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マルクス「資本論」を読んだ

 いや、わからないね。さっぱりわからないね。何がわからないって、マルクス主義がわからないね。難しいね。とても難しいね。「資本論」ってあるでしょ。十九世紀にカール・マルクスが書いた経済学書。「経済学・哲学草稿」の続編で、文庫本で全九巻もあるやつ。これがわからないんだよ。難しくてね。

 有名だよね。とても有名な本だよ。読んだんだよ。ついさっき、読み終わったばかりなんだよ。長かったよ。読むのにめちゃくちゃ苦労したね。何が難しいかっていうと、難解な数学が書いてあるわけじゃないんだよ。出てくる数式は算数だよ。算数でわかることしか書いてない。経済の分析って算数が主体だからね。数学ってのは難しければいいってものじゃないから、経済学は算数でいいんだよ。たまに二次方程式とかは使うかもしれないね。まあ、でも、「資本論」は算数なんだ。算数だからってバカにしてはいけないよ。目的は経済の賢い理解であって、そのためには算数で充分なんだからね。

 しかし、マルクスの「資本論」は難しいよ。出てくる算数が、足し算をまちがえているってことを見抜いて読まなければならないんだ。だから、普通に読んだら理解できるわけがないんだよ。学問ってのは自分で考えなければならないわけだけど、ただ本に書いてあることを理解しようとするだけなら、「資本論」は理解できないよ。足し算がまちがっているんだから。この足し算は合っているんだろうかと批判的に読まないと「資本論」は理解できない。

 本を読んで足し算のまちがいに気付くことが、どれくらい人類の幸せに貢献するんだろうかね。労働者の待遇改善に関係あるんだろうか。足し算のまちがった経済学書を真剣に研究することが。

 「資本論」はさらにどんどん難しくなる。資本の摩耗をマルクスはプラスするんだけど、おれはこれはマイナスするべきなんじゃないかって思うんだよね。だから、「資本論」に書いてあることが経済学のあるべき形なのかどうか考えながら読まなければならないから、めちゃくちゃ難しいわけだよ。資本の摩耗をプラスするべきなのか、プラスもマイナスもするべきではないのか、マイナスするべきなのか、これは「資本論」を読んだだけではわからない。自分で考えて、マルクスに勝負を挑む覚悟で読まなければならない。マルクスは一流の経済学者ではある。それは認めるんだけどね。経済学者に勝負を挑む覚悟で読まなければならないのは、なかなかハードルの高い読書ではある。そんな読書をマルクス主義者たちはみんなしていたのか気になってしまうね。

 そして、「資本論」は、表の数値の意味を理解することが難しい。

 さらに、マルクスを訳書ではなく、原著で読む人たちが大勢いたんでしょ。哲学科や経済学部に。全九巻の長大な大作を外国語で読んで、さらに、そこに出てくる足し算があっているかまちがっているか検討しながら読むのは、かなりたいへんなんじゃないかって思うんだよね。

 こんな面倒くさい本が二十世紀の東西冷戦の東側陣営の聖典だったというんだよ。そんなことがありえたのかなあ。二十世紀の歴史っていったい何だったの。マルクスの「資本論」を一般人のほとんどは理解して読むことはできなかったと思うよ。

 おれは西側陣営の国に生きているから、東側陣営のことには疎いであろうとは思う。それを考えても、東西冷戦の東側陣営の聖典がこれだけ難解な本だとなると、いったい東側陣営は何を考えていたのかわけがわからないよ。たくさんあった社会主義国は、その国民はみんなマルクスの「資本論」を読むことを人生の重要な出来事だと考えて生きていたんだろうか。それはとても奇妙なことだ。マルクスの「資本論」は読み解いても、たいして重要なことは書いてない。だから、なおさら奇妙だ。

 おれが思うに、凄いのは、マルクスじゃなくて、レーニンなんだと思うんだ。レーニンは農民や労働者の待遇を改善するような革命を成功させた。それで、フランス革命以来、平等を目指していた世界中の人たちがレーニンの革命に続こうとしたんだ。それが東側陣営だと思うんだ。レーニンには、マルクスの経済学から得るところがたくさんあったのだろう。レーニンは、マルクスの経済学から得るところをたくさん読み取ったんだよ。それはいいさ。レーニンは凄いやつだからな。しかし、それはレーニンの突出した個性というやつで、平均的な理解を考えたら、東側陣営の聖典はマルクスではない方がよかったと思うんだ。何より、「資本論」って長すぎるよね。東側陣営は、根気強い読書家以外はその基本理念を確認することすらできないよ。

 東西冷戦ってのは、外交の作戦を世界的に調整して行われた支配体制なんだ。その区別を経済学の主義で行った。共産主義か、資本主義か。どちらもまちがっている。支配者層は、いちばん良い経済学は自分たちで独占して、庶民にはたいしたことのない経済学を与える。それが共産主義と資本主義だ。

 庶民は、共産主義と資本主義について考えて、そして、迷い戸惑い、混乱することになる。共産主義は、マルクスの「資本論」を最後まで読めるものがほとんどいないということで。資本主義は、お金持ちならお金持ちほど有利に生きることのできる経済体制であることを、思想扇動で惑わして庶民にそれがおかしいことを気付かせないことで。庶民は、二十世紀の東西冷戦の間ずっと支配体制に惑わされつづけた。

 資本主義がまちがっていることは、ユダヤ人はユダヤ人同士では利子を課さないことからわかると思う。

 二十世紀の歴史とは何だったのか。社会主義をめぐり戦争が起きつづけた。あれは何だったんだ。資本主義国家に逆らおうとする植民地たちの革命戦士を弱体化させるために、全九巻の「資本論」を読ませるように誘導していたのだろうか。「資本論」は労働者の聖典というような内容ではなかった。

 そして、味方の資本主義国家からは利子や配当金をデスクワークで奪うことができるように、資本主義が正しいかのように大衆を扇動していたのだろうか。

 世界規模の外交の調整をする人たちは、ここまで練りに練って仕掛けてくるものなのだろうな。恐ろしい。面倒くさい。難しい。

 マルクスの「資本論」は、岩波文庫だと文庫本で全九巻ある。マルクスの生前に出版されたのはそのうち三巻までで、マルクスの死後、エンゲルスが遺稿を整理して九巻まで出版した。おれが読んだ限りでは、経済学として価値のある主張は、生前に出版された三巻までだ。四巻から九巻まではあまりたいしたことは書いてない。四巻から九巻まではそれでもとても難解である。「資本論」を最後まで読んだ感想としては、生前に出版された三巻までで充分だということだ。


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