六十六話 連絡は頻繁にしないように言われています
「なるほど、キリリが中々ないって言うだけあって、外観も普通に良さそうな感じだね」
「……はい。来賓用なので普通の宿よりも良いとの話でしたね」
中に入ると思ったよりも綺麗な内装で清潔感があった。
豪華という訳ではないけど、上質な調度品が置かれている。
受付の人らしい女性に声をかけると、すぐに返事が来た。
「カイト様、ルリ様でございますね。ギルドから連絡は受けております。こちらのお部屋へどうぞ」
宿の受付の人に部屋を案内されると、ルリと少し話をして去っていた。
テーブルに二人分の椅子、化粧台や奥に大きめのベットがあった。
広いし綺麗だからちょっといい所のホテルみたいな感じだ。
「ふぅ……。何か、普通にホテルにいるような感じが落ち着くなぁ」
もう異世界だって理解はしているけど、やっぱり元いた世界に似た場所にいると落ち着くもんだね。
「……ほてる。ここと似たような場所なのですか」
「まあ、そんな感じだね」
俺が椅子に座るとルリも向かいに座った。
ルリを見ながら、さっきの黒い触手の事を思い出す。
あの術式が魔力を奪っているのは分かった。
だけど、何の為かというのは想像もできない。
町の外壁の術式もいまだに気付かれないくらいの極々少量の魔力を奪っているんだよなぁ。瞑想でもしていなければ、本当に気にもならない量だ。それが長期間続けばとんでもない量になるだろう。
そして、今回の急とも取れるようなギルド内部での術式の設置。
あんな分かりやすい広い会議室でわざわざ強引に魔力を奪いにくる必要があったんだろうか。
「……あの、カイト。気持ちは分かりますが、まだ時間的に早いのかと……」
「え、早いって何が?」
聞き返すと、ルリは顔をそらして頬を赤らめていた。
どういう事だろう。
急に赤くなるって、あの高熱出た時と似たような感じだ。
まさか、また無理したせいで熱が出たりしているのかもしれない。
俺は手を伸ばすと、ルリの額に手を当てた。
何故だかルリはビクッとした反応をしている。
「エルが使った魔法から抜けるのに力を使ったせいで疲れている?」
あんな巨大な樹に閉じ込められて、中から脱出したんだから疲れもするか。
「……いえ、あの程度は何ともありません。心配していただいて、ありがとうございます」
ルリは微笑んで返してくる。
何というか、自然だ……こうして改めて意識すると全然自然に感じる。
こんなに小柄なのに、魔力はここにいる誰よりも断トツで高い。
おまけに加護まで持っているから、それだけでは測れないだろう。
神様の魔力でルリは目覚めたけど、それは予定外の存在か……本当は何者なのか聞いたら答えてくれるんだろうか。それとも、ルリ自身も何も知らないのかな。
そういえば、神様で思い出した。
異質なものが分かったら伝えるように言ってたな。
レノの異質なものの正体は『病原の根』だった。
それも会話ができる奇妙なヤツだ。
俺の事を仲間とも言ってたけど、これも伝えたほうがいいのかな。
伝えなかった場合を少し考えてやめた。
全部話そう。隠すなんてとんでもない、うん。
「あのさ、ルリ」
「……は、はい。あの、今ですか?」
「うん、今だよ。分かっていたんだね」
「……わかりました。大丈夫です」
何かルリが身構えるような感じで硬い表情をしている。
さっきから、どうしたんだろう。
まあ、あれか。やっぱり、神様と話すのに緊張するのかな。
俺もちょっと話すとなると最初は緊張するからなぁ。
「神様に連絡してほしいんだ。異質なものについて伝えるように言われたからさ」
事の経緯をルリに話すと納得してくれた。
さっきの硬い表情はどこかに行ったようでよかった。
あの表情を見ると、最初の時の人形みたいな感じに見えるんだよなぁ。
「……連絡は頻繁にしないように言われています。けれど、母様からの用件であれば仕方ありません」
ルリは椅子から立ち上がると、祈りを捧げるような体制になる。
こうしていると、神官と言われれば確かにそう見える。
祈りを捧げる神託の巫女……過去に見た少女のような無垢で穢れの無い姿は、神の使いとも呼べるくらい神聖なものに見えた。




