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【書籍化】現代陰陽師は転生リードで無双する  作者: 爪隠し
第8章

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変わる才媛 side:雫



 これは、夢でしょうか。

 小学校低学年の頃、お母様主催で開かれた源家懇親会にいるようです。


『私の好きな人は〜神楽君!』

『わかる〜』

『私だけ言わせるのズルい! みんなも教えてよ』

『私はやっぱり安倍君かな〜』

『王道だよね』


 派閥の子達が集まり、他愛無いお喋りに興じています。

 仮にも派閥の中心人物ということもあり、私も会話に混ざっていました。

 相変わらず私の求める大人の会話が成り立つことはありませんが、そういうものだと理解していれば、話を合わせることも可能です。


『源さんはだれが好き?』


 好きな人。

 そんなもの、考えるだけ無意味でしょう。

 私達の結婚相手は家長が決めるものです。

 婚姻とは、家と家の繋がりを強化するための契約なのですから。

 しかし、ここで正論を言っても意味がないことは知っています。

 なので、模範解答を用意しておきました。

 この手の話題は何度も繰り返されるので。


『尊敬できる人です』


 お母様がそうおっしゃっていました。

 尊敬できる人と結婚できれば、夫婦生活は幸せなものになると。

 お母様にとってはお父様が尊敬できる人物のようです。


『やっぱり安倍君が好きってこと?』

『もっと年上の人ってことじゃない?』


 確かに、同年代の男の子に魅力は感じませんね。

 晴空さんは比較的理知的ですが、尊敬できるほどではありません。

 そもそも、結婚自体が契約でしかないのですから、好きという感情にいったいなんの価値があるのでしょうか。



 〜〜〜



 昨晩こんな夢を見たのは、今日のお茶会に集まる相手が奇しくも同じ方々だからでしょう。

 皆さん一度お母様から離れた出戻り組です。

 峡部さんの宣言を受け、フラフラと派閥を変えにきました。

 お母様は『来るもの拒まず』の方針としているので、私も感情は別として受け入れることに。

 今は私のご機嫌を取ろうと、彼女たちが必死に話題を繋げています。

 もうそろそろ反応してあげましょうか。


「やっぱり、晴空様みたいに明るい人が好きかなぁ」

「私は神楽君みたいな王子様に守ってもらいたい!」


 昨夜見たのは予知夢だったのでしょうか。

 またこの話題になるとは。


「雫さんは誰か好きな人はいますか?」


「尊敬できる人です」


 答えは変わりません。

 最も無難で、本心に近い答えです。

 歳を重ねた今なら、お母様の仰っていた意味が理解できます。


「誰だろう」

「晴空様かな」


 誰かを指しているわけではありません。

 源家の長女の発言は政治的な意味を持ってしまいますから。

 そんなことを考えることなく、彼女たちは嬉々として議論します。

 好きにさせましょう。


「やっぱり峡部君とか?」


 ……っ!


「陰陽術すごいもんね」

「勉強も何気にすごいよ。1年生の時は掲示板に名前載ってたし」

「OFUDAにいっつも討伐実績出てるよね」


 ……そうですね。

 ですが、彼の尊敬すべきところはそこではありません。

 たくさん、たくさんあるのです。




 〜〜〜




 私は幼い頃、鬱屈とした感情を抱えていました。

 今だからこそ分かるのは、あれは孤独感によるものだった、ということです。

 同年代の子供達と会話が成立せず、無意識にストレスを感じていたのでしょう。

 人間は仲間と群れて生きる、社会的動物と言われています。

 分かり合えない子供がいると理性では理解できても、本能がそれをよしとしなかった。


 だからこそ、峡部さんとの出会いは私にとって救いでもありました。


『おかしいのはどちらかというと私たちの方ですよ。だから、気にする必要はないかと』


 『私たち』という言葉によって、孤独感を埋めてもらったのだと、今なら分かります。

 それからも、峡部さんは私に新しいものの見方を教えてくれました。


 ──運動会でも。


『学校での思い出は、大人になって集まった時の定番の話題の一つです。ここには安倍家から末端の陰陽師まで全員揃っているから、話題に困った時は最強のカードになりますよ』


 遥か未来を見据える考え方は、私にはないものでした。


 ──神社巡りでも。


『相手に興味を持った方がいいということですよ。義務だから会いにきた人間よりも、あなたに興味があります、好きですって思っている人間の方が、神様も好感を抱きやすいとは思いませんか?』


 超常の存在を人の思考に当てはめる。

 始めはナンセンスかと思いましたが、超常の力を持つ峡部さんが言うなら信憑性があります。

 対象が人間に好意的な神であれば、理解できる話でした。


 ──仕事でも。

 

『他人に任せて何か危険なサインを見逃してしまったら、完璧な仕事とはいえないでしょう。最後まで責任を持ってやりたいです。もちろん、時間がない時はその限りじゃないですけど』


 学園での行動を見ていると、峡部さんは私と同じくらい効率を重視しているはずです。

 ですが、丁寧な仕事ぶりや依頼者へ寄り添う姿勢は、効率とはかけ離れていました。

 思い出されるのは、いつかお父様が仰っていた、陰陽師のあるべき姿。妖怪を倒すだけでなく、人々の悩みを解決する。それができて初めて一人前なのだと、そう仰っていました。

