7連召喚
空飛ぶタクシー便で実家近くへ戻ってきた俺は、訓練場を訪れていた。
大蛇の中に入れなかったサトリも、現地へ到着した直後に瞬間移動してくる。
──♪
「どうしたサトリ」
こんなに大きくなっても甘えん坊なやつめ。
別れていた時間が寂しかったのか、体を擦り付けてくる。
この数年で俺よりも体高が高くなり、がっしりとしてきた。
今なら騎乗することもできるだろう。
──♪
あれ、今日はなんだかいつもの甘える感じとは違うような?
俺の気持ちを察してケアしてくれてる?
霊獣とのコミュニケーションを楽しんでいると、親父も訓練場へやって来た。
「む、先に着いていたか。待たせたな」
「お父さん、急に来てもらってごめんね」
「いや、戦力増強は峡部家の必須事項だ。聖の後に私も召喚する」
「わかった」
そう、この場に来たということは、式神召喚の儀式をするということである。
九尾之狐討伐の報酬やら、詩織ちゃんの治療やらで、今年もかなりの収入が見込める。
税金対策のために召喚道具を購入しておいたので、今日はパーッと使う予定だ。
「……聖、学園で何かあったか」
「特にないけど?」
そうか、とだけ返す親父だが、俺の変化に気づいている様子だった。伊達に十年以上父親をしてない。
親父が指摘した通り、今の俺は状態異常『ストレス』に苛まれている。
大人の寛容さと子供っぽい苛立ちは両立する。明里ちゃんを責めるつもりはないが、当初の計画がポシャったのは事実。
頭では婚約者の可愛い我儘と理解できていても、子供の肉体は正直なようで。
クリスマスイブのデートでモヤモヤを抱えた俺は、実益を兼ねたストレス発散をすることにした。
「ちょっと格の違いをわからせる戦い方するけど、止めないでね。報酬の霊素を下げる実験でもあるから」
「聖……やはり、何かストレスを感じているのか」
「そんなことないって」
女の子のわがままに振り回されたからストレス発散するとか、器が小さいと自分でもわかっている。
絶対親父に言いたくない。
(自分で解決するし……)
どんなことでストレスを感じたとしても、それをうまく解消するのが大人である。
自分のご機嫌は自分で取る。
召喚での調伏は絶好の機会だ。
「聖は7回、私は3回だな」
「ほんと、高くなったよね。陣を描く手が震えるよ」
残念ながら、召喚用の素材が高騰したため、同じ予算でも10回召喚できなくなった。
それというのも、陰陽師学園で一気に需要が高まったからだ。
陰陽師科の高校三年生は卒業時に式神を与えられる。その儀式を行うために必要な素材は、召喚用の素材と重複している。
儀式用にまとめ買いされる一方で、手作業で作られる素材は早々供給が増えない。
結果、価格が高騰したのだ。
おのれ、陰陽師学園め!
「私はこっちを清める。聖はそっちを任せる」
「はーい」
訓練場を祓い清め、儀式の準備を終えた。
乳歯を使い切った今、代価は前髪を使うことにする。
霊素を使える俺は少量でたっぷり力を込められるから、数本ずつ使えば問題ない。
「望む式神のイメージはできたか」
「うん」
たくさん殴れるやつがいい。
焔之札一枚で倒せるような雑魚は要らない。
とにかくストレス発散できそうなやつでお願いします。
ちゃんと智夫雄張之冨合様にもお祈りしておいた。
さぁ、7連式神召喚スタート!
「峡部家が嫡男、峡部 聖が願い奉る。天地を繋ぐ大いなる霊力に託し、心魂を宿す叡智の術を以って、異界より式神を召喚せん。天地の調和を――」
印を結びながら召喚の呪文を唱えると、辺り一面に煙が立ち込め始めた。
もはや慣れたものである。
何が出るかな?
「グルルル」
「おっ、狛犬だ」
当たりっちゃ当たりだけど、俺の望みを叶えるものではないな。
向こうは当然一方的な契約を嫌い、戦いを挑んできた。
「──焔之札」
「ギャンッ」
はい、おしまい。
九尾之狐の欠片と連戦していることで、このサイズの獣の動きは見慣れたもんよ。
札一枚に程よく霊素を込めたら一撃である。
全身火だるまになった狛犬は、あっという間に炭化した。これにて調伏完了。
「歯ごたえないなぁ」
「……狛犬はなかなか強い部類だぞ」
親父の言う通り、狛犬系統の式神は戦闘でも頼りになる当たり式神である。
ただなぁ、脅威度6弱相手には役者不足なんだよなぁ。
我が社の採用基準はかなり高いから仕方ない。
続けて式神を召喚していくも、5回連続で齧歯類だった。
こっちは明確にハズレだな。
「次はいいのが来ないかなぁ」
半分諦めの境地に至った俺は、次に現れた式神を見て目を見開いた。
「何あれ? 大きい壁?」
初めて見る系統の式神だ。
なんだろう。
いや、石っぽい見た目で壁といったらアレを連想してしまう。
「お父さん、あれ、塗り壁かな」
「おそらく」
我が家の歴史ではほとんど召喚されたことがない系統だ。
見た目通り、防御に優れているのが特徴らしい。
なかなか使い勝手が悪いとも記載されていた。
契約は拒否され、戦闘が始まるが……動き遅っ!
