六十五話 術式を見つけたのですね
部屋の中は不自然な暗さで、開いた扉から入ってくる光でルリと受付嬢が見える。
ここは二人を先に出してあげないと。
ルリのほうに近づくにつれて、何かが身体の周りを引っ張るような感覚があった。これがもしかしたら、魔力を吸い取られている現象なのか。
何か若干動きにくい感じはするけど、普通に受付嬢を担いでいるルリの手を取って入り口まで戻った。
「ふぅ。とりあえず、入り口まで戻れてよかった」
「……ありがとうございます。あのままだと、わたしも危なかったと思います」
受付嬢はぐったりはしているものの、わずかに動けるようだった。
「どうしたんでしょうか。急に目の前が真っ暗になりました!」
「……この部屋は危険です。今は中に入らないで下さい」
受付嬢は小さい悲鳴を上げて、身をよじって下がろうとするけど腕に力が入っていないようで全然動けていない。
「少し調べてみるよ。このままだと何も解決しないからね。ルリは二人を回復してあげて」
「……でも、一人では危険です。わたしも一緒に行きます」
「大丈夫。これは相性の問題だと思うんだ。コレは俺のほうが得意だから、回復はルリに任せるよ」
「……分かりました。カイト、気を付けてくださいね」
再び暗い部屋の中に足を踏み入れる。
どう考えても、この中に何かいるよなぁ。
受付嬢が倒れた辺りまで歩いて行くと引っ張られる感覚がくる。
俺のほうが強い魔力で全身を覆っているから何ともない。
子供に軽く引っ張られる程度だし、ふらつくことも無い。
「おっ、また来てる。どこだ……」
引っ張られている先を魔眼で視る。
ぼやっとしか視えないな。
「もう少し深く視てみるか」
すると無数の黒い何かが天井や床から無数に伸びてきて引っ張られていた。
触手のようなクネクネした動きが気味が悪い。
「な、何だこれ。こんなに黒いのがウジャウジャして気持ち悪っ」
次々に黒い触手が俺に纏わりついてくるけど、おそらく魔力を吸い出せていないせいなのか膨大な数が天井から床から襲い掛かってくる。
「よくもまあ、こんなに数いるなぁ」
無数の触手にくるまれていて繭のような状態なんだろうな。目の前は真っ暗だし、身体中に巻き付いてきて何が何でも魔力を奪い取りたいみたいだ。
残念だけど、俺を覆う魔力のほうが強いおかげで奪われずに済んでいる。
この暗がりで深く視ると天井に術式があった。
その中心には魔石が組み込まれている。
こいつが魔力を奪う根源だったのか。
黒い触手の元を辿ると床のほうにも同様に術式があった。
「術式見つけたんだけど、これ破壊しておけばいいかな?」
「……術式を見つけたのですね。破壊してください。それで魔力が奪われる現象はなくなるはずです」
「相性ねぇ、言うだけあるじゃない。ルリの言う通り、やっちゃってよ」
「お願いします! カイトさん!」
三人の声を受けて、魔力を集中する。
魔力を纏ったままだと、少し魔力のコントロールが不安定になる。
だけどこの程度なら問題ないな。
俺は気持ち悪い触手の源である術式に向かって、二つのマナボールを形成させる。
「了解! これで、消えてしまえ!」
天井と床の術式の中心にある魔石を貫くと、部屋の中が明るくなった。
あの黒い触手は消え去って、術式も完全に影も形もなくなっていた。
「……やっぱりカイトは凄いです」
「急に明るくなったわ。あの暗闇でよく破壊できたわね」
ルリとキリリが驚いたように俺を見ていた。
中央の魔石破壊しただけなんだけど、まじまじと見られると照れるね。
「か、会議室が明るくなりました! あ、あれは……みんな!」
あれだけぐったりしていた受付嬢は部屋の中に駆け出すと何かに気付いたようだった。部屋の隅に乱雑に乗せられた大きな布がかかっていて、足らしきものが見えていた。
受付嬢は勢いよく布を引っ張ると、そこにはぐったりとした人たちが折り重なるようにして横たわっていた。
「い、いました! 職員のみんなが! どどどど、どうしましょう!」
受付嬢の声にルリが急いで倒れている人の状態を確認する。
真剣な表情で一人一人の呼吸や脈を取っていた。
受付嬢が心配そうに見守っている中、ルリは頷くとこう言った。
「……非常に弱ってはいますけど、命に別状はありません。もう少し発見するのが遅れていたら、厳しかったかもしれません」
そう言うとルリは呟くように小さく呪文を唱えた。
倒れていた職員の人たちが淡い光に包まれると、少し表情が柔らかくなった。
「……極端に魔力が少ない状態なので、身体の回復機能を活性化させました」
「ああ、そっか。魔力は回復できないんだっけ」
「……はい。自ら回復してもらうしかありません」
神様は一瞬で回復してくれたけどなぁ……あれは比較しちゃいけないやつか。うん、絶対にそうだ。何度も生き返らせられて身に染みて分かっている。
レノは無理やり病原の根を引き抜いたせいだと思っていたけど、やっぱり自力で魔力を回復していくしかないって話だったからね。
「さて、この人数どうしようか……」
「……人手なら沢山いますよ、カイト」
その後、冒険者たちに手伝ってもらいギルドの職員を宿舎まで運んでもらった。もちろん仕事なんてできる状態じゃなくなったので、ギルドはお休みとなった。
そんな事態は前代未聞だったみたいだけど、事の成り行きを説明すると皆は協力的で行動も早かった。何より、ルリがお願いしたおかげで動きは迅速に終わった。
すべてが終わった頃には、周りは暗くなり街灯がともり始めてきた。
「ギルドの人たちが無事でよかったね」
「……はい。衰弱程度で済んだのもカイトのおかげです」
「お二人とも本当にありがとうございました。ギルドの皆も明日休めばいつも通りに動けるなんて信じられないくらいです!」
ギルドの受付嬢は少し興奮したように言う。
「今日は遅くなっちゃいましたので、ギルドのほうで宿を用意したのでそちらにお泊り下さいね!」
ルリは俺のほうを見て、どうするのか伺っている感じだ。
まあでも、大した事した訳じゃないしなぁ。
迷っているのを見てなのか、キリリが俺の背中を叩いてきた。
「こんな事は中々ないんだから、泊まっておきなさいよ。ギルドで用意した宿だから結構いいわよ。あたしたちは、家にいるから何かあったら連絡しなさいよ」
キリリの後押しもあるし、とりあず受付嬢のお礼を受けることにした。
「ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えて」
「はい、ではこちらです!」
宿までの途中でギルドの冒険者用の宿はまた別にあるとか、まだ色々残りの仕事があるとか、近くのお店で美味しい屋台があるとか色々教えてくれた。
「防音もしっかりしているので、大丈夫ですよ。ごゆっくりお休みください!」
それだけ言い残すと、受付嬢は去って行った。
まだ仕事があると言った時の泣きそうな顔が、少し元いた世界を思い出させた。
どの世界でも、仕事の辛さは一緒なんだなと。




