427 魔力糸の効果と設置
竜神様との面会を終え、クロリナラドとルノアは自室へ戻った。
昨夜は隣り合う部屋で休み、互いの魔力を安定させた。そのおかげで、魔力糸も負担なく束ねることができていた。
「ノア、私も一緒に祈ろう」
クロリナラドが両手を差し出した。
「ラド様、ありがとうございます。では、一緒にお願いします」
ルノアは、束ねた大きな魔力糸を二人の手の間に置いた。
二人は手を重ね、心を一つにして祈りを捧げた。
「『浄化、癒し、回復、体力増幅、魔力増幅、前向きな気持ち、深い眠り』
切れることのない魔力糸が防壁となり、暗闇を照らす光となりますように。
避難先では、皆が心穏やかに、健康に過ごせますように」
二人の祈りに応えるように、魔力糸が白く神々しい光を放った。
その様子を福とサラたちが静かに見守っていた。
「サラ、地上部隊に渡してもらえるかい?」
「かしこまりました。山脈の頂に魔力糸を固定し、国境を越えないように防壁を設置完了したとの報告が届いております」
「そうか、ひとまずは安心だ。あとは、魔獣が向かうと予測される五か所を重点的に強化してほしい。
人族の匂いや魔力を追って山を駆け上がる場所も予測して、必要な箇所は魔力糸を二重、三重にしてくれ」
クロリナラドは地形を思い浮かべながら、さらに指示を続けた。
「スタンピード後の生活も考えて、木材を確保できる森林や水源、川を重点的に守りたい。ただ、復興に必要な平地まで囲うと、魔獣が山脈を越える可能性がある。
資料を見たが、北大陸では五百年ぶりのスタンピードだ。前回と同じ規模なら今の対策で対応できると思うが、今回は進路の予測が難しい」
「防壁の形状は、どのようにいたしましょうか?」
「場所に応じて余裕を持たせ、たわませたり膨らませたりして、魔獣の流れを抑えてほしい。
短い区間を直線で結んで重ねる方法も取り入れてくれ。
検証実験では、細かく区切って重ねた箇所と長い直線の二重構造を組み合わせた方が、長い直線を三重にするより強固だった。
地形に合わせて使い分けてほしい」
「分かりました。土地の確保は最低限にとどめる方が安全ですね。配置を再確認してまいります」
「よろしく頼む」
出発の準備を整えたサラヨに、ルノアが心配そうに声をかけた。
「サラヨ、本当に気をつけてくださいね。無理をしないように」
ルノアが祈りを捧げると、薄い緑色の光がサラヨの頭上から降り注いだ。
「『防御、浄化、回復、強化、幸運』」
「ありがとうございます。行ってまいります」
サラヨは一礼し、移転魔法で姿を消した。
サラヨを見送ったクロリナラドは、ルノアに向き直った。
「ノア、今週末は状況によって会えないかもしれないな。タスワンズ湖に戻る予定だよね?」
「はい。ラド様にお渡しする魔力塩や飴を作ります。以前から開発していた桃のおやつも、料理長と最終確認をする予定です」
「そうか。私ばかりもらってしまって、ごめんな。
学則違反になるから、私からは何も渡せないしな……」
「大丈夫です。ラド様の手作り飴を今回の滞在でたくさん食べましたから、頑張れそうです」
「腕輪で安定しているけれど、無理はしないように。福様、ノアをよろしくお願いします」
クロリナラドが声をかけると、福は安心させるように小さく頷いた。
「課題も大変だろう? ヴァリアードが竜皇国の大広間の照明を借りていったから、もしかしてと思っていたんだ」
「はい。私の魔道具の課題です。竜皇国の紋章が入っていたので、歴史を感じる重厚な照明だと思いました。
今では手に入らない宝飾品や宝石、魔石の見せ方も素晴らしくて……。凄く綺麗なんです。光の屈折まで計算された美しさや、技術者の意識の高さに魅了されました」
ルノアが目を輝かせて話すと、クロリナラドは少し照れたように視線をそらした。
「……ありがとう。そうか」
「えっ? あの……もしかして……」
「ああ。私の学生時代の卒業作品なんだ。壊れて使われなくなっていた古い照明を、もっと美しく光らせられるはずだと思って、光の屈折率にこだわりながら再生させたんだ」
ルノアは驚き、改めて照明のことを思い返した。
「なんだか、不思議と懐かしさを感じたのです。
魔石や手入れを通して、たくさんの方々の魔力も感じられました」
「大広間の照明は、皆が管理しやすいように改良したんだ。
あそこは広いし、昔は光の明るさが富の象徴とされていた時代もあったからな。一応、王城だろう?
見栄もあって、明るさにもこだわったんだ」
クロリナラドは懐かしそうに笑った。
「ただ、もっと少ない魔力で明るくできればよかったんだが、次の世代が今より多くの魔力を持つのか、少なくなるのかは分からない。だから、使う人の負担を減らすことを優先したんだ。本当は、いつまでも変わらず明るさを保てる照明を作りたかった。今でも、それは私の課題だよ」
「恒久的な明るさ……私にはなかった視点です。
少し考えてみます。とても参考になりました」
「うん。せっかくの課題だから、楽しんでほしい。今日は早めに移動門まで送るよ」
「はい。ありがとうございます、ラド様」
二人は部屋を出て、移動門へと向かった。
スタンピードへの備えは進んでいるものの、どれほどの規模になるのかは分からない。
避難する人々の無事を願いながら、それぞれが自分にできることを進めるしかなかった。
「また会おうね、ノア」
「はい。ラド様も、どうか気をつけてくださいね」
クロリナラドはルノアの手を優しく握り返した。
二人は次に会える日を楽しみに、それぞれの役目を果たすために別れた。




