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【書籍化】現代陰陽師は転生リードで無双する  作者: 爪隠し
第8章

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方違え



 九尾之狐は囁いた。


『デートなら、女は男に甘えるものだ。お前の不満を素直に吐き出せ』



 〜〜〜



 クリスマスイブ。

 どこぞの偉人の誕生日の前日という、冷静に考えると何のありがたみもない日だが、日本では親しい男女がこぞってデートする一大イベントである。

 これまでの俺だったら、リア充爆発しろ、と念じていたことだろう。

 だがしかし、今日は違う。


「おはようございます、安倍さん」


「おはようございます、峡部さん」


 前世を通して初めて、クリスマスイブにデートをする。

 今年は俺の方がリア充爆発しろと念じられる側になるのだ。

 この日のために、春の時点で明里ちゃんのスケジュールを確保しておいた。

 前世では成し得なかった、悲願の一つである。

 当然、エスコートできるように準備はしっかりしておいた。

 移動手段も、ランチのお店も、おやつの和スイーツ店も、イベントの特別観覧席も、全て予約してある。万全だ。


「それじゃあ、公園に行きましょうか」


 今日のデートは、百合華ちゃんオススメのクリスマスイベントへ向かう。

 目的地は大阪にある海沿いの公園。屋台が出店し、特設ステージに有名な楽団が招かれ、夜にはライトアップされるらしい。

 去年開催された時はSNSで映える写真が撮れるからと、若い女性に人気だったとか。

 百合華ちゃんも『オシャレして、イケメンの彼氏とクリスマスデートしたいなぁ』と言っていた。

 いつも通り阿部家の送迎車で移動を始めようと、車のドアを開けたのだが、明里ちゃんは動かなかった。


「あの……」


「どうかしましたか?」


 俺の問いに、明里ちゃんは躊躇いながら口を開いた。


「峡部さんと遊びに行くにあたって、色々と占ったのです。方位についても。……太白神が南西にいらっしゃいます。本日向かう予定の公園も、南西にあるのです。なので──」


「姫様! それは!」


 途中で秘書の女性が遮ろうとする。

 しかし、明里ちゃんは言い切った。


「なので、行き先を変えませんか?」


 明里ちゃんが気にしているのは、方違(かたたが)えだな。

 方角の吉凶を占い、凶神のいる方向に直接向かうのを避ける陰陽道の風習だ。

 昔の人は別の方角にある寺院に一度宿泊し、一夜明かしてから再出発することで災いを回避していたらしい。

 とはいえ、23日にも授業があった俺たちには使えない方法である。

 現代では神社の御守りを買うという代替手段もあるが、今からじゃ間に合わない。

 それならいっそのこと、目的地を変えてしまおうと、明里ちゃんはそう言いたいらしい。

 

「もっと早くにお伝えすればよかったのですが、言うか否か悩んでいたのです」


「峡部様、姫様が我儘を言い申し訳ありません。今の言葉は忘れて、予定通り進めましょう」


 秘書さんがここまで介入してくるのは珍しい。

 いつもなら挨拶以外に言葉を発さないのに。

 それほど、明里ちゃんの提案が受け入れられないということだろう。


 実際のところ、方位の占いは現代においてそれほど重視されていない。

 風水など、現代でも活躍する場面はあるが、移動においては完全に忘れ去られている。

 そもそも、平安時代の頃から日本人全員が方位神を意識していたはずがない。凶方位を避けていたのは一部の特権階級のみである。

 交通機関が発達した現代で、方角により移動を制限されてしまえば、まともに生活もできない。

 経済的にも生活的にも、一個人が気にする必要はないものと考えられている。


 秘書さんが明里ちゃんに向けて言う。


「姫様、この件は口にすべきではないとお伝えしたはずです。突然どうされたのですか」


「峡部さんは来週、九尾之狐の欠片と戦うと聞きました。でしたら、少しでも運を味方につけた方が良いと思いまして」


 な、なるほど。明里ちゃんはそこまで考えてくれたのか。

 なら、婚約者の思いやりを無碍にするべきではないのでは?