 依頼後の評価も最高評価が多く、結果として効率も良くなっています。


 そして思い出されるのは、昨日の出来事。


 身内の不始末を任せきりにするわけにはいかないため、私は密かに会場へ向かいました。

 お母様が嫡男派閥へ潜入させている者に手引きさせ、懇意にしているホテルの一室から会場の様子も監視できます。

 いざという時は、緊急の妖怪討伐という名目で峡部さんを連れ出す手筈です。

 これは彼には伝えていません。


『せっかくです。ひとつ余興なんていかがでしょう』


 会場では計画通りにことが運びました。

 やはり第二夫人の思考は読みやすいですね。自らの権力にのみ固執し、性急に結果を求める。

 だから、根回しもそこそこにこのような問い掛けをしてしまうのでしょう。


『うちの子こそ、源家の次期当主に相応しいと思うでしょう? ねぇ、聖君?』


 とはいえ、今回の計画は全て峡部さんの気持ち次第で変わります。

 私から見ても、嫡男派閥からの提案は魅力的に見えました。

 私達を見捨てて鞍替えしてもおかしくないくらいに。

 峡部さんはどう答えるか……。


『さぁ? それを判断するのは源家当主です。僕ではありません』


「っ! ふぅ……」


 峡部さんは、本当に私達の味方でいてくれました。

 言葉だけならなんとでも言えます。

 以前聞いた『味方ですよ』という言葉も、いつか反故にされる可能性があると考えていました。

 しかし、お母様が劣勢の時でも、どれだけ第二夫人に優遇されようとも、峡部さんは裏切らなかった。

 彼は行動で示してくれました。


 けれど、これだけで第二夫人が諦めるとは思えません。

 むしろ、峡部家も攻撃対象に加えてくるはずです。

 お父様にも相談すべきでしょう。

 そう思っていましたが、峡部さんは自分で解決してしまいました。


『源さん……雫さんは、俺にとって大切な幼馴染です。戦場では盟友として力を合わせていくことになるでしょう。俺のパートナーの平穏を脅かすということは、俺の平穏を脅かすことと同義です』


 そ、そこまで言っていただけるとは……。

 第二夫人が追い縋るのも予想外でしたが、峡部さんの言葉はさらに予想外でした。

 そして、その後のパフォーマンスも。


『誰の機嫌を損ねるべきでないかくらい、貴女にも理解できましたよね』


 いつでも殺せるという明確な脅し。

 対象にされていない私ですら恐怖を覚えました。

 厚顔無恥な第二夫人でも、これは堪えたようです。

 画面越しですが、ここまで血の気が引いた顔を見たことがありません。

 これならば、峡部家に手を出すことはないでしょう。

 峡部さんの目的は達成されました。

 後はこの場を去るのみです。

 

 なので、この後に続く言葉は全くの予想外でした。


『雫さんは早熟なので忘れがちですが、彼女はまだ中等部2年の少女です。人から害意を向けられれば相応に傷つきます。大人の諍いに巻き込むのはやめてください。それでは、失礼します』


 彼に弱っている姿を見せたつもりはありませんでした。

 大切にしていた楽器を壊された日も、第二夫人の悪行を伝える時も、顔に出さなかったはずなのに。

 なぜ、わかったのですか?


「峡部さん……」



 彼はお父様と私の命を救い、お母様に平穏をもたらしてくれました。


 私の大切に思う人達を、守ってくれました。


 私自身も……。




 〜〜〜

【side:聖】



 恵杜さんとの一件からしばらく。

 あれからお母様の方に勧誘が来ることもなくなり、九尾之狐討伐メンバーも粛々と仕事をこなしてくれている。

 源さんの派閥は勢いを取り戻したようで、母親の家中での発言権が戻ったと感謝された。

 母子揃って長い付き合いだ。笑顔で過ごしてもらえるならなによりである。


 俺はいつも通りの日常へと戻った。

 今日も秘術の授業を受け、後は家に帰るだけ。

 一般生徒たちにとっても放課後の時間であり、ピアノの音や部活の掛け声が遠くに聞こえる。

 そんな時、珍しいことに源さんからお誘いがあった。


「峡部さん、一曲聞いていただけませんか」


「秘術の練習ですか? いいですよ」


 秘術習得に必要とかで、源さんからよく分からない音色を聞かされたことがある。

 龍笛を持っているから今日もその続きかと思ったら、違った。


「いえ、練習ではありません」


「秘術を習得したということですか?」


「いえ、そういうわけでもありません。ただ……」


 彼女は言葉を探すように瞳を揺らす。


「ただ、貴方に聴いてほしいと……。そう、思ったのだと……思います」


 珍しい。

 源さんがここまで口籠るなんて。

 彼女の脳みそは高速回転しているから、あやふやな言葉を滅多に使わないのに。

 何があったのかわからないけれど、生演奏を聴かせてくれるというのだから断る理由などない。


「源さんの演奏を通して聴くのは初めてですね。楽しみです」


「ご期待に添えるよう頑張ります」


「そこまで気負わなくても」


 そうして始まった源さんの龍笛コンサート。

 その音色は、聴いているだけで心が動かされる不思議なものだった。

 走り出したくなるような、胸が苦しくなるような、そんな不思議で心地よい音。


 さて、どんな感想を伝えるかしっかり考えないと。

 俺は芸術的感性が乏しいから。

 でも、今は、この音色に集中したいな。

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