第7章:焦土作戦
荒木は血に染まった自分の手を見つめ、ため息をついた。それからリーダーに視線を向けた。
「ああ、俺にはもう何もない。俺の心は、一番愛した二人と共に消えてしまった。」
「それは悲しいが、残念だな。」リーダーは少し頭を下げた。「そういうことを言う奴はよくいる。」
リーダーは驚異的なスピードで走り去り、音速の壁を突き破ったかのような轟音を残した。
荒木は素早く両手を上げ、全身を超固体へと変化させた。
リーダーはすぐに荒木を幾重にも壁を突き破って押し出した。
家々を次々と突き破って。
「これはまずい。」
リーダーが荒木を家から家へと引きずりながら進んでいた時、突然動きを止めた。倒れたリーダーが荒木に激突し、荒木は地面に叩きつけられた。
「一体何だ!?」
リーダーはまだ朦朧としていたが、アラキのパンチを間一髪でかわさなければならなかった。そのパンチは凄まじく、衝撃波で半径500メートル以内の家屋がいくつも吹き飛んだ。
彼は一瞬のうちに3400発ものパンチを放った。
パンチがアラキの肉体に命中すると、摩擦による熱が全身に広がり、瞬時に彼を肉塊に変えた。
アラキの半身が崩れ落ち、血が辺り一面に飛び散った。
「はは…思ったより簡単だったな。」
彼が傲慢な自慢話を続ける前に…アラキは驚異的な速さで上半身の体勢を立て直し始めた。
「なんだ…ふん、本当にイライラさせるな。」
彼は突進を続け、今度はアラキを引きずりながら、摩擦で皮膚を潰そうとした。
しかし、アラキの手を掴んだ瞬間、まるで山を掴んでいるかのような重さを感じた。
「なんだって!」
荒木は冷静に彼を見つめていたが、その表情は160度変わり、体をひねって拳を繰り出した。上腕二頭筋の周りに微細な管が生え、空気を吸い込み、吐き出すことで推力を生み出し、マッハ1.4という超音速でパンチを放った。しかし、それでもこの男には遅すぎた。
[ヴォズッ]
一瞬のうちに、彼はパンチを軽々とかわし、荒木のシャツを掴んで40メートルも遠くへ投げ飛ばした。荒木は近くの家に激突した。
「自己紹介をしなくてはならないようだな」彼は突進し、複数の本棚の下敷きになった荒木の目の前で急停止した。その猛スピードと急停止で、書類が四方八方に飛び散った。「俺の名前はアイザック。俺の特技は、音速の20倍まで加速することだ」
「体を巨大化できるのはニューメン、超音波を発する叫び声を上げられるのはロベルト、体を石に変えられるのはウィリアム、虎に変身できるのはケンジ、超人的な力を持つのはE.m.E、筋肉を巨大化できるのはイスラだ。」
「お前は全員殺したのか。」
「確かに、お前には心がない。まるで野獣のように、予測不能だが、驚くほど簡単に始末できる。」
「…なあ、荒木獅鳥?」アイザックは独り言を続け、見知らぬ家の廃墟に声が響き渡る。天井の照明が崩れた壁に影を落とし、彼の顔に光と影の斑点を作り出す。「お前みたいな奴はたくさん殺してきた。自分の力が特別だと思っている奴。馬鹿げたことを信じている奴。」
彼は荒木の倒れた場所に倒れた本棚に向かって歩み寄り、革靴が割れたタイルに軋む音を立てる。彼は最後の木棚の端を掴み、ひっくり返そうとした。
「お前は自分が最初だとでも思っているのか?最強だと?特別な存在だとでも?私は何百人ものお前と出会ってきた。そして奴らは皆同じ末路を辿った――私の足元で、血の海に横たわり、敗北を信じられないといった表情で目を見開いていた。」
彼は一瞬言葉を止め、唇に笑みを浮かべた。その笑みは冷酷だったが、琥珀色の瞳の奥には何か別のものが潜んでいた――好奇心の光。まるでこの一方的な会話を心から楽しんでいるかのようだった。
「だから、私を失望させるなよ、この忌々しい花売り野郎。私が殺す時に叫べ。私が殺した他の奴らと同じように泣け。お前の本当の顔が見たいんだ――臆病者の顔を。」
[ドスン!]
