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父に現場の写真を撮るよう言われ、送信すると、父は折り返して電話をかけてきた。
『面倒なことになった』
「?」
『その桐の箱は、とても厄介だ』
卓上に転がる、桐の箱。
サイズは煙草の箱くらい。
高級そうな見た目から、私は茶葉ではないかと思っていた。
黄色いカエルの意匠が施されている。
「あ」
後ろで香織がつぶやいた。
「これ、奈緒子が言ってたやつだ」
「何?」
「思い出したの、蛇の夢について」
顎に人差し指をあてて言う。
「どうして忘れてたんだろう? 奈緒子はね、友達になった仲良しの蛇が、道端で出会った黄色いカエルに睨まれて死んじゃう夢を見た、って言ってたの」
『その桐の箱の中身は、冬虫夏草』
「とうちゅう、かそう?」
『虫に寄生するキノコのことだ。滋養強壮の薬として、高価だが、普通に出回っている』
「へえ」
『だが、そのマークがあるものは危険。はっきり言って、別物だ』
「別物? っていうと……偽物ってこと?」
『いや、どちらかと言えば、ホンモノだな』
「ホンモノ……」
『怪異の側に寄るのは、案外簡単なんだ』
父が呟いて、こう続けた。
『ばあさんの髪と、その桐の箱をこっそり拝借して、今すぐそこを離れろ』
そのとき、杉田宅の玄関のインターホンが鳴った。