収益化記念配信
もう少し時間がかかると思われていた収益化が、思ったよりも早く審査に通った。
バズって以降、いつになったら審査に通るかを心待ちにしており、毎日チェックを行っていた。そして先日、ついに審査を突破。収益化を達成した。
それに気づいたのはその日の配信を終えた後。早速それを確認した後、いつもだったら動画投稿をしない時間帯だったが、本当にできているかのチェックも込めて一本の切り抜き動画を投稿。
一年間続けてきた動画投稿するまでの画面に、今まで見たことのないものがあり、それこそが収益化を達成しているあかしだった。
嬉しくなってちゃんと設定してから動画を投稿。その後すぐに自分のスマホのサブ垢で動画を見ると、動画初めと終わりに広告が付いていた。
これで広告収入も入る。核石換金だけでなくそこからも入ってくるなら、ある程度足しになるだろうなと眠りについたら、翌朝には三百万再生を突破。
アワーチューブの広告単価は0.05から0.7円が相場。今の自分のチャンネルの単価がどれほどかわからないが、0.05円だとしてもとてつもない額になると分かり、恐怖で震えた。
そんな心持ちで学校に行く前に記念配信の枠を取り、帰宅後にいつもの服ではなく少しラフな私服に着替えて配信の準備を行った。
「はい、騎士団員の皆さんこんひめー! 今日は自宅配信をやっていくよー!」
”こんひめ!”
”こんひめー! ついに収益化だぁ!”
”ずっと目標にしてきていたものね。よく頑張った! これからも応援しまくるよ!”
”いつものあの衣装じゃないのなんだか新鮮。ラフな部屋着も可愛いね”
”もうじき秋なのに気温が高いからって、そんな薄着でラフな格好をしちゃいけません!”
”現役JKの薄着なラフな格好は、ある種の劇物だから気を付けてね”
配信を開始すると、いつも通りすさまじい勢いで同接が伸びてコメントが増える。
ちなみに騎士団員とは、リスナーのファンネームだ。自分では一言も言ったわけじゃないのだが、リスナーたちが姫乃のことを姫騎士だというようになり、そのリスナーだから近衛騎士団所属の騎士団員だと面白いよね、という流れになってそれを正式に採用。
正式名称は近衛騎士団員だが長いので、決まってからは騎士団員や団員と呼んでいる。
「配信タイトルとかツウィーターの告知とかでもう知っていると思うけど、皆さんのおかげで収益化達成しました! やたー!」
ぱちぱちと控えめの拍手する。
その拍手に合わせて、リスナーたちもおめでとうというコメントを書き込んでくる。
配信をする以上目標の一つにしていた収益化。それを一年越しに達成することができて、流石の姫乃も感無量だ。
「せっかくの記念枠ということで、今日は豪勢な夕飯を作ってそれを食べながらの配信にしたよー。というわけでドーン! 飯テロじゃーい!」
姫乃が作った夕飯。まずは炊き立てで白い湯気の出ている白米。次に野菜をたっぷり使ったコンソメスープ。
副菜に新鮮なレタスとトマト、キュウリを使ったサラダ。そしてメインには表面に焼き色が付き、中は素晴らしい桜色をしたローストビーフ、デザートにガトーショコラだ。
体を動かしまくっている探索者で食べ盛りなこともあって結構な量があるが、これは美雪からの提案だ。
姫乃は訳あって、実家住みではあるものの一人で暮らしている。このことはリスナーには話しておらず、自分からも積極的に話すつもりはない。
学生の一人暮らしというと結構な苦学生で食費を削りがちで、不健康な生活をしていると思われかねない。
幸いにも探索者単体でそこそこの額稼げているし、一応遠くに住む親戚からの仕送りもある。なので生活費そのものには苦労していないため、その辺のアピールも込めて記念枠であることも併せて豪華に行けと言われたのだ。
”SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!?!?”
”超うまそう”
”自宅でローストビーフって作れるものなの!?”
”めっちゃ食べるじゃん。でもたくさん食べる女の子は好きです”
”ひと切れでいいからそのローストビーフ食べたい!”
”それって姫様の手料理?”