ちっさい足でよちよち歩いてくる。
そのペースだと1分くらいかかるけど、近接戦しか攻撃手段ない感じ?
敵である俺が心配になるくらい攻撃されまくると思うよ。
「──竹槍之札」
外見からして、属性は土か金といったところ。
五行相剋の観点から、まずは木で攻撃した。
木は土を跳ね除けて成長する。
大地から勢いよく伸びた竹槍が塗り壁を突いた。
パラリ
塗り壁の体表が崩れ落ちた。
効いている。属性相性は良さそうだ。
しかし、竹槍は体表で砕け散り、致命傷には至っていない。
これは予想以上の耐久力だ。
もう少し力を込めても死なないだろう。
「──竹槍之札」
霊素ではなく、重霊素を込めた。
生えてくる竹槍も剛性が増し、今度こそ貫けるはず。
バキッ
パラリ
また同じ結果になった。
竹槍が砕け、体表が崩れる。
これは……。
「聖! 油断するな! 近づいてくるぞ!」
のそのそ竹槍を踏み越えてやってくる。
その足取りに臆した様子はない。
自分の耐久力に自信があるのだろう。
智夫雄張之冨合様、ありがとうございます。
こいつは俺が望んだ通りの式神だ。
「──竹槍之札──土槍之札──弾之札──水球之札」
安い紙に安い墨で粗製濫造した札。これらに第参精錬霊素を少量と、俺のストレスをぶち込んだ。
出来上がるのは、同時操作可能な100枚の札の乱舞である。
オラァ! 蜂の巣にしてやるぜ!
ドドドドドドドド
サブマシンガンをフルオートでぶっ放している気分だ。銃を撃ったことはないけど。
塗り壁の下であらゆる札がそれぞれ発動し、爆発の中心地となっている。
札を操作してフルボッコにした俺は、最後の一撃として捻転殺之札を懐から取り出した。
札に第陸精錬霊素を込め始めたところで、俺たちはある異変に気付く。
「む、塗り壁が小さくなっている」
親父の呟きが全てを表していた。
攻撃の度に体表が砕けていた塗り壁は、100連撃によってその身を削られていったようだ。
もともと俺より大きかった塗り壁が、今では小型犬くらいのサイズになってしまっている。
塗り壁はポテンと倒れ伏すと、そのまま塵となって崩れ落ち、風に乗って消えていった。
「ふぅ……スッキリ」
力の限り暴れ回ったような爽快感がある。
塗り壁は良いサンドバッグとなってくれた。
とはいえ、戦闘としては一方的な圧勝だったので、報酬はかなり渋めにしておこう。
いやぁ〜、それにしてもラッキーだった。齧歯類連発で諦めかけていたおかげで、物欲センサーを回避できたのかな。いやいや、智夫雄張之冨合様にお祈りしてきたのが良かったに違いない。
帰りに御礼参りしてこよう。
戦闘が終わったので、親父がやってきた。
「あの式神、お前の攻撃を真正面から受け止めていたな」
「そうだね。ちょっと驚いた」
並の式神にはできない芸当である。
防御力特化だとしても、ほぼ無傷だったことは信じ難い結果だった。
「一撃で一定のダメージしかくらわない。それがあの式神の特性なんだと思う」
「それは……恐ろしく有用な特性だな」
重霊素をたっぷり込めた時も、少量の霊素を込めた時も、砕ける体表に差は見られなかった。
毎回脱皮することでダメージを受け流されていたような感じだ。
その代わり、弱い一撃でも体表は砕けてしまう。
「移動能力は皆無だから、盾役だね」
「上手く使えば無傷で戦うことも……今まで大きな怪我をしたことはなかったな」
そうなんだよね。
身体強化してるし、安全マージン取ってるから。
戦闘でどう使うかは、これから考えよう。
「次は私だな」
「頑張って」
なお、親父は3体とも齧歯類だった。
覚悟はしていたのだろうが、俺が当たりを引いただけに密かに落ち込んでいた。
そんな親父が別れ際に再度聞いてくる。
「学校のことで悩みがあるなら話しなさい」
「さっき解消したから大丈夫」
「……そうか」
当たりも引けて、陰陽術で大暴れして、予は満足じゃ。
明日からの学園生活も楽しむとしよう。





現代陰陽師は転生リードで無双する 肆