 デートプランは完全に崩れてしまうが、代案がないわけではない。

 俺は2人に向けて申し出る。


「わかりました。行き先を変えましょう。秘書さんには悪いですが、このコースで問題ないか確認してもらえますか?」


「……こちらの都合で申し訳ありません。確認いたします」


「絶対にその方が良いです。神より賜りし占いの結果を無碍にするものではありません」


 生き生きと語る明里ちゃんを見て、秘書さんは終始申し訳なさそうにしていた。

 デートコースについては特に問題なく、秘書さん公認で代案に決まった。

 さっそく車に乗り込み、近場の水族館へ向かう。

 たくさんの魚を観察し、イルカのショーを楽しんだ。明里ちゃんも時折笑顔を見せていたし、代案にしては悪くなかったと思う。


 そろそろランチタイムだ。

 もともと予約していた店は行けなくなったから、近くでいい店を見つけないと。

 あっ、当日キャンセルだから100%支払いか……。もったいない。


「少し歩いたところに料亭がありました。そこはいかがですか?」


 良い感じに格式高そうな和食処を見つけた。

 安倍家のお姫様をそこらのチェーン店に連れて行くことはできない。

 予約もなしに飛び入りできるか怪しいが、まずは電話してみなければ。

 さっそく番号を打ち込んだところで、再び明里ちゃんが躊躇いがちに言う。


「和食も良いのですが、今日は洋食の気分です」


「えっ……あぁ……そういう日もありますよね。ちょっと待ってください。今探してみますね」


「姫様、ちょっと!」


 秘書さんが明里ちゃんを連れて行った。

 俺はその隙にお店を検索する。

 車で行く距離になるけれど、有名なシェフのいる洋食店が見つかった。

 秘書さんと一緒に戻ってきた明里ちゃんは、開口一番に謝ってきた。


「峡部さん、わがままを言って申し訳ありません」


「いえ、安倍さんが行きたいお店に連れて行くのが一番ですから。このお店はいかがですか。席も空いているみたいです」


「はい、よろしくお願いします」


 無事に食事を終え、帰路に就く。

 我々は中学一年生なので、性なる夜に突入することはない。

 さすがに中学一年生相手に欲情することはないし、なんならまだ精通すら来ていない。

 健全なお付き合いである。


 帰りの車中、俺は会話を途切れさせないように最近あった出来事を語る。


「この前教わった札を改良してみたら、見事に失敗しまして。庭の芝が燃えてしまいました」


「まぁ……それは大変ですね」


 なんだろう、明里ちゃんの反応が冷たい気がする。

 普段はもう少し興味を持ってもらえるのに。

 いや、疲れてるんだろうな。

 クリスマスイブという特別な日だからか、いつもより本音を曝け出しているようだった。

 婚約者として、この程度の我儘くらい受け止めてやらねばなるまい。

 今年行くはずだったイベントは来年行けば良いのだし。


『秘書さんへ 

 お疲れ様です。今日はフォローしてくださりありがとうございました。私は気にしていないので、安倍さんをあんまり怒らないであげてください』


 大人として、秘書さんにメールを入れておくのだった。


 


 〜〜〜




 一人自室へと戻った明里は、はしたないことに着替えもせず布団に転がった。


「はぁ……」


 彼女は今日のデートを振り返り、ため息をつく。

 準備を任せておきながら、ずいぶんと沢山の口出しをしてしまった。

 しかし、ずっと口にするのを我慢していたことでもある。


「スッキリした……」


 出かける前に占わないことを、明里はずっと気にしていた。

 同じ陰陽師なのに、なぜ占いの結果を気にしないのか謎だった。

 これまで我慢していたことを吐き出せて、明里は心が晴れやかになった。


「でも、気を遣わせてしまいました」


 そして、自己嫌悪に陥る。

 秘書に言われていた通り、彼女はこれまで我慢してきた。

 安倍家ほど占いを重視する家は、一般的に存在しないと知っているから。

 相手が考えてくれたデートコースを急に変えるような提案が失礼であると知っているから。

 それでも、不満に思っていたこと自体は嘘ではない。

 ゆえに、心の隙間から生じた甘言に乗せられてしまった。


「食事も──」


 昼食のお店変更のお願いも、本音を告げた。

 秘書にはしこたま怒られたが、それでも和食より洋食の方が好きなのは事実である。

 これまでデートでは和食ばかり誘われて、うんざりしていた。


「会話も──」


 帰りの車の中でも、興味のない話題にはあまり反応しなかった。

 これまでは婚約者として会話を合わせようとしていたけれど、無理はよくない。

 そんな気がしたから。


「好き勝手してしまいました」


 よくないとわかっていても、やって良かったと思う自分がいる。

 そして、聖はその我儘を全て受け入れてくれた。怒るでもなく、しょうがないなと言いたげな笑顔で対応して見せた。

 その優しさが、彼女の罪悪感をより一層深めるとも知らずに。


 深い眠りについた夜、自己嫌悪によってさらに心の抵抗が弱まった明里に、九尾之狐が囁く。


『申し訳なく思うなら、男が喜ぶことをしてやればよい。ぼでぃーたっちでもすれば喜ぶだろう。己の不満を隠す必要はない。これからも己に正直になれ』


「正直に……」


 次のデートで突然手を握られた聖は、喜ぶよりも明里の突飛な行動に驚くのだった。

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