六十一話 どうせ貴様らは終わる
ハーシルドのいるであろう場所は地面がえぐれていた。
殴られた頬を抑えながら呻く声が聞こえた。
やっぱりウォルフのあの拳を受けて立てるはずがないわ。
それを受けて平然としていたカイト何者なのかしら。
「バカなバカなバカな、そんなバカな事があるか……あの魔道具を使ったんだぞ……」
ウォルフがハーシルドを見て、声を上げた。
「ハーシルド! 何をブツブツと言ってやがる! 」
「『審問官の補佐』を語るのは重罪よ! 『断罪の黒水晶』が壊れたことで証明されているわ!」
断罪の黒水晶は魔術で破壊されることはない。
ならば、魔法はどうかと言えばおそらく同じ。
魔術も魔法も発現する種類は違うだけで、それまでの工程がまったく違うだけだからだ。アース・レイの『魔法』を使った事ではっきりとそれは実感できたわ。
「うるさい、うるさいぞ、たかが人間が!!」
ハーシルドの手を地面に手を置くと、そこから揺れるように闇が広がった。
それは、とても触れていいようなものに思えない。
「ウォルフ! それ、触れたら駄目よ!」
「げっ! 逃げ切れそうにねえぞ!」
話している間にもこぼれた水のように広がっている。
魔力が残っていないあたしは魔術は使えない。
ウォルフがあたしを抱きかかえると、諦めた様に言った。
「こりゃダメだ。キリリ、いいからとにかく逃げろよ」
ウォルフの腕に力が入ると、あたしを投げようとした時だった。
急速に闇が消えていったのだった。
□□□□ カイト視点
急いでドードル町に戻ると、何度か響く大きな音が俺たちを出迎えた。
少し前を走っていたガレイムの足が止まる。
「何だ!? 音は町の中からっぽいな」
音はガレイムの言う様に、町の中から聞こえてきた。
「ルリ、何の音だか分かる?」
「……カイト、あれです」
ルリの指さす方を見ると、土煙が上がっているのが見える。
何か変な……何とも言えない嫌な感じがする。
「とにかく、早く行こう。皆、気を付けてね」
「……はい!」
「行こうぜ!」
到着するとそこには、ハーシルドが顔を抑えて片膝をついたままうずくまっていた。そして、ウォルフはキリリを抱えている所だった。
何でキリリを抱えているのかと思えば、ハーシルドから変な真っ暗な闇が広がっていた。
「ルリ、あの黒いヤツ何か分かる?」
「……これは闇属性の魔術みたいです。どうしてハーシルドさんが……」
ハーシルドが抑えている頬が何か黒く見える。
ガレイムが前に出ると、双剣を取り出した。
「こんな町の中で魔術使ってんじゃねえぞ! ハーシルドォォ!」
双剣がハーシルドに向かって勢いよく飛ぶが、片手でつかんで受け止めた。
すると広がっていた闇が止まった。
「ガレイムか! 貴様らどいつも邪魔だな!」
闇はレノに巣くっていた『病原の根』に似ていた。
魔眼で視ると魔力が一点に集まっている場所がいくつかあった。あの時は体内にいたから直接狙えなかったけど、これなら問題なくいけそうだ。
俺が撃ったと思われない様に、マナ・ボールで魔力が集まっている箇所を撃ち抜くとハーシルドから出ている闇が小さくなっていった。
「なっ、何だ? 何故消えている!? さっきから、一体何が起きてる!?」
ハーシルドが立ち上がろうとするが、膝をついて倒れそうになる。
マナ・ボールは本当に見えていないんだ。
ルリも気づいていなそうだったけど、すぐ俺のほうを見て確認したようだった。あれ、視えてなかったのかな。
「どうしたよ、ハーシルド! ウォルフに殴られたんだろ。立てるはずがねえ!」
「クソッ! ……分が悪いか。まあいい、どうせ貴様らは終わる。残り僅かだ。ハッハッハ!」
そう言うと笑い声を残してハーシルドは自ら生み出した闇の中に沈んで消えてしまった。ガレイムが投げた剣を残して本当にどこかに移動したようだ。
あの何とも言えない嫌な感じが消えているからね。
「助かったぜ、ガレイム。あのハーシルドの野郎に一発決めてやったぜ!」
「頬を抑えていたアレだろ。ざまあねえな!」
「一応、少し周りを気にしなさいよ。まだいるかもしれないから」
ウォルフたちはまだ辺りを警戒していたけど俺はいないのは分かっていた。ルリも一応警戒しているような様子だった。
そうしている間に何故だかギルドの受付嬢が出てきて、最初にこの現場にいたウォルフとキリリに事情聴取をしていた。
「もうっ、どうして私しかいない時に面倒な事を起こすのよー!」
半べそかきながら、現場検証もしているようだった。
そんなにギルドに人がいないのか。
いつの間にかルリも一緒に手伝っていた。
「ああ! もうルリちゃん、何ていい子なの!」
何かルリが書くほうにまわって、受付嬢が調べた内容を口頭で伝えていた。
確かに一人でやっていたら、終わらなそうな様子だった。
受付嬢は額に手を置きながら、ため息をついた。
「えーっと……このえぐれている地面は舗装の必要あり。続く道なりに引きずったような跡。近隣の家の柵の破損、後は……」
「……家の近くに人が倒れていますね」
ルリの言う場所を見ると、ハースさんと例の盗賊が倒れていた。
受付嬢は近寄ると、倒れている二人を見ていて盗賊のほうの脈だけ取ると残念そうに頭を振った。
「盗賊の方は亡くなっていますね。ハースさんは顔色は悪いですけど息はあります」
ルリも確認したみたいで、頷いていた。
「……ハースさんの息が弱いですね。少し危険な状態かもしれません」
そう言うとルリはハースさんに手をかざして、魔術を使った。
「……彼の者の傷を癒し、その光であるべき姿に戻せ……リカバー!」
光がハースさんを包み込むと、表情が少しずつ良くなっていった。
回復って本当に凄いな、ハースさんの魔力の流れが良くなっている。
「え? ええええ!? ルリちゃんって、神官の方なの?」
ルリが何も言わずに口元に人差し指を立てる。
「ええっと、もしかして内緒?」
何も言わずに頷くルリにつられる様に、俺も一緒になって頷くのだった。




