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ここは後漢朝廷。百官や宦官といわれる者たちが欲望渦巻く、政治的中心地。
「王允殿~! ちょっと抜け出して奴隷市見に行きませんか?」
百官になりまだ数年である張温は、王允の所まで来て出し抜けにそう誘った。気軽に誘われた王允は、面食らいながら、白くなった髭を撫でた。
「……儂は行かぬ。お主ひとりで行ってきなさい」
随分長いこと朝廷に勤めてきたが、これほど年下に懐かれたのは初めてのことだ。
王允の性格上、尊敬されはしても懐かれることはなかった。
また実年齢より老いて見えるせいか、年上までもが勘違いをして首を垂れるほどだ。
「お忙しいのでしょうか?」
なのにこの張温だけは、まるで従兄でも相手にするように接してくる。
それが別に嫌なわけでもないが、単に行き場所が王允好みではなかった。
「そもそも、あのような低俗な所へ行くものではないぞ」
そのような会話をした気がする。
気がするというのは、いつの間にか丸め込まれ、張温と共に奴隷市まで来てしまったからだ。
「賑わってますね」