彼は最後の本棚をひっくり返した。
埃と破片が辺り一面に飛び散った。アイザックは目を凝らし、瓦礫の下で苦悶する人影を探した。しかし、薄暗い天井の明かりの下では、床に血だまりがあるだけだった。血痕は暗い隅へと続いており、そこには傾いた古い木製の戸棚があった。
そして、荒木はそこにいなかった。
「何…?」
アイザックは凍りついた。左、そして右へと振り向いた。部屋はがらんとしていた。本棚はひっくり返り、ページがまだ宙に舞っているが、紫色の髪の男の姿はどこにもなかった。
「逃げたのか?」彼は苛立ちを込めた声で呟いた。「ちくしょう。俺の兄弟にあんなことをしておいて、よくも逃げられるな!」
彼は血痕の方へ歩み寄り、窓の外をちらりと見た。外は人影のない通りで、葉を落とした木々の間を吹き抜ける風の音だけが響いていた。足音も、物音も一切しない。異様な静寂が支配していた。
「出てこい、臆病者め!いつまで逃げるつもりだ?必ず見つけ出してやる!生きたまま皮を剥いでやる!」
アイザックは部屋の中央に足を踏み入れ、周囲を見回し、耳を澄ませた。彼の最大の武器はスピードだったが、それを使うには敵の居場所を知る必要があった。そしてこの瞬間、荒木は跡形もなく消え去ったかのようだった。
「まだここにいるのは分かっている。遠くへは行けない。血はまだ温かい。匂いがする。」
彼は血痕が途切れている暗い隅へとゆっくりと歩みを進めた。足取りはゆっくりと、しかし軽やかだった。琥珀色の瞳は大きく見開き、暗闇を突き破ろうとしていた。
「出てこい、この野郎。待たせるな…」
すると、背後――崩れかけた壁しかないと確信していた場所から――突然、手が伸びてきた。
その手が彼の肩を掴んだ。
アイザックは振り返ろうとしたが、もう遅かった。
【ドスン!】
凄まじい衝撃が彼の左脛を襲った。正面からでも、横からでもなく、壁の中からだった。荒木はどんなに狭い隙間もすり抜け、まるでゴムのように体を柔軟に変え、人間には到底通れないような隙間をすり抜けてきたのだ。そして今、彼はアイザックの背後にいた。手には鋭利な金属片が握られていた。
その金属片はアイザックの左脛を完全に切断した。
血がまるで壊れた蛇口のように噴き出した。脛骨は粉々に砕け散った。アイザックは短い叫び声を上げるのが精一杯で、変形した膝を抱えながら崩れ落ちた。
「ああああああ!」
彼の叫び声が、人影のない通りに響き渡った。しかし、誰も来なかった。神川市では、人々は暗闇から発せられる奇妙な音に干渉しないことに慣れていた。
荒木は立ち上がり、数分前まで傲慢に叫んでいた男を冷静に見下ろした。アイザックの血がズボンに飛び散っていたが、彼は拭き取ろうともしなかった。紫色の瞳は冷たく、感情を一切表に出さず、まるで今起こったことがミミズを踏み潰しただけの出来事であるかのように、無表情だった。
「おい、なぜもう走らないんだ?」荒木は落ち着いた声で尋ねた。「お前は速いと思っていたがな。」
アイザックは歯を食いしばり、額に冷や汗が滲んだ。彼の目は恐怖と怒りに満ちていた。立ち上がろうとしたが、切断された片足のため、片足で這うことしかできなかった。這うたびに、床には長い血の跡が残った。
「近づかないで…近づかないで…」アイザックは震える声で囁いた。
荒木は一歩ずつ近づいてきた。タイル張りの床に響く足音は、アイザックの最期の瞬間を刻む太鼓のようだった。
「お願い…お願い…」アイザックは瓦礫や崩れた棚にしがみつき、迫りくる影から逃れようと必死にもがきながら、這いずり回った。「殺さないで…ごめんなさい…全部ごめんなさい…」
