クランを三大クランに届かずとも大手にまで成長させた人にしては、あまりにも稚拙だ。
召喚紋事件の時に姿を見せたナニカ。あれが黒夜と関わりがあるのは確実。
何かしらの洗脳をクラン全体にかけており、その影響で全員稚拙な考えと行動しかできなくなっているのではないだろうかとさえ思えてしまう。
「それにしても、姫乃ちゃんって教えるの上手だね。流石解説配信をしているだけはあるよ」
「そう? ありがとう。楓恋も飲み込み早いから教え甲斐があるよ」
魔力操作の感覚は人それぞれなので、自分の感覚を教えたところで理解してもらうのは難しい。だが新人故に操作が雑できちんと使えていない回路があったりしたので、研修を受けた時に聞いた魔力操作のコツを自分なりにかみ砕いて説明した。
そうしたらすぐに楓恋もコツをつかみ、使えていなかった回路に魔力を流せるようになった。まだぎこちないところもあったが、回路の本数がこの二時間足らずで一気に増えたこともあり、今では中層の第三階層までであれば余裕でソロで行けるレベルにまで急成長している。
教えたことを乾いたスポンジが水を吸うかのように吸収していくので、まだ大したことは教えていないがきっと教えるのが楽しい相手だ。
「ねえ、明日も一緒にダンジョン潜る?」
少し考えてから提案をしてみる。助けた上にパーティーを組もうと言ったのだから放置はできないし、コメントにも書かれていたが今後どこかに所属することになるにしても実力と実績は必要だ。
彼女は今悪いクランに目を付けられている状態だし、守るという意味でも一緒に行動するのがベストだ。
「行く! どこのダンジョンに行く?」
「それは地上に出て配信が終わってから。ここで教えたら、悪い人たちが血相変えてそのダンジョンに来ちゃう」
「あ、そっか」
気が逸りすぎてしまいちょっぴり照れたようにする楓恋。いちいち行動が可愛くて仕方がない。
「よし、休憩終わり。あとはこのまま上層駆け抜けていって地上に出るだけだね」
腰を掛けていた岩から立ち上がり、軽く伸びをする。
楓恋にはまだ体力に余裕はありそうだが、あんなことがあった後だし精神的な疲れはかなりある。
今となっては上層程度では大して身にならないだろうから、ノンストップで駆けあがることにする。
上層の雑魚モンスターを蹴散らしながら進むこと十数分、姫乃たちはダンジョンを抜けて地上に戻った。
潜っていたのが世田谷ダンジョンであることを最後に明かし、そのまま配信を終了。その足でギルドに向かった
♢
「はい、志野原楓恋さんのパーティー登録を解消し、逢坂姫乃さんとのパーティー登録を完了しました」
ギルドに向かった二人はすぐに受付に行き、楓恋のパーティー脱退手続きを行った。本来はそのパーティーメンバーなどがいないとできないようになっているが、脱退するに値する証拠を持ってさえいれば一人でも脱退手続きが可能だ。
今回は姫乃の配信そのものが証拠となり、滞りなく黒夜のパーティーから脱退。
ついでに、未成年を無理やり下層に連れていった上に実力に見合わない下層第四階層ボスに挑み、挙句の果てには勝てないからと逃げようとした際に楓恋を突き飛ばして強引に殿にしたことなどから、該当のパーティーが帰還したらそのままライセンスを凍結させることにするそうだ。
「あっさり出来ちゃったね」
「それだけあれが信用されてなかったんでしょ。ボクの配信にがっつり君のことを殿にしたって自白してる声乗ってたし、いい気味だね」
「……姫乃ちゃんってさ、嫌いな人とかには結構お口悪いよね」
「嫌いなやつに丁寧に接する必要なくない?」
「あ、自覚あるんだ……」
結構いい時間になってしまったので、夕飯には少し早いが今から帰宅すると半端な時間になってしまうため、ギルド内にあるレストランで食事をすることにした二人。
助けてくれたお礼だからと楓恋が奢ると言ってきかず、根負けした姫乃はおとなしく奢られた。
食事をとり終え食後のお茶を嗜んでいると、ちらちらと視線を向けられる。
「なぁに?」
「私が憧れた姫様と、パーティーを組めたんだなぁって実感してるだけ」
「憧れって、ボクはただ自作の魔導兵装で暴れ散らかしてるだけだよ?」
「それだけじゃないよ。深層のモンスターが出てきた時とか、この間のあの事件の時とか。すごく怖いモンスターに勇敢に立ち向かうあの姿に、私すっごい憧れたんだよ? そんな人と、一緒にダンジョンに潜れるなんて、夢みたい」
「お、大げさだなぁ」
真っ向から憧れだと言われて恥ずかしくなる。
リスナーからしょっちゅう褒められているが、こうして直に憧れの感情と共に褒められるのは初めてなので、非常に照れくさい。
にこにこと笑顔を浮かべる彼女がまぶしく見えたので、照れ隠しの意味も込めてお茶に口を付けた。
こうして、姫乃と楓恋はパーティーを組んだ。
自覚しているようで自覚できていない、姫乃とつながりを持つという意味を知らないまま。




