003 Assassin(暗殺者)
私はアンヅゥスタン帝国の帝都にあるヅフトエスキ商会で働いてるものだ。私は帝都で仕入れたものを地方の町や村で売り、町や村で仕入れて物は帝都の商会で売るという、地方商いをしている、商人のデボイドという。
アンヅゥスタン帝国ティオイ貴族領の領都にいた時の事、ちょうどティオイの代官が殺される所に居合わせた。
あの時は門で魔法検査を受けて町に入り、ここの所領で商売をするための許可証をもらい、そのみかじめを払い終わり、役所から出たところだった。
役場前に横付けされた馬車から身分のよさそうな男が降り、役所に向かって歩き始めたとき、役場の建物陰から走って男に近づいている者がいた。広場で走ってるものなど皆無だったので自然とその者を凝視した。顔は隠されている。広場で顔を隠すのは、顔を見られるのが困る人なので悪人なのは間違いがない。
町に入るとき魔法検査があり、小魔法以上の使い手は魔法具で魔法が使えないようにされている。魔法具がつけられていないので、魔法使いだとしたら小魔法使いである。他の町では街に入るときに検査はしても魔法具までつけることは強要されない、それだけにこの町がちょっときな臭い感じがした。
服を見ても体に寸鉄を帯びてる感じもしない。悪人だとしても護衛の兵に取り押さえられるだろうとそのまま見ていると、悪人は上体を前傾に倒し、体を低くし、向かっていった。
そのとき両手の指先に25cm程度の炎がともった。そして指先でその炎は細く細くしぼられて、指先から長く長く伸びていき、光を発する糸のようになった。兵士の手前で悪人は地面をけり、体をそるように彼らを飛び越えていった。その糸は兵士と身分のいい男の間を抜けて、悪人を追いかけるように上に持ち上がった。炎糸が霧散すると同時に、悪人は地面に着地し、そのまま駆け抜けていった。
それから視線を兵士のほうに戻すと様子がおかしい、体のあちこちに黒い線が引かれた跡が無数についている。身分のよい男もそうなっていた。ひざから崩れるように前に倒れた。周りにいたものが悲鳴を上げ始めた。
ここからではよく見えないので10歩ほど前に出て様子が知れた。体がバラバラに刻まれ、先ほど見てとれた服や皮鎧に付いた黒い線あたりで体が切断されている。血が地面を全く濡らしてない。切断面は黒くなっていた。
あの炎糸は数万に届くような高熱を発していて、触れたものにまとわりつき、皮鎧を焼き、服を焼き、皮膚を焼き、肉を焼き、脂肪を焼き、内臓を焼き、骨を焼き、血管も焼きつくして、切断された。鉄をも瞬時に溶かす高温の炎の糸で焼き切られたのだった。金属が焼け、肉が焼けるにおいがあたりに漂っている。
そのあと広場にいた人々はクモの子を散らすように、近くの建物の扉に飛び込むように逃げ散った。私も同様にこの場にとどまるとろくなことにならない感じがしたので、荷馬車を連れて宿に入った。荷馬車は宿の倉庫と馬小屋に移動させて、宿に入った。
数人の部下と一緒にエールと食事をとりながら会合をした。エールを出したのは気分転換のためだ。普段はそんなことはしない。今後の商いの軌道修正を話し合うためだ。しばらく犯人をあぶりだすため街から出ることができないだろう。この街で仕入れるのは地方特産の高額品を仕入れる予定だったのだが、購入相手の貴族が用心して商談が流れるだろう。やれやれだぜ。この街の南方か西方の隣の貴族領の領都まで足を延ばし伝手を頼りに、今回の補填分を稼ぎ出さないと・・・・・・・。
こんな仕事をしていると、ああいうむごたらしい場面に出くわすことがある。俺は魔法と剣を組み合わせた自衛手段があり腕前もソコソコある。部下の腕もいいものをそろえている。数人の盗賊に相手にすることもある。決まってむごたらしいことになるのは盗賊のほうだ。剣戟の音と血のにおい、目を開けて恨むように絶命した盗賊、そんな風景はたまに見ることになる。
それを埋葬してと、もう慣れたもので、もう何も思わない。先ほどの場面でも何も感じなかった。やれやれだぜ。
炎を指先に顕現させるのはよく行われているが、指先の炎を細いものして、さらに高温にさせるのは、彼独特のオリジナルだ。複数の魔法回路を発現させているので、誰でもできることではない。習得に時間も練習も散々したことだろう。それにしても見事な手段のアサシンだったな。
魔法で冷やしたエールはやっぱりうまいな。
今後の仕事の打ち合わせも終わり、酒が入ってたこともありそのまま宴会になった。そのうち話が先のアサシンの魔法についてのことになった。酒場で大声でしゃべってるとアサシンの口封じに合いかねない。声を落として頭を寄せ合い、あの魔法の正体についての議論になった。
まず空間に現れる炎を手元に出現させてるオリジナル化。次に炎を細く絞るというオリジナル化。これについての特徴は超高温にまで温度を上げてる点、色が明るく白くなってるのでも、高温になってるのは間違いがない。
使われた魔法はあくまで小魔法。炎の出現、炎出現場所のコントロール、細くねじる秘密、炎の数百倍の火力上げの秘密、と最低で4つの魔法が組みあわせている。
細くねじるなら、風の魔法を組み合わせるといいと思ったのだが、この方法だと風の渦が熱の伝達クッションとなり温度を閉じ込めて、肉を焼き切るほどの超高熱にすることができない。
風の渦によってある一定の高温までは上がるが、それ以上が風のせいで望めない。
次元の魔法かとも思ったのだが、小魔法程度では発動時間と、発動にかかる時間がかかりあのようなタイミングで使うには無理がある。
発動時間が比較的長く、発動のタイミングも短い魔法・・・・・・???
「空間制御?」
いやいやいやっ。炎を細くすることはできるが、空間ゆがませているので高圧縮はできないし、次元による断熱がされるために熱が発生しない。糸の様に制御して、それをさらに動かすとなると、炎・空間制御・念動と3つの魔法を操ることになる。3つの魔法を操るには、魔法力が膨大でないとできない。それではまず街に入ることができなかっただろう。これじゃないな。
「念動?」
炎をひもの様に糸のように、高圧縮させることにより、炎の温度を上げる。千度の炎を圧縮をかけて数万の高温にまで引き上げる。炎・念動と魔法種も二つだけだ。それに効果は最小限で十分だ。
これは新しい魔法だ!すばらしい!悪事に使われてなければ、なお良かった!!