”頭もよくて探索者としても配信者としても成功してて、可愛くて料理もできるとか完璧超人すぎる”
”姫様がエプロン着てキッチンに立っているのを想像したら、すごく萌える”
反応は上々。その人の生活が一番濃く反映されるのが食事なので、苦学生だという印象は与えずに済んだ様子だ。そもそもそこまで苦学生ではなかったが。
「ちなみにこのお肉、前に配信でボクが倒したマルグラウスがドロップしたお肉だよ。あれ竜種だから、これローストビーフっていうよりローストドレイクになるね。……めんどっちいからローストビーフで統一しよう」
モンスターの中で、何故か可食部位の肉をドロップするマルグラウス。
なんでそんなものがあるのだろうかと不思議で仕方ないが、あのでかい肉があるおかげでそこまで肉にお金をかけずに済んでいるのだし、なんだっていいかと考えるのを放り投げて手を合わせていただきますという。
早速肉から……と行きたいが、姫乃は野菜を先に食べるようにしている。いわゆるベジファーストだ。
手作りしたドレッシングが絡まったレタスはシャキシャキとしており、トマトもみずみずしい。
こうして美味しい食事にありつけているのも、世の農家さんたちのおかげだと毎日感謝に尽きない。
「さてとー。それじゃあそろそろ行きますか」
今まで何度も食べたことはあるが、ローストビーフ風にしたのは初めてなマルグラウスの肉。
ステーキが最高に美味しいし、唐揚げも抜群に美味しいし、生姜焼きにしても最高だったが、果たしてこれはどうなのかとタレを付けてから口に運ぶ。
瞬間、うま味が口の中で弾ける。
弾力のある歯ごたえに、噛めば噛むだけあふれ出てくるうま味。焼く時に付けた塩と胡椒、ニンニクの味と香りが鼻腔を通り抜けていき、言葉にできない感動に満たされていく。
”うわあああああああああああああああああ!? 超食べてえええええええええええええええええええええ!?”
”そんな美味しそうな顔して食べないでくださいます!?”
”ガチの飯テロで草。もうスーパーの市販品でいいから買ってくるか”
”美少女の、美味しいものを食べてとろけた表情するの大好き侍”
”マルグラウスだっけ。あいつ中層にいるモンスターだし、明日辺りに狩りにでも行こうかな”
”今この瞬間、姫様の最高の飯テロの影響で世のダンジョンにいるマルグラウスが乱獲される”
”ステーキも最高だけど、ローストするとそれ以上に美味いのか。……じゅるり”
じっくりと味わうように食べていると、コメント欄が大盛り上がりを見せる。
今からローストビーフを買いに行くというリスナーや、明日からマルグラウスを狩りに行くと宣言するリスナーなど、反応は様々だ。
「はー……。このお肉最高……。やっぱこのお肉知っちゃうと、もう一般のお肉には戻れないよ。……何よりこれタダだし」
買ったのではなく狩ったものだ。手間は少しかかるが、費用がかからないのでそれもあって普通の肉を買えない。
”¥50000:そういうことなら、普通のいいお肉を買えるように助力しないとな”
”¥30000:今も十分食べているけど、これからももっとたくさん食べてすくすく育つんだよ、姫様”
「んぐっ!?」
二枚目のローストビーフ風の肉を口に入れた瞬間、画面に表示しているコメント欄に赤い表示のそれ、高額投げ銭を示す赤スパが投げられたのを目の当たりにした姫乃は、噛むことを忘れて思わず丸呑みしてしまい、危うく喉に詰まらせそうになる。
「げほっ、げほっ……!? い、いきなり何!? なんか急に赤スパ来たんだけど、別に投げ時とかじゃなくない!?」
スパチャは基本、配信者側が投げるタイミングというのを作ることで、リスナーがそれに合わせて投げるものだと美雪から教えられた。
中には何の前触れもなく、何の脈絡もなく、唐突に投げてくる人もいるそうだが、基本は投げ時を見つけたリスナーが投げてくる。
なので一体何がきっかけでと流れていったスパチャを確認すると、やっぱり特に投げ時を作ったとかではない感じだった。
しかしリスナーたちはそのスパチャを皮切りに、
”¥10000:よっしゃ今まで配信ですげーの見せてもらってたお礼をするタイミングだぜー!”