彼は顔を向けた。その顔は、冷酷で傲慢なリーダーの顔ではなく、完全にパニックに陥った者の顔だった。目は赤く充血し、涙と鼻水が頬を伝っていた。
「お願い!お願い!何でも欲しいものをあげる!お金?お金ならある!たくさん!全部あげる!」
荒木は歩みを止めなかった。速くも遅くもせず、まるで自分の庭を散歩するかのように、一定のペースで歩いた。 「何でも言うことを聞きます!誓います!名誉にかけて誓います!」アイザックは泣きながら這いずり回り、子供のように震える声で言った。「もう二度と近づきません!消えます!もう二度と迷惑をかけません!」
荒木は立ち止まった。アイザックも立ち止まり、涙で濡れた瞳に一筋の希望の光を宿した。彼は息を切らし、まるで傷ついた犬が主人に許しを請うように荒木を見上げた。
「僕…僕は何でもします…」アイザックはどもりながら、震える声でほとんど聞き取れないほどだった。「靴を舐めます…食べます…もし言われたら、うんこだって食べます…」
彼は言葉を詰まらせ、唾を飲み込んだ。視線を下に落とし、そして再び上を見上げた。まるで何か素晴らしい考えがひらめいたかのように。
「あ…あいつ、チンポしゃぶってやるよ!いいかな?好き?しゃぶるよ!本当にしゃぶるから!命だけは助けて!」
アイザックは膝から崩れ落ちそうになり、両手を胸の前で組んだ。涙と鼻水が混じり合い、血に染まった床に滴り落ちる。彼は震え、痛みと恐怖で体が痙攣した。
「俺はまだ若い…死にたくない…お願い…お願い…」
アラキは彼を見つめた。
彼は、自分の母親のひまわりを踏みにじった男、自分の涙を嘲笑った男、これまで何百人も殺したと豪語した男を見つめた。
そして今、その男は彼の足元にひざまずき、命と引き換えにチンポしゃぶりを懇願している。
「なあ、アイザック」アラキはついに口を開いた。低く、かすれた声で、まるで石炭を飲み込んだかのような声だった。 「テレビで散々見てきた。死を前にして、強者が臆病になるのを。かつて恐れられた者たちが、恐怖に怯える虫けらと化すのを。」
彼は身をかがめ、アイザックの髪を掴んで強く引っ張り、無理やり顔を上げさせた。
「だが、お前は…奴らよりもずっと臆病だ。」
「お前は何年も人を殺してきた。奴らの苦しみを嘲笑ってきた。他人の命をゴミのように扱ってきた。」荒木はアイザックの涙に濡れた瞳をじっと見つめた。「それなのに、なぜお前の命だけが特別で、助けられるに値するんだ?」
「だって…だって僕は…」アイザックは言い訳が見つからず、どもりながら答えた。
「お前が怖いからだ。」荒木はアイザックの代わりに言った。「お前が力を使えなくなったら、ただの哀れな奴になるだけだ。」
彼はアイザックの髪から手を離した。彼は床に崩れ落ち、震えが止まらなかった。
「チャンスをあげよう」荒木は背筋を伸ばし、冷たい声で言った。「走れ。全力で走れ。超スピードを使って逃げろ。逃げ切れたら、命は助けてやる」
アイザックの目が大きく見開かれた。かすかな希望の光が彼の瞳に宿った。
「本当に…本当に?」
「ああ」
アイザックは考える間もなく、残った片足で立ち上がった。大量出血にもかかわらず、加速能力を発動させようとした。そして、彼は走り出した――ドアではなく、街灯が照らす壊れた壁に向かって。
彼は必死の男のスピードで走り去った。
荒木は右に目をやり、そこに小さな女の子が立っているのを見た。
「あ、驚かせてごめん」
荒木は一歩前に出て、膝をつき、少し身をかがめて彼女と目線を合わせた。
「怖かったかい?」
少女は小さく頷いた。
