四十九話 一体どれだけ蝕まれていたのか
それは聞いた人を安心させるような声。
こんな状況じゃなかったら、安心して眠りに落ちることが出来るような声だった。
俺はルリの声を耳にすると片目だけ魔眼を解いて、ルリを見た。
直接を見るのは初めてだし、ルリの使う魔法を見たいと思ったから。
「……その全ての感覚を手繰り寄せ、我が手の内に束縛せん……オル・パラライズ」
ルリの手から放たれた黄光がレノを包み込んでいく。
その中で細かい静電気みたいなものが発生していて、パチパチと小さな音が聞こえている。今の魔法で、ルリの魔力が一気に消えたのが視えた。
これは、早めに取り掛からないとルリが持たない。
「よし、それじゃやってみるよ」
「……はい。できれば早めにお願いします……残りの魔力が厳しいです」
レノの病原の根に向かって手を伸ばすと、細かい静電気が避けるように動いた。そう、両手に込めた魔力と反発しているおかげか。
―――ギギギギイイイイ
病原の根をつかもうとすると、もの凄い反発で握りきれない。
「な、何だコレ? つかめない」
表面で弾かれて、病原の根まで届かない。
ツルツルしている訳じゃないんだけど、単純に弾かれてしまうな。
「何なの今の音は?」
キリリが言うと他の皆も口々に同じ事を言った。
オグ爺、ウォルフ、ガレイムは完全に耳を塞いでいる。
キリリだけは少し眉を寄せるくらいで、木鱗を磨り潰していた。
「今のは病原の根を直接触ろうとして出た音なんだ。もう少し出るかもしれないから我慢してね」
「……カイト、あの音が長く続いてしまうと集中できなくなります。次も同じ事をするのであれば……」
ルリの魔力もほとんど無いから、次で決めないともう持たないだろう。
全身を麻痺させる魔法を使ったまま維持してくれているんだ。
ここは俺が頑張らないと、早くルリとレノを楽にさせないと。
「これで終わらせるよ」
病原の根は普通につかめるような感じではなかった。
俺の両手の魔力と病原の根を視て比べる。
同じくらいの濃さなのに、触れる事すらできないか。
そうなると魔力の力が拮抗しているからつかめないって考えられるな。
もっと両手に魔力を集中して込めてみるか。
両手の色がどんどん深く濃密な黒に、漆黒に染まっていく。
光すら通さないような黒まで魔力を込めた。
今度はいつもの倍くらいに魔力を込めた。
これだけ込めれば行けるだろう。
必要以上にやると何が起こるか分からないからね。
恐る恐る病原の根に手をかけると、小さくジジジッと聞こえるけど耳障りな音まではしなかった。
「これならいけそうだ」
指が病原の根に食い込むと、レノの全身に伸びていた病原の根の枝が波打って暴れ出した。蛸の足みたいに枝がうねっていて気持ち悪い。
「うおおっ! きもちわるっ!」
引っこ抜こうとすると、ブチッと嫌な音が聞こえる。
一瞬迷ったけど、こんなもの引っこ抜かないほうが身体に悪いだろう。
どちらにしても放っておけばレノは死んでしまう。
だったら、一気に引き抜くしかない!
―――ブチブチブチィィィィッ!!
『オォアアアアアアアア!!』
スローで再生したような低く呻く声が病原の根から聞こえる。
俺の手の中で暴れていて気持ち悪すぎる。
本当に何なんだこれは……。
レノを視ると、ほぼ魔力が抜けてしまっている。
心臓辺りの魔力が辛うじて残っているくらいだった。
いつ消えてもおかしくないような魔力。
魔眼で視た限りでは、この世界にはどんな物にでも魔力が宿っていた。
もし、その魔力がまったく無くなったとしたらどうなるのか。
「ルリ、その魔法を解いて! キリリはレノに木鱗の樹液を飲ませて! 早く!」
「……はい。終わったのですね、カイト」
ルリの言葉に応えると、レノにかかっていた魔法が少しずつ消えて行った。
「分かったわ。もう飲ませてもいいのね」
キリリが急いでレノに木鱗の樹液を飲ませると、顔色が良くなってきた。
さすがに一瞬ではないものの、それでも凄い即効性だ。
こんなの本当に万能薬じゃないか。
わずかに残っていたレノの魔力が樹液によって、倍々に跳ね上がるように増えていって全身に行き渡っている。
魔力は正常に血液が流れるよう全身を正常に満たしていた。
「凄い……いつもは発作が治るだけなのに、こんなに顔色まで良くなっているわ」
「久しぶりに見たな。何だよ、元々美人だったのに、すっげえ美人になったじゃねえか。さすがは俺達の妹分だな」
「ふむ。これが本来のレノか……一体どれだけ蝕まれていたのか」
ガレイムがレノに近づくと信じられないように、何度も目をしばたたかせている。
その手を取ると顏を隠してガレイムは小さくむせび泣いた。
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