”¥50000:ふへへ……いきなりの高額スパチャで愕然としている美少女の顔……。これだから収益化直後の美少女の配信に行くのを辞められねぇんだ……。もう姫様の配信じゃないと満足できない体にされたけど”
”¥5000(無言スパチャ)”
”¥20000:姫様が今までやってきた配信で散々楽しませてもらってたから、ささやかながらそのお礼です”
”¥50000:今無言でスパチャ投げてるやつおったなwww”
「ちょ、ちょっと待……!? ま、待って……!? ねえお願い待って!? なになになに!? 収益化記念配信ではあるけど、みんな急にそんなに投げてどうしたの!? ひいぃ!? なんか赤スパがいっぱい来るんだけど!? ちょ、いったんストップストップ!? 止まって! ストップ!! 五万とかどんな大金かわかってる!? もっとお金は大事に!」
赤色だけでなく水色だったり黄色だったりと色とりどりの色付きコメントが、次々と流れていく。
最初は普通のコメントが多かったのに、だんだんと色付きが増え始めていきついには無色のコメントのほうが少なくなる。
いくら探索者として成功しているとはいえ、金銭感覚を壊さないために、あとは学費の一部や生活費を親戚に出してもらっており姫乃も扶養に入っているため、それを超えないようにと一回で数十万する額の核石は売らずにとっている。
収益化を達成したのでもうそんな扶養がどうのとか言っている必要もなくなったので、今後は入手した核石を売りに出していこうと考えていたが、そういう背景もあって姫乃の金銭感覚は一般の女子高生のそれと変わりない。
なので姫乃にとって五万円は大金。それは今後も変わらないだろう。
そんな大金が、次々と赤スパという形でぶん投げられてくる。
”¥50000:五万がどれだけ大金かわかっているからこそ、今投げているんだよ姫様”
”¥10000:あれだけクッソ面白くて普通にためになるやばい配信をただで見させてもらうわけにはいかんのよ。普通に有料級の情報ゴロゴロですぜ?”
”¥10000:お金を大事にしていたからこそ今ここで投げるんだよー!”
”¥9999:配信者業界はいつ飯が食えるかわからない場所だから、投げられるうちに投げておくんだよ。姫様にはいつまでも美味しいご飯をたくさん食べてもらって、いいお洋服を着ていてほしいから”
”¥3000:一部のリスナーにとって五万は端金なんよ”
”¥20000:俺にとっちゃ端金じゃないけど、何人も言ってることだけどあんなおもろいものをタダで見続けるわけにはいかんのよ。面白いと思うものには、きちんと対価を支払う。これが基本よ”
「ぼ、ボクはただ、自分がやってて楽しいこととかをやってるだけなのに……」
美雪に言われて始めた配信活動。やるからには自分がやってて楽しいことをやろうと決めて、需要がいつまでも高いしやりたいこととマッチしている解説込みの配信を続けてきた。
評価されるのは嬉しいことだ。嬉しいことなのだが、その結果がこの赤スパ祭りだ。
姫乃の方からはこの配信で投げられたスパチャの合計額というのが見え、もう既に百万を超えているという事実に脳がフリーズする。
とりあえず、ご飯は温かくて一番おいしい時に食べておくべきなので、もぐもぐと白米を食べる。
「……もう投げられちゃったものだしどうしようもないから、今後の活動資金とかボクの生活費の足しとかにさせてもらうけど、お金は本当に大事にね。マジで」
もはや一周回って冷静になった姫乃は、ガチ目のトーンでリスナーに言う。
一人暮らしになった時、親戚からの支援が来るまでの少しの間は本当に辛かった記憶がある。
何をするにしても、何を買うにしても、何を食べるにしても、あらゆることにお金がかかる。幼かった姫乃はそこのところをよく理解しておらず、本当に大変な思いをした。
中学生に上がるころにはお金のありがたみを重く理解して、今もその価値観は揺らがない。
自分の配信に来て楽しんでくれて、お金を投げてくれるのはありがたい。そのお金をきちんと使って、活動のクオリティを上げたり生活水準を上げるまではいかずとも、それを維持して今の生活を続けるつもりだ。
でもそれはそれとして、この年で一回の配信で大金を稼ぎ過ぎると感覚が壊れそうで怖い。なので少しは自重してもらいたいところなのだ。
「……って言ってるのに、なんで一向に投げるのを辞める気配がないのかなぁ!?」
大事にと言っているのに、リスナーたちは「わかった」と言いながらスパチャを投げつけてくる。何が分かったというのか。
その後も特に勢いが収まることもなく、ガンガンスパチャが飛んできた。
メンバーシップなどについて聞かれたが、値段とそのプランの特典内容をまだ決め切れていないので、とりあえず最低金額の100円の「超絶気楽に支援するプラン」というのだけを作り、それを告知。
配信に来てくれている三十万人のうちの大半が一斉に加入してくれて、緑色の加入を示すコメントが流れていった時は頭を抱えそうになった。