荒木は、アイザックとの戦いで破壊された家を見つめた。
彼は両手を合わせてから開き、あらゆるものを元の状態に戻すことができる自己修復性の塵の粒子を作り出した。少女の家も、彼が破壊したものも、すべて元通りになった。
「これで満足かい?」
少女は少し元気を取り戻し、頷いた。
荒木が立ち上がり、家を出ようとした時、少女が声をかけた。
「ありがとう、おじさん…」
荒木は振り返り、少し微笑んで言った。
「どうってことないさ。だって、君の家を壊したのは俺なんだから。」
荒木は家を出た。研ぎ澄まされた聴覚のおかげで、少女の両親が近づいてくるのが分かった。
荒木は前を見て、アイザックの後を追って走り出した。
アイザックは走った。かつてないほどの速さで走った。その速度はマッハ30近くに達し、人生で一度も達成したことのない記録だった。建物、道路、駐車している車――すべてがかすかな光の筋のように通り過ぎていった。
「走れ!走れ!走れ!」頭の中の声が叫んだ。「逃げれば命は助けてやるって約束したんだ!約束は守る!彼は…絶対に約束を守ってくれる…」
しかし、その瞬間、アイザックは自分が動いていないことに気づいた。
彼はまだ空中にいたが、足は地面についていなかった。何かが彼の足首を掴んでいた。アイザックは下を見ると、荒木の手が見えた。その手は彼の足を掴み、まるで木からぶら下がったカエルのように彼を上に引っ張っていた。
「僕…僕は走った…」アイザックは声を詰まらせながら呟いた。「こんなに遠くまで走ったのに…約束したのに…」
「約束したか?」荒木は考え込むふりをして首を傾げた。「ああ、そうだ。お前が逃げられたら命は助けてやると約束したな。」
彼はアイザックを引き倒し、冷たいアスファルトの上に仰向けに寝かせた。切断された脚からはまだ血が流れ、街灯の下で濃い赤色の水たまりが広がっていた。
「だが、アイザック」荒木はアイザックの傍らに跪き、低い声で囁いた。「なぜお前を走らせたか分かるか?チャンスを与えたかったからじゃない。ただ、死に直面した臆病者がどれだけ速く走れるか見てみたかっただけだ。」
アイザックは目を見開き、恐怖に顔を歪めた。
「だめ…だめ…できない…約束したじゃないか…」
「約束?ああ、約束した…だが…」彼はアイザックを地面に叩きつけ、同時に目から赤い熱追尾光線を放った。それは熱追尾光線というより、むしろ忌まわしい光線のように見えた。
アイザックは近くの服屋の方へ押し戻され、骨が粉々に砕け散る痛みにうめき声をあげた。
「お前みたいな奴に約束を守る理由などない。」
アイザックは叫んだ。残された力の限り、死を覚悟した者の絶望を込めて叫んだ。しかし、その叫び声はすぐに途切れた。荒木が両手でアイザックの頭蓋骨をゆで卵のように叩き潰したのだ。
血と脳髄、そして砕け散った骨の破片が店内に飛び散った。
荒木は立ち上がり、ぼろぼろになったジャケットで手を拭った。彼は首のないアイザックの死体を見下ろした。自称リーダー、長年にわたり数百人を殺してきた男、かつては自らの圧倒的な力を誇っていた男――今や店の中で腐敗した肉の塊と化していた。
彼はレジ係に振り向き、こう言った。
「警察か、とにかく助けを呼んでくれ。」
レジ係は震えながら頷き、携帯電話を取り出して警察に通報した。
荒木は警察に捕まることを恐れていなかった。自分の顔を撮影できる機器はすべて妨害していたからだ。
彼は店を出てマッハ2.6の猛スピードで走り去った。アイザックの首のない死体と、まだ修復されていない店を後に残して。
第7章 終わり




