六十二話 お願いがあるんです
受付嬢があたふたしながら、口を押えて激しく頷いていた。
極端な行動に吹きそうになりながらも、俺はハースさんについて聞いてみた。
「どうしてハースさんは、ここにいたんですかね?」
「そうですねぇ……家の外で誰かを待っていたとか?」
「……肉体的にかなり疲労が蓄積していました。それに精神的にも……ずっと起きていたような」
ルリが話しているとキリリが家の中から出て来た。
「ごめん。大丈夫そうだったから、先にレノの様子見ていたの。ウォルフとガレイムは家の中にいるわ」
そして、ハースさんを見てこう言った。
「まさか、ここにいるなんてね……ハースさんが最近まで行方不明だって奥さんから聞いていたのよ。ちょっとウォルフに頼んで家まで送ってもらうわ」
キリリがウォルフとガレイムを連れてきた。
「ハースさん、ここにいたのか。そんじゃ、家まで運んでいくぜ。ちょっとレノの様子も気になるからな、送ったら俺は家に戻ってるぜ」
手を振ると軽々とハースさんを抱えてウォルフは歩いて行った。
「んで、俺は何すんのよ?」
「ガレイムは、盗賊を安置所までよろしくね」
「俺が運ぶのかよ、ったく面倒くせえな。うっ」
キリリに冷たい視線を送られている事に気付くと気まずそうにして、盗賊を抱えた。
「おい、持ってくけどいいんだよな?」
ガレイムが言うと受付嬢は慌てたように返事をする。
「あっ。は、はい! 特に問題はなかったので、お願いします!」
「俺も今はちょっとレノの事が気がかりだから、さっさと戻るからな」
それだけ言うと、足早にその場を去って行った。
「それでね、ハーシルドの事なんだけど……」
キリリからハーシルドが家にまで来た事について説明を受けた。
「……では、ハーシルドさんは、お二人を殺しに来たという事なのですね。」
「そうよ、だからハースさんとこの盗賊は操られていて、あたしたちの後始末に連れて来たんだと思うわ」
「そう考えると辻褄が合うね」
「ええええ!? ハーシルド様がそんなことを!? ももももし、それが本当ならバルム様が黙っていないはずですよ!」
「「「……」」」
俺たちは、ハーシルドとバルムが今回の原因になっているのを知っているので黙ってしまった。受付嬢にどこまで話すべきか悩んでいる時にルリが言った。
「……ハーシルドさんの事は後で伝えるという風にはできませんか?」
「それって、黙っていてほしいって事ですよね。ギルドの受付嬢である私に」
「……はい。いつも通りの仕事をしていただけると助かります」
「報告も仕事の内に入るんですよ?」
「……それでも、お願いできませんか?」
ルリが頭を下げると受付嬢が慌てて否定した。
「あわわわわ! ルリちゃん、頭まで下げなくていいですよ! どのくらい本気なのかを確認しただけなんですよ」
「……ありがとうございます」
ルリが笑って応える。
すると受付嬢はルリを抱きしめて、こう言った。
「何ていい子なのかしら! あの、ルリちゃんを受付嬢に採用してもいいですか?」
「絶対ダメです」
という幾重にもわたる謎の攻防のやり取りのあと、残念そうにしながら受付嬢は通常の仕事に戻っていった。受付嬢のルリか……仕事ぶりとかは想像つかないけど、服装は似合っていそうだ。まあ、こんな妄想はどうでもいいか。
それにしても、ハーシルドは一体何なんだ。
普通、ああやって闇のたまりに消えて行くものなのか。
「ねえ、ハーシルドが『貴様らは終わる。残り僅かだ』とか言ってたけど、あれは何かしら?」
キリリが改まって聞いてきた。
「近い内に何かするんだろうとは思うけどね」
「……わたしも同じ考えです。今日明日の話ではないかもしれませんが、気を付けるしかありませんね」
「そう考えるわよね。あのハーシルドがああまで言うからには、余程『決定的』な何かがあるに違いないわ。それが何なのか分からないから対策しようもないのよね」
「……それは……いえ、何でもありません」
ルリは何か言おうとしてやめたみたいだった。
その時、受付嬢が駆け足で戻って来た。
「はあっ、はあっ。あ、あの! お願いが……お願いがあるんです!」
受付嬢は泣きそうな声で訴えてきたのだった。
一次通過記念で明日も一話アップします。




