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Lost Record Lisette Side ランチボックス前夜  作者: Kentarou Tou


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2/2

シーン:コロニー市街地、晴天



人工の空は、あまりにも青かった。

整備された遊歩道には買い物袋を提げた市民が行き交い、噴水の水音が穏やかに響いている。

その中を、軍服姿のリゼット・ハウゼン准将とマティアス・クロイツァー大佐が並んで歩いている。


ふたりの会話は、何気ない散歩のように見えた。

だが、足取りだけがわずかに速い。


マティアス

「聞いたか。このコロニーに、例の軍艦が停泊しているという話」


リゼット

「あら。また誰かの見間違いではなくて? この時期に、そんなものが辺境コロニーへ?」


マティアス

「見間違いにしては、目撃証言が多すぎる」


リゼット

「それに、連邦の新型艦の話も、妙にタイミングが合っている」


マティアスは小さく頷いた。


マティアス

「本来は宇宙艦だ。だが、資料上は大気圏内飛行にも対応している。ホワイトベース級と同じ思想だな。宇宙から降り、地上を飛び、必要なら再び空へ戻る」


リゼット

「連邦は、そんなものをここで何に使うつもりかしら」


マティアス

「少なくとも、見せびらかすためではない」


通りの向こうに、宇宙港へ向かう高架通路が見える。

リゼットは足を止めず、目線だけを向けた。


リゼット

「上層部は何と?」


マティアス

「確認中につき静観せよ、だとさ」


リゼット

「便利な言葉ね。何も起こらなければ自分たちの判断。何か起これば、現場の暴走」


マティアス

「そういうことだ」


リゼットはわずかに笑った。


リゼット

「では、私たちは偶然このコロニーに滞在中。第8大隊の面々も、偶然全員が近くにいる」


マティアス

「偶然とは便利な言葉だな」


リゼット

「ええ。使い方さえ間違えなければ」


ふたりは再び歩き出す。

宇宙港の巨大な外壁が近づいてくる。


リゼット

「もし、あの艦が本物なら」


マティアス

「見過ごすには惜しい」


リゼット

「危ない橋ね」


マティアス

「だが、渡る価値はある」


リゼットは高架の下、遠くに見える艦影を見た。

白く、角ばった、大きすぎる船。

宇宙を行くための船でありながら、どこか地上の要塞のようにも見える。


リゼット

「あれを海に沈めたら、どんな姿になると思う?」


マティアス

「船に失礼だな」


リゼット

「なら、箱かしら」


マティアス

「箱?」


リゼット

「お弁当箱」


マティアスは一瞬だけ目を丸くし、それから小さく笑った。


マティアス

「ランチボックスか。悪くない」


リゼット

「まだ奪ってもいない船に愛称をつけるのは、少し気が早いわね」


マティアス

「いや。名前がある方が、奪いやすい」


ふたりは足を止める。

視線の先には、連邦軍の警備ゲート。

その奥に、後のUR-651 Sargassoの母体となる大型艦が眠っている。


リゼット

「第8大隊を動かすわ」


マティアス

「命令書は?」


リゼット

「後で書かせる」


マティアス

「強引だな」


リゼット

「あなたほどではないわ」


マティアス

「なら、行こう。あの船を我々のものにする」


リゼット

「ええ。いずれ深い海へ連れて行くために」


画面は、宇宙港の扉へ向かう二人の背中で暗転する。

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